◆[山形市]桜町・豊烈神社 真っ白な初詣(2022令和4年1月1日撮影)

雪のため入城はご遠慮ください。
「あ、んねっけ。コロナウイルスのためだっけ」
しかも入るななてどこにも書いてない。

スノーダンプは天を見上げて深く息をつく。
「あどやんだはぁ」
疲れ果て仰向けになった体に、容赦なく雪は降り積む。

「まんずたまげだ。こだい降るなてほんてんやんだぐなっずねぇ」
いくらぼやいても雪に聞く耳はない。

「あそごが豊烈神社の杜がぁ」
いつになく遠く感じる豊烈神社は墨絵と化して雪の中に浮いている。

煙突には頼みもしないのに真っ白な帽子が被せられた。
屋根にも頼みもしないのに真っ白な掛け布団が乗っかっている。

「あらぁ、久しぶりぃ」
「今年もよろしくぅ」
いやいや、歩道の人々は向き合っていない。
ガラスに映っている親子は、子供を抱っこした親子の後ろを歩いている。
ガラスは時として人を攪乱させる。

たこ焼きの幟をジーっと見つめる視線がある。
人々は、頭に白い帽子をかぶり、歩道の脇に立つブロンズ像を気に掛ける余裕がない。

「おまえんどごはどだなあんばいだ?」
「たいしたごどないげんと寒い」
プラケースの落雪注意は、寒さを紛らすために、お互いに声を掛け合う。

気持ちをそそる赤ちょうちんを尻目に、今日は初詣と心に決めて足早に去る。

フワフワと浮いたり沈んだりしながら雪の海原を真っ赤な傘が浮遊する。

しめ飾りが寒風に凍える。
橙(だいだい)の中身は凍ってしまった。
エビはプラスチックになってしまった。

こんな雪の中でも人々は次々と訪れる。
考えてみれば雪のない初詣よりも、雪のある初詣が山形には似合っている。

感染がどうしたこうしたと看板は一生懸命訴えている。
雪は何も言わず、その訴えを静かに隠していく。

「あどは15日のおさいとんどぎに来てケロずはぁ。寒くてわがらねま」
雪と炎の狭間から、そんな声が聞こえたかも知れないが幻聴か。

賽銭箱の前に、縄のくっついた可愛い鈴がぶら下がる。
これは鈴を鳴らしてくださいという意味なのか、
両手のひらで温めてくださいという意味なのか。

「あんまり寒くて体が真っ白になてしまたはぁ」
「元から白いべ」
炎も点けず凍えるだげだごんたら、誰か片づけでけろと三本が願っている。

おみくじの前に我が物顔で場所を取っている消毒液とポリエチレン手袋。
これが新しい時代の当たり前の姿になってしまうのか。

ポリエチレン手袋がダンボールからはみ出している。
この白いうねうねの姿は今までに見なかった光景。
世の中の裏側を見たようで、できれば見たくない光景だった。

世の中には越えなければならない坂が数多ある。
その中の一つが、この豊烈神社の藁の坂だ。
「正月から転んでらんねべぇ」と、勇んで登ってみたが意外とおっかない坂だった。

「あの坂ば登らんなねんだがらな」
「おかないぃ」
兄は弟の手を握ろうとして腕を伸ばす。

「ダンサー注意!」
ダンサーのように踊りながら登らないでください。
「サンバば踊りながらだどいいんだが?」
寒さのために脳みそがバグって、変なことを思いつく。

小学生の頃、先生から言われて生徒全員が廊下に長靴を並べて置いた。
長靴に金色の文字で名前を書いてもらうためだ。
確か一人五円だったかと思う。
それが当たり前の冬の学校行事だった。

「どうぞどうぞ」
「どうもどうも」
阿吽の呼吸で挨拶を交わす。

山形の神社はそれぞれに特色を出し、
初詣客をもてなす。
豊烈神社は日の丸ミカンだ。
家に帰ったらみんな神棚にでも飾るのだろうか。
すぐ食てしまうんだべが。

「あど5センチ上ば見せでけねがなぁ」
「そうはいがねのよ。顔出してダメていわっだがら」
「こそっと教えっげんとよ。巫女さんば見に行ぐだげでも豊烈神社さ行ぐ意味あっば」
「ほだいめいこいっけのが!」

「誰がすろず」
「おまえがすればいいべぇ」
「おらやんだ」
誰もテントの雪を払おうとせずにただ立っている。

「なんだずまんず。なして?」
社殿の端からグインと雨樋が飛び出している。
雨樋の先っぽは氷の握りこぶしとなり、
そこから伸びる指から滴がボダボダ垂れている。

雨樋の向こうには巨大でカラフルな絵馬が飾られている。
「はぁ?三中美術部が描いだの?なえだて後輩だべした」
木の実町も桜町も昔から三中学区だったことを今更ながらに思い出した。

わざわざ誰の傘だか分かるように赤いテープまで巻いてあるのに、
忘れ去られてしまったのか。
傘を忘れる人は「カサを忘れないように」という文字を見ることも忘れている。

「なしてこだんどごさガチャピンがいるんだ?」
「隣はムックだが?」
「おんちゃんくたびっでいねが?おらだはタイヤなんだげんと」
眠っているタイヤを起こして悪かった。

豊烈神社を訪れる度に思うことがある。
この渡り廊下を歩いてみたいということだ。
優雅に湾曲した床のラインが美しい。
いつ頃誰が造ったのだろう?

蛇口は口をつぐんでいる。
雪の重みは青天の霹靂だった。
まさか水を吐き出さず、雪をかぶって耐えるなんてことがあろうとは。

「なんだず、枝ば伸ばしった木さピント合わせっかど思たっけのによぅ」
こごらげだ藤の蔓が風に吹かれて目の前に垂れ下がる。
「今年こそはこごらげだ一年んねどいいんだげんとなぁ。」

豊烈神社の裏側から誰も歩いていない雪原を越えて、県立中央病院跡地の中央に立った。
一歩一歩進むたびに長靴の中へ雪が入り込む。靴下がよれる。息が上がる。
そしてようやくこごらげだ蔓を避けて白と黒の樹木をやっと映す。
既に体力を使い果たし、今日は切り上げようと美術館の地下にある駐車場へ戻る。
駐車場の出口で清算すると、
「たまのお越しをお待ちしております」と女性の声でアナウンスが流れる。
「いまなんてゆた?たまんねくてまたてゆたのんねんだが?」
なんだて耳までくたびっできたみだいだなはぁ。
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