◆[山形市]長町・七浦 秋の懐にくるまれる(2021令和3年10月24日撮影)

「おかないごどばり書いであるぅ」
宇宙人は目をクルクル回しながら、
地球人は大変なところで生きているんだなと首を傾げる。

すでにこの世からブラウン管は消えたと思っていた。
しかし、行先を失ったブラウン管は街道沿いに、
埃をかぶって恨めし気に行き交う車を眺めていた。

「ちぇっとどげろ!前見えねどれ!」
いくら言っても夏草には聞こえない。
標識は仕事ができずにイライラが募るけれど、手も足も出ない。

秋の日差しの中でジーっと動かずに固まっている。
興味が湧いてそーっと近づく。
「見世物んねがら、あっちゃ行げ」とトンボの目は語っている。

山形の中心部へ細く長く、ソバのように伸びる街道。
バイパスが出来たり、高速道が上を走ったりと周りの環境は大きく変わったが、
羽州街道だけは昔日の面影を残している。

「誰も見でけねったておらだは自分の意志で咲ぐ!」
車の舞い上げた風を浴びながら、花たちは奥羽の山並みを見つめている。

20号のキャンバスにペインティングナイフで描きました。
と言ってもいいくらいに、錆色が上手く出ている油絵風の光景。
シャベルは力尽き、その体へ病葉が寄り添う。

「火山灰でも降ったんだが?」
昭和の車がグッと鼻先を伸ばして、よっくど見ろと迫ってくる。

「お互い道端で大変だずねぇ」
声を掛け合い、黄色と赤がお互いの身のうちを案じている。

「おまえもこっちさ来たら?」
七浦の看板と箒がスノーダンプに声をかける。
「んだて、まだ出番には早いがら」
スノーダンプは遠慮して、脇で俯いている。

「今日は太陽が顔出したなぁ」
ヒマワリは勢いづいて首を上げようとする。
でも、夏の間中首を酷使していたものだから、もういうことを聞かなくなっている。

ヒマワリは硬く乾燥して固まっている。
カメムシがノコノコと這い周るのに反応を示さない。

「ありゃ?まるで栗から芽が出だみだいだどれ」
栗の下から小さな葉が、器用に栗の棘を避けながらひょいと伸びている。

「便所コオロギだが?バッタだが?鈴虫だが?」
土手に歩み出てこちらを睨んでくる虫へ問いかける。
虫は頭に青空を映しこみながら、失礼な声掛けを咀嚼している。

緑橋付近で野呂川と村山高瀬川・馬見ヶ崎川が合流する。
辺りの河原には、みんな左向け左の穂が微風にそよいでいる。

山形自動車道の高架から夏草が垂れている。
地面まで届くことは叶わなかったと夏草は残念がる。

畑に置かれた大きなタイヤ。
ホイルの隙間に溜まった雨水が、秋の光を受けてキラキラ輝く。
タイヤは何も語らず、空を見上げてピクリとも動かない。

馬見ヶ崎の土手は散歩にもってこい。
光が散乱する中を歩いていくと、何物にも代えがたい幸福感に包まれる。

「鼻くそ詰まったどれ」
「失礼だずね。来年へ向けた種っだず」
パクパクと開いた中から黒い種がポロポロと地面へ落ちる。

「綺麗に撮ってね」
今年最後の妖艶さを見せて、コスモスは間もなく力が尽きる。

花びらを失った額が、辺りを探している。
まだまだ花びらへの未練が額には残っているようだ。

土手一面に広がった花びらの上を、
あっちでもこっちでも飛び交っている蜂。
小さく響く羽音も秋の風情に趣を添えている。

馬見ヶ崎の土手を南下してきた。
すぐ向こうには済生病院が見える。
蛇口は退屈そうにじっと立ち尽くしている。

「紐が邪魔なんだずぅ」
小さな赤い実は、体の真ん中を抉られながら萎んでいく。

にょろにょろと花びら?が秋空をさまよう。
本当に小さな花だから普段は気づかない。
気づかない世界へも確実に秋は届いていた。

「あんまりシカシカて眩しいもんだがらよぅ」
強烈な日差しのために暗部が見えない。
光を受けたハンガーだけが闇の中に浮いている。

「あたしと雲とどっちが白い?」
花びらは聞いてくる。
やがて萎れるだろう花びらに、面と向かって応えるには忍びない。

「軽トラよりは白いねぇ」
かろうじて花たちに答え、後ろ髪をひかれる思いでその場を後にする。

「筋子食だぐなたなぁ」
連なる実に秋の光が降り注ぐ。
その実を見て、人間は都合のいい想像を膨らませる。

「ほれ、持てきたよ。」
ドアを開け、届けるおじさんは足取りが軽い。

長町の奥まったところに熊野神社がある。
何故、社殿の脇に灰皿があるかはあんまり想像したくない。

太い樹木の脇でじっと獲物を狙う。
「そろそろ蜘蛛の季節も終わりだびゃあ」
「まだまだ蓄えらんなね」
蜘蛛は腹をぷっくりさせ、まだまだ貪欲さを見せている。

ゴミ集積所の網が青空へ伸びていく。
「規則規則で縛らっでやんだぁ〜!」
分別ごみの規則は厳しくなっている。
縛れるのを嫌って空へ飛び出してみたけれど、その後どうしたらいいか分からない。
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