◆[山形市]鈴蘭街・公園通り 氷雨の降る街で震える灯り(2021令和3年12月4日撮影)

「どいずいいや?」
「皮が好ぎだな」
「んだらばねぎまで」
「なして聞いだんだず」

電話ボックスの囲いが濡れている。
その向こうには、こっちゃ来いと灯りが瞬いている。

「あれぇ?こごさカレーの青空があんのんねっけがぁ?」
「何年前の記憶や?」
記憶と街の変わりようのギャップに愕然とする。

「おそらぐは真っ赤だっけじぇ」
「今じゃこだいすっぱげでがぁ」
背後の昭和っぽいポスターのモデルが投げやりにいう。

「エビフライの尻尾はカリカリてんまいのよねぇ」
「私はしゃちほこですぅ。エビではありませ〜ん」

車輪の下はヘルマンヘッセ。
車輪の向こうは人を誘う灯りたち。

日中の鈴蘭街はほぼ歩行者ゼロ。
なのに終末の夜になれば人々がどこかから集まってくる。
昭和の頃はブティックや瀬戸物屋などの商店が軒を連ねていた。
今は夜の街にガラリと変貌してしまった。

「学生限定だど」
味わいのあるカナ釘流の文字がセロテープで押さえられている。

闇の中に浮かび上がってきた鳥居。
「こだんどごさ神社があるなて世の中変わたなぁ」
「拝礼してがら入らんなねんだが?」
「拝礼すねくてもいいがら、お賽銭はたんまりとな」

「ちょっとお伺いしたいんですが、もしかして最上義光さんだがっす?」
聞こえているのかいないのか、視線は鈴蘭街の灯りに注がれている。
その心の中はいかばかりか想像もできない。

「灰皿さツバて、したげのごどが?」
「ほだなごどすんのいだんだがよ」
「いっから張り紙があるんだべ」
「ほだな人のベロばきたぎてけだらいいんだべよ」

幟が寒さに震えている。
その向こうには街の灯りが透けている。

「プラケースが傘立てなていい案だずね」
「ビールの口さ傘の先っぽば入れるようにしたらもっといいんねがよ」

闇の中に浮き上がる灯り。
灯りは鈴蘭街が出来た当時の昭和の雰囲気までもくっきりと壁や柱に浮き上がらせる。

「俺さ抱きついでも暖かぐないべよ」
「んだて何がさくっついでいねど辛くて」
傘はしっかりと樽にしがみつき寒さに耐える。

「女子の風呂でも覗いっだのが?」
「アンパンマンはそんなことはしないっす」
おもしゃい意匠に思わず頬が緩んでしまう。

「俺の顔さなにばぬだぐてるんだず」
看板は赤く塗られてイライラが募る。
テールランプはまだまだ夜遅くまで看板を這い続ける。

「NHK前の小鳥だっす」
「頭さトサカが付いっだどりゃあ」
灯りは心を癒すけれど、たまにはいたずらもする。

青く浮かび上がる顔、顔、顔。
カッコいいと思うかどうかはおだぐ次第。

城南橋から光の列が押し寄せる。
路面を目まぐるしく光が這いまわる。

「こだい寒いどぎ、ほっだな短い靴下で寒ぐないがよ」
そういえば昭和にこんな短い靴下は無かった。

クリスマスっぽい雰囲気が、そこはかとなく感じる頃。
歩道はテールランプで赤く塗りこめられ、人々は家路につく。

「ほいなごど止めでけね」
「んだて食だぐなっべした」
突然前を遮った看板に、思わず撮影の気力が萎えかける。

「すんごいメニューがずらっと並んでだりゃ」
「メニューなのんね。よっくど見でみろず」
「たいしたもんだずねぇ、山形の誇りっだべ」

阪神タイガースっぽい色合いの看板が闇の中に力強く浮き上がる。

これでもかと昭和を誇張する壁の看板たち。
昭和って今思えば凄い時代なんだっけなぁ。

氷雨がやや強くなってきた。
街ゆく人々は傘をしっかり握っている。
カリヨンの時計は寒さのせいか、顔にぺったりと白いシールが貼られている。
「きちんと時を刻むのがやんだぐなたんだべなぁ」

すっかり雨に濡れてしまったバス停。
なんぼ濡れてもバスを待ち、
そしてバスが来ても乗ることすらできない。

「ほだいぎっつぐ結んで、こわぐなたんねがぁ」
「こわぐはないげんと、寒くて痺っできたはぁ」
藁は潤む灯りをゆったりした気分で眺める暇もない。

斜に構えた電柱から、氷雨が流れ落ちている。
「あんまりこっちゃ近づいでくんなず」
プラスチックのゴミ箱は、窮屈そうに電柱を蓋で押し返す。

つかして顎を張り横を向くネックレスを付けた女性。
ただただ微笑みを向けてくる雪ダルマ。
おそらく性格は正反対。
でも相性は意外と良いのかもしれない。

鈴蘭街古参の書店が明るく光を放つ。
通り過ぎる手前の車の屋根にも、その緑の光が映りこむ。

「たい焼き食だいど思わね?」
「尻尾まであんこが入ったべが」
「さっきはエビフライてゆったっけずね」
しゃちほこは、尾っぽから滴を垂らし反駁する。

ちょっと路地に入ったところに自転車が佇んでいる。
サドルには滴が溜まり、赤いネオンの光が張り付いている。
自転車は何も言わない。
考えることもやめた。
ただ主が帰ってくるのを待っているだけ。

灯りは道路にも零れ落ち、その灯りを車が踏んづけていく。
まだまだ鈴蘭街は宵の口。

十字屋の跡地にできたホテルが夜の街にそそり立つ。
「くたびっだのがぁ?ガムテープで行先が隠さっでだどりゃあ」
ホテルは新しく生き生きしているけれど、道しるべにはいささか疲れが見える。

十字屋角をダイエー側から山交バスが勢いよく左折してきた。
上記のコメントには大きな誤りが二か所ある。
もう十字屋角ではないし、ダイエーもない。

鍵盤の両端を傘が行く。
なんの音色も奏でずに、だた足音だけが微かに残る。

「暗ぐなたがら高校生は帰れはぁ」
ヘッドライトに照らされた部活帰りらしき高校生の自転車軍団は、
路面へ自分たちの影をビローンと伸ばして帰途に就く。
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