◆[山形市]青田・旭が丘・元木 呉越同舟で雪と暮らす(2022令和4年1月15日撮影)

芸工大は体の半分だけを見せて眼下を睥睨している。
街は車と電柱と電線と看板と雪に溢れている。

「おまえはなして干さっでんの?」
ツララはがっしりと物干し竿を握って離さない。
「ま、春まで頑張っどいいっだな」

「あど行がんねはぁ」
スコップを雪に立てかけ、自転車は錆びだらけの壁を見る。
「どさ行ぐだいっけのや?」
「それが分がれば苦労すねっだずぅ」
どうやら行先を忘れて焦っていたらしい。

山形人の必須科目は雪かき。
雪かきという科目の単位を取れないと住むことすら出来ないし、
単位の取得には追試も裏口もない。

「こだい良いべべ着ていがったなぁ」
そのべべは可愛らしい手袋まで付いている。

冬の白黒の世界にあって、
玄関先などに葉ボタンが飾ってあったりするとホッとする。

八つ手は来季に向けて始動し始めたのか、
淡い色の光に向かって体を伸ばしている。

「なしてオレばこだな雪の真ん中さ置ぐんだずぅ」
道路と建物敷地の境が分かる様に置かれたらしい灯油タンク。
目立つ色だからいろんなことに利用されてしまう。

「スパンク販売てなにや?」
「聞くなずオラはただの窓のシールなんだがら」
カーテンの疲れ具合を見ると、既に何も売ってはいないようだ。

駐車の赤い文字が下を向いてあきらめの境地だ。
道を行く車は余りにも多く、渋滞して何処までも続いている。

大通りの渋滞した車の列に息苦しさを感じ、
竜山川へ出てみる。
もっこりとした千歳山がいつものように迎えてくれ、少しばかり心が落ちつく。

竜山川の橋の下では、歓迎されざる帰化植物のセイタカアワダチソウが凍えている。
可哀そうだが、この植物を根絶させない限り日本古来の植物は絶滅してしまう。

一足も二足も速く桜が咲いた。
桜はいつまでも散ることなく咲いている。
工事が終わらない限りは。

ドッドッドッドッ!
掘られた土が戻され、再び叩かれながら固められる。
振動に紛れて雪も一緒に地面へ潜り込む。

「なんだて彩り豊かだずねぇ」
「どいづもこいづも目立づだくてねぇ」
人間界だったら目立ちたい人だけが目立てばいいんだけれど、
工事現場では否応なく皆が皆目立たなければならない。

信号機だって長年働いていれば疲れてくる。
緑のおじさんは背を曲げているし、
体内は結露しているし、
しかも退屈しのぎに街の様子まで映しこんでいる。

「洗ったマットばどさ干したらいがんべなぁ?」
おじさんの思惑を察したダンプは焦る。
「おらだの役目は雪ば掃ぐごどだげだがらぁ」

「ほっだい寝ぐせ付けで、髪の毛がいっぱい有る振りすんな」
カメラを持ったおじさんは、髪の毛がすっかり無くなったせいで、
頭が寒くてしょうがないというのに。

弱々しく光が差しただけなのに、
橋に張り付けられた名前はギラリと光って目を射てくる。
普段は通り過ぎる人に見てももらえないだろうから、
チャンスをうかがっていたとしか思えない。

近づいても逃げようともしない。
よっぽど竜山川の居心地がいいか、
相手がノロいので危険を感じないかのどちらかなのだろう。

「は、離れる!お、落ちる!」
その瞬間に立ち合えたことに感謝する。
ツララは無言だし、金属質の体からは感情すら感じられない。

「この間は東原町で真っ黄色い蓋ば見つけだげんと、今度は真っ赤が」
しかも口を真四角に空けて黒ポス(ほくろ)顔でイーッと言ってきた。

「おまえが早ぐ出かげろず」
「おまえこそ早ぐ肉ば運んでいげぇ」
お互いに牽制し合い、お互いに寒くて仕事に出かけたくない。

「モーッ、いづなたら道が完成するんだずねぇ」
スーパーのマスコット(マスコットにしては怖い顔をしている)は、
果てしなく思えるほどの長い期間の工事を延々と眺めている。

「雪はモーいいずぁー」
まだまだ冬は前半戦。
すでにかなりの積雪があり、牛は腹の筋肉を緩めながら雪の原に呆れている。

こんなにツルコッとした肌を見たことがない。
映りこんだ電柱の電線は、呆れるようにグネグネ曲がり牛の背中を伝っている。

「隠っでいねで出でこいぃ」
「んだて寒くてぇ」
背後からスコップたちの声だけが忍び出てくる。

「早くて恵方巻がぁ」
はためく旗の向こうを見ると、学生たちがニヤニヤしてこちらを見ている。
おじさんは焦る。旗ば撮ってだんだがら。けっしておまえだば撮ってだのんねがら。

数秒ごとに滴が落ちる。
時間を刻む様に正確に落ちる。
今は真冬の真ん中にいるけれど、確実に時間は進んでいる。

西蔵王の電波塔は24時間営業だど。
24時間営業とはいえ、あんなにくっきり見えることは滅多にない。

「去年は優勝していがったねぇ、つば九郎」
運転席のつば九郎は、ヤクルトが優勝しても運転席にしか居場所がないのか?

ヤクルトが優勝したから大きいのか、巨大なヤクルトがいつになく自信満々で立っている。
中に入っていけるほどに大きい。
お湯でも入れて五右衛門風呂の様にして入ってみたい。
でも、蓋の部分から頭だけ出す姿は恥ずかし過ぎる。

こんな巨大なヤクルトなのに車も人々もチラッと視線を動かすだけで通り過ぎていく。
山形人はシャイだから、感情を表に出すのを躊躇っているだけなんだと思うことにする。

「今川焼ってなに?」
山形人に聞いても今川焼ってなんの事か分からない。
それでいいんだ。山形にはあじまんがあるのだから。
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