◆[山形市]落日と再生の七日町(2021令和3年12月25日撮影)

奥羽の山並みは寒気の中に隠れている。
屋根屋根は白く塗り替わり、盆地の底から浮き上がって見える。

御殿堰界隈は大きく変わった。
暮れていく七日町のそれぞれの窓から灯りが漏れる。

「大学芋食だいぃ」
「大学芋は大学さ入ってがらんねど食んねんだよ」
母親は子供の手を強く引いていく。

小雪がちらつくなか、傘を通してイルミが淡く語り掛けてくる。

「帽子かぶっているしツバがあっから大丈夫」
ポストは雪をかぶってもやせ我慢して立っているしかない。

ライトに照らされた葉っぱの上だけ雪が解けている。
周り中の葉っぱはその様を見てざわついている。

「ちぇっと待ってけろぉ」
何に対して待ってけろと言っているのか分からないけれど、
今年中にやり残したことがあって、
令和三年が過ぎるのを待ってほしいということかと想像を膨らませる。

見上げると目に冷たい雪が当たる。
雪は着地点を探して夜空を舞っている。

山銀の本店も建て替えになるらしい。
ということは記録として撮っておく他ない。

「ほだい笑顔で何が楽しい?それとも営業スマイルが?」
寒さの中、人通りもさほどないのに棒っ切れは意地でも笑顔を崩さない。

冷たく凍える自転車。
キラキラ光るイルミが慰めるようにスポークに笑顔を向ける。

「早ぐシフト終わらねがなぁ」
クリスマスに赤い帽子をかぶり窓を拭く。
「悲しいげんと、世の中ほいな人一杯いっから」

十一屋も建て替えられると聞いた。
御殿堰のせせらぎを楽しめるように改築されるという。
こういうのは前向きな改築だから歓迎すべきか。

この御殿堰が七日町大通りを挟んで十一屋へ伸びていくんだな。
いっそこのまま西側へ御殿堰を伸ばして霞城公園へ続く散策路にして欲しい。

雨樋から流れ落ちる溶けだした雪が再び凍って小さなツララになった。
イルミネーションの灯りがそのツララの先っぽでも小さく輝いている。

「クリスマスも終わりだがらサンタのシールも剥がさんなねべずねぇ」
凍える手での作業は辛いけれど、誰かがしなければならない仕事。

ソフトクリームは近頃真冬でも食べられるようになった。
かといって建物の隅に置かれたソフトクリームの置物の気持ちが救われるわけでもない。
蕩けるクリームの振りをして、ただイルミを見つめているしかない。

雪もそろそろ本降りになってきた。
宅配のお兄さんは足早に荷物を運んでいく。
クリスマスに家族団らんを楽しめるのも、
おいしい食べ物をまぐらえんのも、
みんなが休みの時に働いてくれる人がいればこそということを忘れてはならない。

「あどどれだげ運ばんなねんだず」
宅配のお兄さんは文句を言いたくなる気持ちをグッと押さえてひたすら運ぶ。
トラックのフロントガラスからは溶けた雪が流れ落ちている。

沼の辺行きの山交バスが七日町を北上していく。
山形の街並みを早く白く染め上げようと、雪は振り方に拍車をかける。

富岡楽器店のクリスマス帽のてっぺんにト音記号。
ト音記号は空を見上げながら、いち早くこの雪は本降りになるぞと察知する。

閉店してシャッターが下りていた大沼。
そのシャッター通りは山形をアピールする大きな看板になった。
でも、それは一時的な事。
今後この大沼がどうなるかによって、七日町の再生の方向が決まってくる。

灯りは路面にペタッとくっついている。
灯りには路面の冷たさが感じられないのだろうか。
細かい雪は益々路面を濡らしていくばかり。

「なえだず、おらださふつがねでけね」
看板が訴えたいことを邪魔している雪はいたずらっ子。

「まなぐ見えねはぁ」
「もっと袈裟ば深っかぐかぶたらいいべした」
「はえずぁんだげんとも、顔が隠れっど誰だが分がんねべぇ」
狸は剽軽な顔を向けてきて、やっと話し相手ができたと喜んでもいるようだ。

影が一足先に前を行く。
白い壁を伝う影は一刻も早く家へ帰りたくて本人を追い越してしまった。

濡れた路面が赤くテラテラと輝く。
ほどなく路面は青く色を変える。
人々は信号が変わりそそくさと去っていく。

雪は降り止むこと忘れたようにいつまでも山形の夜を舞う。

七日町の空に雪が舞う。
大沼が閉店し、七日町から灯が消えたような気分になった山形市民。
来年以降は明るい七日町へ向けて、きっと再生の道を歩むことだろう。
TOP