◆[山形市]千手堂 早春の黄色と青色と白色(2022令和4年3月12日撮影)

ついに来た。
春が来た。
「蜂は眩しぐないんだが。ほだい目ばおっぴろげで」
黄色い色は日差しを全身で受け入れて光輝く。、

杉木立を通して見える奥羽の山並みは青白く連なっている。
軽トラは気持ちよさげにその山並みをじっと見入っている。

「暖かくて気持ちいいずねぇ」
「箪笥さ入てんのやんだはぁ」
「あど来年まで出番ないんだじゃあ」
吊るされた洗濯物の会話をセメントに寝っ転がった影たちが聞いている。

「ほっだな細っそい体で一冬ば越したのが?」
青い空に針を刺すようにな枯れた茎たち。

田んぼから雪が徐々に引いていく。
引いた後からは去年の残骸が顔を出す。

「いやぁ、たまげだぁ」
「何が声するなあと思て来てみだら、白鳥だどれ」
「しかもすぐ脇ば、当たり前みだいして車が走てるしよぅ」
「千手堂の人にとっては当たり前なんだがしたぁ」
「こだな光景は庄内でしか見らんねど思たっけぇ」

「なんだが頭が三つに見えるんだげんと・・・」
「んだらキングギドラっだな」
キングギドラは悪意が脳みそを満たしている。
白鳥はいつ北帰行するかが頭を満たしている。

「山形で白鳥ば見るいなてしゃねけっす」
「んだがぁ。数年前から来るようになたんだなぁ」
犬の散歩で訪れたお姉さんが教えてくれた。

日本だからできる無人販売。
この看板は人間性善説からできている。

「んだがぁ、んだら行がんなねっだな」
「黄色いのがあちこちさ見られっべがら」
福寿草で有名な寺へ、おばちゃんたちがゆっくりと歩んでいく。
その背中は春の日差しでポッカポカ。

長閑な千手堂の家並を歩く。
くねったしめ縄は、春の心地よさの中で大あくびをしているようだ。

「ぶつかったら悲惨だぞと運転手さ注意ばする前に、自分の錆びた姿さ気づいだら?」
「イテテーて人さ注意喚起する前に、自分の体が痛ぐないんだが?」

青い空に奥羽の白い山並みが浮かんでいる。
防寒靴を脱いでスニーカーになったのも今年初めて。
手袋なしでカメラを持つのも今年初めて。
これじゃ足取りも体も自然と軽くなる。

「通の文字の背景さ子供の姿がうっすら見えっげんと・・・」
「こごで何があんのんねっけべねぇ」
筆で二度書き三度書きした文字が看板の中で踊っている。

「板塀さ引っ付いでくたびんねがよ?」
千手堂集会所の看板は、きっと体がプルプル震えるほど筋肉を使って耐えている。

「どれぇ、雪消えだべがぁ」
街道に残っていた雪はとっくに春風から追い立てられて消え去った。

くたびれ果てた植物たちが斜め45度から日差しを受けている。
「どうれ、そろそろ準備さんなねべなぁ」
冬は残り香さえ去ったのだから、急いで季節に追いつかなければならない草花たち。

「おらだはあど消えるだげだはぁ」
黒ずんだ雪は諦めの境地。
「おらだも雪との戦いは終わりだなはぁ」
タイヤのチェーンも外されるのを待っている。

「あれぇ?空から雪が降ってこね」
子供は手のひらをかざしてみたが、手のひらに振ってくるのは春の光だけ。

カチャカチャに乾燥したような枝にも、間もなく生気が戻ってくる。
背後の壁では枝の影と茶色い錆が混じりあう。

出羽小前の歩道橋。
赤い矢印は怒りに任せてクランクみたいにギクギク伸びる。

出羽小前の歩道橋から南を遠望する。
青みがかった霞の中に、霞城セントラルが伸びている。

房たちはほぼニ三人で固まっている。
皆一人でいるのが嫌なのだろう。
「ところでおだぐだは何の木?今からなにすんの?まだまだおがる気あんの?」

「ローソンさ唐揚げでも買いに行ぐんだが?」
白鳥たちは北帰行の前の腹ごしらえにローソンへ立ち寄ろうとしているに違いない。
「唐揚げなの食ったら共食いになっべな。鳥の仲間ば食えっか!」
白鳥たちは、呆れた視線をこちらへ向けてくる。

鳥海山と白鳥が一緒に写っている写真はよく見る。
蔵王山や竜山と白鳥が一緒に写るってなかなか珍しぐないが?

「木枯し紋次郎みだいに楊枝ば咥えっだんだが?」
「それとも誰がからいだずらさっだ?」
なんぼ近づいても逃げない白鳥は、泰然として親爺の言葉に貸す耳はない。

枯草たちは流れに吸い込まれるように水路を見入っている。
未だに分厚い雪の掛け布団を被せられながら。

ようやく福寿草で有名なお寺さんへ近づいてきた。
たどり着くまでの農道はどこもかしこも穴ぼこだらけ。
モグラも活発に動き出した証拠だな。

ドーンと水路へ突き出した土管から、水しぶきが溢れ出る。
流れはキラキラと光輝き、一斉に春が膨らみ始めたことを辺りに知らせている。

「ひょっこりひょうたん島みだいだんねが?」
このひょうたん島は雪だがら間もなく消えるし、
本当のひょうたん島も人々の記憶から消えつつある。

春を告げてくれてありがとうと心から思う。
これで背景が青空だったら、黄色と青でウクライナの国旗の色。
嗚呼、ウクライナ、ウクライナ。黄色と青のウクライナ。

「先っぽさふっついっだのはシャキッとコーンんねよね?」
実際の大きさは一ミリにも満たないだろう。
そんな小さな粒粒の一つ一つをも春の光が包み込む。
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