◆[山形市]今塚・嶋北 夕暮れのため息(2021令和3年10月30日撮影)

空に赤い息を吐いた太陽は山際に消え、
残ったため息が空に漂う。

新しくできた街「嶋北」と昔からの集落「今塚」の境に月山神社がある。
「夕方だはぁ、ままけはぁ」
神社脇の公園にはそんな親の声が聞こえてきそうな夕暮れ時。

社殿には街灯が灯り、境内に薄闇が際立ってくる。

ペチペチ、パチパチと喋っていた路傍の草花たちも夕方を悟り、
少しだけ寡黙になって辺りを伺う。

崩れるの任せる塀が闇に紛れていく。
ミラーに映る光景からも力が失せていく。

地面にうずくまる柿たち。
葉っぱたちは、体を冷やさないようにと凍える実の周りに被さってくる。

太陽に向かってキラキラ輝いていた花たちにも闇が染みこんでくる。
まだ微かに残る空を見上げて、花たちは眠りにつく。

「夕方はさぶすいねぇ」
「ほだごどやねで。俺がいだどれ」
束子(タワシ)の心細さをバケツが受け止める。

夜は昼とは違う世界に支配される。
人々は恐れおののき家に籠る。
夜の世界を暗示するように、木の枝がまがまがしく屈曲する。

「おらだは北斗七星みだいだべぇ」
柿の実は得意げに枝にぶら下がっているけれど、
軽トラは気づかずにテールランプを残して走り去るし、
なんだか空しくなってきた。

「誰が土地買ってけねべずねぇ」
「この辺は便利だがら、俺が住むだいくらいだぁ」
「こごは農地だがら家立でらんねのよ」
「んだのがぁ」
夕暮れの突然の来訪者にも、洗い物をしながら対応してくれるおばあちゃん。

嶋北の灯りがチラチラと遠くで輝いている。
青菜の茎の部分の歯ごたえはこだえらんね。
嗚呼、秋を通り越して冬も近いのがぁ。

竜山にも初冠雪があったという。
その竜山を背景にして、おばあさんは曲がった腰を持ち上げる。

ススキはとめどなく虚空を彷徨う。
当てがあるのかないのかも分からず、
何か考えがあるのかないのかも分からない。

嶋地区から運転免許センターへ伸びる道路を週末の車が行き来する。
そのライトを一瞬浴びて、開いた葉っぱがパッと輝いた。

「なんだて捨てらっでだどれはぁ」
「売り物にならねがらだべが?」
空の光が失われ始めるころ、菊のシャキシャキ感も消えかかる。

広がった青空が徐々にくすんでいく。
西バイパスから北へ向かう大通りを車のライトが行き交い、
そのライトの光がひと際目立ちはじめる。

すでに太陽は白鷹の山へ沈んでしまった。
枝は苦しみもがくように、空へひび割れを造っている。

ぺしゃんこにされたペットボトルは、
行き交う車の風を体に感じ、まだ生きていたのかと自問する。

すごい看板が田んぼの真ん中に立っている。
すごい大きさなので、冬になって吹雪いたら立っていられるのかと心配になる。

闇の中にこんもりとした杜が浮かび上がっている。
柿の実たちは地上の星のように闇の中に浮かんで連なっている。

嶋北の灯りが大分目立ってきた。
昭和にはなかった街が忽然と田んぼの真ん中に現れ、
今や当たり前のように、光を放ち、人々を集めている。

大通りの脇に柿の木があった。
その内懐に入り込み、柿の実へ近づく。
通りを車が通り過ぎる度に、実の表面を光が滑るように移動して這って行く。

空には光の残渣が漂い、
その微かな光が車のフォルムを光のラインで表現する。

さっきはすごい看板が立っていた。
今度は光る看板がすごい。
照らされた畑の葉っぱたちは睡眠不足にならねべが。

電線が空に黒い線を伸ばし、
オレンジ色の光が各々の家庭の窓から漏れ出て、その暖かさを物語る夜の始まり。

地面は赤く照らされ、空は紺色の濃さをを増していく。
その狭間に光が瞬き、人々の営みが繰り返さる。

「高っがいずねぇ。なんとがならねもんだがねぇ」
近頃のガソリンの値段は山形市民の懐を直撃している。
「おっきいずねぇ。近ぐでみっど値段の表示板てでかいんだずねぇ」
高くておっきい物は夜の街で益々目立つ。

「そろそろ家さ帰て、ご飯かんなねんねがよ」
そんな言葉をよそに、看板たちはかき入れ時だと益々光を強めていく。

店は呼吸をしている。
人々は店内へ吸い込まれたり、店外へ吐き出されたりの繰り返し。
「ほいずぁいいげんと、店閉める前におらだば入れんのわすんねでけろねぇ」
奉仕品として外へ出されたシューズは閉店を前に気が気ではない。
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