◆[山形市]北町・下条 師走はしぇわすない(2021令和3年12月11日撮影)

「雪はまだだが?」
北町ヤマザワの屋上から、空に向かって聞いてみる。

道路と電線と車が交差し、雑然とした賑やかさを醸している。
十年後、二十年後に賑やかさが残っているとは限らない。

「年末ジャンボがぁ・・・」
一瞬足を止めて夢を見る。
ブロックは看板を必死の思いで止めている。
夢を見過ぎて倒れ込まないように。

「毎日工事だもねぇ。なんの工事だが分がんねげんともよぅ」
看板が並び、旗がひらめき、師走のしぇわすなさが助長されている。

「おだぐも大変だずねぇ」
「いやぁ、ちょっとだげなぁ」
消火栓とパイロンは師走の歩道で立ち話。

「リアルなラッピングだずねぇ」
「ほだごど縦にしたらワンタンが零れ落ぢそうだどれ」

家並の隙間から機械音がすり抜けてくる。
「なにしったんだべ?」
「師走だがら忙しくて答える暇もないてがぁ」

赤と青の共演。
ぼんぼりも床屋さんの円柱もドアのライ赤と青。
「なにがフランスに関係があるんだがっす?」

「下条五差路て五差路なんだが?五叉路なんだが?」
標識には五叉路と書いてある。
どちらか分からず、五差路の混雑のように頭が混乱する。

「ほっだいブロックで抑え込まっで、何が捕まえだのが?」
あれだけ篭の上に重しを載せているのだから、
何か獰猛な生き物を捕まえたに違いない。

「激しくもっくらがえったずねぇ」
ガイドポールは当て逃げされてもじっとしている。
当てられた悔しさよりも、仕事を全うしたことの満足感が上回っているようだ。

家並を縫って軒下を堰が流れる。
夏草は枯れ、赤い実は川面へ首を伸ばして雪を待つ。

冬待ち顔で空を眺める草木たち。
背後の煙突は熱くなっているのか気にも留めない。

レンガの煙突。
なんと絵になることか。なんと珍しい光景か。
冬の雲に突き立つ姿。

「排気ガスでもかぶたのが?」
アザミは真っ黒になって行く手を阻む。
「真っ白い雪の帽子ばかぶんの待ってだんだぁ」

「ぬだばて地面冷たぐないがよ」
体の冷え切ったチェーンはいう。
「おらだの役割は終わたがら構わねでけろ」
体から染み出る錆と共に気力が消えうせていく。

「壊すのがぁ?」
「壊しったのんね。解体しったんだ」
確かここは第一貨物。
解体した後は何ができるのだろう。

巨大な手が建物を瓦礫に変えていく。
人々は固唾をのみ見守るしかない。
いやいや、アメリカ映画の見過ぎ。

この地に何十年建っていたかは分からない。
建物内に入ったこともない。
それでも痛々しい光景にちょっとばかり心は痛む。
もし前向きな解体であったとしても、
実際にここで働いていた人々にとっては様々な思い出が胸に去来することだろう。

北町三丁目にポッカリと穴が開いてしまった。
寒空が広がる光景に、思わず首をすぼめてしまう。

解体工事はまだまだ続く。
機械音が寒風に流れていく。
それなのにこの寂寥感、静寂感、無音感はなんだろう。

黒い雲の塊が重そうに空から垂れている。
解体現場は日差しを遮られ、黒いシルエットになる。
重機たちは最後の壁に向かい唸りを上げる。
間もなく解体は終了し、瓦礫だけが残される。

「おらやんだずぅ。逃げっだいずぅ」
ドラム缶は敷地から逃げたいとフェンスを突き破ろうとする。
パイロンは呆れたような表情を隠してじっと見守る。

「間もなく雪の下だじゃあ」
「やっとゆっくり眠るいべした」
倒れた看板は冬空を眺め、やがて目をつむる。

「こだんどごさ公園あるなてしゃねっけぇ」
西柳公園の手前にはドラム缶が何個も立ちはだかり、
蓋の上には雨水が溜まり、葉を落とした枝や冬空を映している。

公園内には誰もいない。
藤棚には実が色褪せて力なくぶら下がっている。

「こだっぱい読み込まねどゴミ捨てらんねんだが?」
全部読み終えるまでゴミをたがっているのは結構キツイ。

ひょうきんな格好で踊って見せる、その姿が愛らしくも悲しい。

何でもありの光景。
みんな平等に壁に影を造り、皆立場は違えど平等に冬日を浴びる。

「まだまだほだい寒ぐないず」
自販機の文字に反駁しつつも、天気予報では間もなく寒気がやってくると言っている。
「おんちゃん、自転車さ乗るいのも間もなく終わりだじゃあ」
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