◆[山形市]七日町・緑町 雪なのあどたくさんだずはぁ(2022令和4年2月26日撮影)

口をあんぐりして首をそっくっら返して氷柱を見上げる。
ゴリゴリの筋肉がグイグイ育っているようだ。
※2/23撮影

「まだいだっけのがぁ。あれからさっぱり動いでいねんだべずね?」
「地面も見でっどおもしゃいよ」
自分の世界だけに生きて季節の移ろいを全身で感じているナショナル坊や。

「ちぇっと頭ば上げで空ば見る気はないのが?」
ナショナル坊やはちょっと考えた末に言った。
「空は広すぎるし、頭ば上げる首の筋肉もないんだはぁ」

昭和の光景だよと言われても疑いを持たない。
細かいところは変化をしていても、基本は昭和のまんまの花小路。

「やっと春が来るみだいな感じがすっずねぇ」
枝は黄色いテープに支えられながら、早春の日差しを気持ちよく浴びている。

「こだんどごさおつこまてねで出でこいはぁ」
「雪はあと降らねんだがよ?」
自転車は恐々身じろぎし、溶け始めた雪から這い出ようとする。

「なえだてこっちゃもいだりゃあ埋もっでだ自転車」
「前さ行ぐつもりだっけのに、さっぱり進まんねくてぇ」
自転車は自力でバックをするということが頭に無いようだ。

「雪ダルマが毛糸の帽子ば被ったり、マフラーしったら溶けでしまうべな」
「んだて寒いんだものぉ」
雪ダルマの言葉に一瞬頷いて、それから否定する。

花小路の屋根屋根にも真っ白いマシュマロ状の雪がこんもりと積もっている。
何層にも分かれた雪は膨れるばかりだったのに、
ようやく萎み始めて山形市民は安堵する。

モンテディオの選手にもJ1昇格というプレッシャーはあるだろう。
モンテディオのフラッグも屋根の雪にへし折られるかもしれないというプレッシャーに耐えている。

「なんだて今年は何回雪かきしたべぇ」
両腕と腰の痛みに耐える季節は間もなく終えようとしている。

専称寺の伽藍の脇から空へ伸びる枝。
久方ぶりの青空に春を嗅ぎとっているようだ。

山形一の本堂の屋根にしがみつく雪も、
いまからジャンプする選手のように屋根の傾斜を緊張と共に見つめている。

境内に歯ブラシ?
しばらく頭をひねってみる。
「分がた!お墓の彫られた文字の中さふっついだ枯葉ばほじぐる為んねが?」

白壁に枝の影が張り付くとき、
ゴミ篭に入っているのは雪ばかり。

「かってうれしい はないちもんめ」
「まけてくやしい はないちもんめ」
パイロンたちは退屈しのぎに始めたはないちもんめにいつの間にか夢中になっている。

雪が去った後に残された松ぼっくり。
一人取り残された寂しさを味わっているのか、春になることを喜んでいるのか。

つくばいの中では水に還ろうとする雪と、松の葉っぱが別れを惜しんでいる?

「おまえも雪の中から出できたらなんた?」
「この冷たさも捨てがたくてよぅ」
松ぼっくりたちは春の兆しを感じながら浮き浮きと会話する。

「はみ出っだ鼻毛みだいだどれ」
「失礼だずねぇ、雪の重みで曲がてしまたんだぁ」
大雪はあちこちで悲喜こもごもの出来事を起こす。

「やっぱりこごが一番安全だし、居心地がいいま」
屋根付き、すのこ付きで雪を被ることもない。
捨てられた資源ゴミたちは、ゴミ集積場の居心地の良さに満足する。

「はえずぁんだっだ」
これで真っすぐ正門から入ろうとしたら、ちょっと強引。

ミラーには雪だらけの道が伸びている。
それでも明るい空に立つ電信柱は、春の兆しを全身で感じている。

すっかり甘けで、枝からは雪が落ちている。
雪を振り払った黒々とした枝たちは車のボンネットでグワングワンとうねっている。

「春が来たみだいだじゃあ」
八つ手はそーっと声をかける。
自転車は未だに信じられないと振り向こうとしない。

まだまだ白と黒の世界が広がる山形。
でも、雪は甘けだし、空はなんとなく今までより明るくなってきたような気がする。

カチンコチンになって人々を滑らせていた氷も心を入れ替えた。
今や明鏡止水の心境で去る時を待ち、街並みを映しこんでいる。

教育資料館の前に幾年月にわたって立ち続けた公衆電話。
誰かが使っている姿を見たこともないけれど、
何かあったら頼りになる存在だし、いつもの光景に溶け込んでいるのが嬉しい。

「冬も終わったしよぅ、おらだの番だべ」
錆びたトタンの塀に向かって、壁の蔓たちは緑の力を漲らせる夢を見る。

「遊学館の前で日光浴なて、たいした心臓だな」
「おんちゃんも一緒にどうだや」
さすがに並んで寝そべっていたら、不審者として連れていかれてしまう。

「お兄ちゃん、足冷たくてわがらね。しもやけなるはぁ」
「心配すんな。誰がが靴下がホッカイロがオロナインば持てきてけっから」
兄はさっきから言っているけれど、そんなもの誰も持ってきてくれないと妹は知っている。

体がグズグズと緩んでいく。力が萎えていく。
光を浴びて、わが身の行く末を案じながら地面へ消えてゆく。
※2/25撮影
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