◆[山形市]霞城公園 雨に歌えば、黒い雲に笑いかければ(2022令和4年3月26日撮影)

曇り空からは雨粒が落ちてきそうだ。
桜はほんのちょっと先。
それでも霞城公園に人が絶えることはない。

「桜が咲く前に見でってけろ。このへばりつき具合ば」
蔦はこれでもかというくらいに自立できず樹木へ巻き付く。

「春なの来るんだがよ?」
「ほだごどいうんだごんたら、マナグばよっくど開けで見ろ」
パンパンに膨らんだ芽が、その時を待っている。

梅の雄しべたちは、黄色い先っぽをスイングさせて鼻歌歌う。

降り出した雨は開いたばかりの花びらに縋りつく。

雄しべたちは母親のように優し気な真っ白い花びらに見守られている。
その安心感があるからか、早春の大気へ割り込んでいく。

郷土館脇の梅林庭園に、雨に打たれた椅子が静かに佇んでいる。
継ぎ目にはまった枯葉は身動きできずに濡れそぼる。

「閉館だがら帰っべはぁ」
「んねず、表側から見っど開館なんだがら」
「郷土館側から見っど、いきなり閉館の文字が見えで、公園全体が閉館て思うべな」

よっくど見っど、郷土館の柱も踏ん張っているのがよくわかる。
「県民会館跡地さ市民会館ば造るんだごんたら、郷土館ばそごさ移設して、
向かいの裁判所もいねぐなるみだいだがら、ほごさ教育資料館ば移設したらいがんべ」
文翔館・郷土館・教育資料館がT字路に集まれば、それこそ誘客の強力な武器になる。

郷土館の陰にはまだまだ残雪がふんぞり返っている。
「落ちだ葉っぱは皆緑だどれ。なして常緑樹の葉っぱが雪の上さ散らばってるんだ?」

その薄さは定規のメモリでは測れないほど。
その生気はルーペで見ても分からないほど。
一冬の葉っぱの人生を思うと涙が頬を伝うようだ。

郷土館の庭には直径一メートル程の置き石がある。
春だからといって梅や桜ばかりを見るのは凡人。
私は変人なので、石に付着した苔を観賞した。
ほんの数ミリまでレンズを近づけたら、そこには異世界が広がっていた。

花壇の土からようやっと顔を出し、
初めて迎えてくれたのは雨の滴だった。

あんなにザラザラの土から顔を出し、手を広げて伸びをしている姿が若々しい。
「指の先なの艶々て輝いっだどれ」
思わず己の張りのないカサカサの指と逆さ爪を背後に隠してしまった。

「みんな揃って何歌ったのや?」
そう声を掛けたくなるくらい花たちの周りは湧きたっている。

一つ一つの花びらには生気が漲っている。
暗い小雨の空なのに、どう見ても未来は明るい。
滴を弾いて空へ伸びていく姿が見える様だ。

「来てみだのはいいんだげんと・・・」
「んだずねぇ、雨模様だしねぇ」
雨模様の中の咲き始めた紅梅白梅がいいのっだべ。

冷え切った金属は雨に濡れながら口を広げている。
「ほだなまんましったら顎関節症なてしまうべな」
体脂肪ゼロの体には体温というものがまったく感じられない早春。

乗り捨てられた自転車の篭には去年の葉っぱが乾ききって休んでいる。
もう話すことも出来ないだろう体からは小さな軋み音が聞こえてきそうだ。
「レンズ向げっだがらて無理して体ば起こす必要はないがらな」

「そろそろ菰ば外さんなねのんねがずぁ」
「開花予想だど4月の前半だしなぁ。あどわずかだじゃあ」
肩肘を杖で支えながら桜は出番が近づき、少しずつ気持ちが高まりつつある。

どれだけ風雪に耐えてぶら下がっていたのか、
どれだけカチンカチンの氷からいじめられてきたのか。
それでも松かさたちは春を迎えようと、気持ちだけでなんとかぶら下がっている。

「河原の排雪場の雪は山みだいになったったんねが?」
「春になってもありゃ溶げねべな」
「あ、ほだごどゆてらんね」
ベンチたちも桜が咲く前にちゃんと乾いて座れるように準備さんなねんだっけ。

バサリと斜め下に垂れ下がる枝は、
やっと雪の重みに苦しむことはないと安堵している。

自分にとってはルーチンになってしまった蛇口覗き。
なんぼよっくど観察しても、その表面に桜の色は微塵も見えない。
仕方がないのでちょっとだけ水を出してみた。
その膨らみにも黒々とした細い枝が写り込む。

「あちゃこちゃ向いで何してるんだ?」
規則性もなく、皆勝手な方向を向き勝手な思いに耽っている。
「な〜んだ。皆して春の先兵ば探しったっけのがぁ」

なんぼ空は暗くても、笑いかけなければならない。
なんぼ雨でも歌わなくてはならない。
そうしないと春は気分よくやってきてくれない。
枝たちはそれを体で知っている。

ふと本丸沿いの花壇に目を向ければ、打ちひしがれたような花びらに滴が一杯。
「元気出せ。もうちょっとでパリッと咲く事がでぎっから」

本丸脇には腰かけ用の磨かれた石が何個も配置されている。
その磨き込まれた座面に早春の雨が張り付き、
鏡のようになってグレーの空と黒々とした枝を映しこんでいる。

「あったかい人々のケッツが載せられんのは間もなくだがらなぁ」
冷え切った石の座面に言い聞かせる。

「やっと暇になたずねぇ」
「何したらいいがわがらねぇ」
「何にもすねで、このままでいっどいいのっだなぁ」
スコップやダンプは暗がりで密かにこれからのことを心配する。

トイレ前の手摺に滴がぶら下がっては右下へツツツーッっと滑っていく。
手摺は斜めに出来ているので留まっていることができない。
季節だって留まっていることはない。
ちぇっとは早ぐ来たらいがんべ春の陽気。

車内にそそくさと入り込み、凍える指から手袋を引きはがす。
フロントガラスの無数の水滴の中には、いつ解体されるかも分からない無数の県体育館が入り込んでいる。
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