◆[山形市]若木・常明寺 鯉も大根もおがりすぎ(2021令和3年11月20日撮影) |
秋は真っ赤だ。 太陽が出れば尚更真っ赤。 |
舞い降りるのをかろうじて逃れてみたものの、 寂寥感が体の隙間を吹き抜ける。 |
夏草でもわもわになった家が空へ鋭角的に切り込んでいる。 二階には「足沢ニ至ル」と看板が出ている。 |
山形定番の吊るし柿が日差しを浴びて旨味を増していく。 「んだら人間もぶら下がっどいいのんねがよ」 「んだっだ。旨味のある人間が増えっべな」 |
晩秋の日差しは、何気ない光景だけどなんだか心が潤うずねぇと思わせる。 |
「ほだい引っ張んなず。転ぶべな」 影は早く家さ帰っべと、一輪車とおばさんを引っ張っていく。 |
「五右衛門風呂のでっかいやつだが?」 人が横たわれるほどの直径。 ふづりさぶら下がった枯草は、のぼせたまんまで逝ったのか。 |
「暑いがらよぅ。風が入ってくる窓際さいだのっだな」 窓際の扇風機は自分の仕事を忘れ、そっぽを向いて暗闇の天井を見上げている。 |
「頼むがらその角度で陽ば当でねで。ひび割れが目立づがら」 漆喰はひび割れにクリームを塗るわけにもいかず、 眩し気に顔をしかめる。 |
「だいぶ体がすなこぐなてきたんねが?」 クターっとした青菜を玉ねぎは心配そうに見つめる。 シャキッとした茎と、シナシナになった葉っぱが山形人にはたまらない。 |
「どさでもこさでも現れんなず、眩しいったらよぅ」 真っ赤な粒粒は、快晴の中をプチプチと弾けるように元気が止まらない。 |
村はずれの紙垂は雨風のせいで元気がない。 背後から柿の実の赤い応援歌が聞こえてくる。 |
若木の通りからは山形市街が一望できる。 霞城セントラルも笹谷峠も一気に見える立地の良さ。 |
「んが〜、出してけろ〜」 「おらだ、ビニールさおつこめらっだんだぁ」 「んだがよ、勝手にビニールの中さ生えだのんねがよ」 |
「気持づいいくて寝でしまうみだいだなは〜」 隣のタイヤへ声を掛けてみたものの、 隣のタイヤは熟睡中だった。 枯草に包まれる幸せを貪る常明寺公園のタイヤたち。 |
「なして一番角さ入れらっだんだ?」 バケツは不満気。 「一番角は大事な場所だがらっだな」 とりあえずオセロを思い出してなだめてみた。 |
まだ泥をまとった大根がゴリゴリと生命力を発散して、その髭を振り回す。 |
順番待ちの大根たちは、おじさんの手つきをジーっと吟味するように眺めている。 |
「尻尾の先っちょまで、ねっづぐ洗てけらんなね」 大根は気分よく、おじさんの愛情に身を委ねている。 |
一輪車の縁に載せられた大根は、 風呂上がりの気分を味わっている。 |
「よっこらしょっと」 洗い終えた大根は一輪車へ載せられて家の中へ運ばれる。 「写真撮らせでもらてありがどさま。ほんてんよっこらショットだっけっす」 |
「あんまり晩秋の日差しが強いもんだがら、 画面からはみ出すみだいに立体的に撮れだどれはぁ」 嘘をつきました。ストロボの力を借りました。 ほしたら柿の実がごしゃいで、かがてくるみだいに撮れました。 |
でっかい大志を抱くような看板が、山形盆地に仁王立ち。 |
でかい看板を撮っているときに背後から声がした。 「おい!お〜い!」と呼ぶ声には怒気をはらんでいるような気がした。 ごしゃがれるんだべがと首をすくめて振りむくとおじさんが呼んでいる。 「看板なの撮らねで、おらいの鯉ば撮っていげ」 |
「夕方撮りにくっど一番いいんだ」 鯉を観賞させてもらったあと、おじさんは外に出ていう。 「あそごさ蔵王山が見えっべ。蔵王が夕陽で真っ赤になて最高なのよ」 |
太陽へカメラを向ける。 養魚場に張られたネットが赤いラインを横たえている。 |
「誰もいね道路はおらだの天下っだべカーッ」 我が物顔のカラスはノタノタとアスファルトを歩きながら退屈をしのいでいる。 |
柔らかく降り積もった日差しが辺りを優しい色に染めている。 柿の実はその色の中に、朱色の絵の具を思いっきり散らしたようだ。 |
「あ〜、行ぐのがぁ」 軽トラが遠ざかる。 白菜が遠ざかる。 |
地面に落ちて赤い枯葉と混じりあう白い花びら。 その姿を見つめた花びらは、 自分の行く末を感じ取りながら風に身を任せることにする。 |
「とうちゃん早いずぅ」 「おまえが遅いのっだなぁ」 山形盆地の真ん中で、夫婦の会話が空を舞う。 |
|
帰宅後、あんまり月が赤いのでちょっと撮ってみました。 赤くは撮れませんでしたが。 |
TOP |