◆[山形市]長谷堂城山 彼岸花とシャインマスカット(2021令和3年9月25日撮影)

ガチャピンが体中に蔓を巻き付け、
両腕で電柱に抱きついている。

「クターっとなったどりゃぁ」
赤いパイロンは自信満々にまっすぐ立ちながら、花に声をかける。
一輪車も箒も、秋の一日を満喫しながら聞き耳をたてている。

「んだがら何回もいうげんとよ〜、邪魔なんだず〜、仕事なんだがらよぅ」
コスモスは防火水槽の言葉を意に介さず踊り続ける。

「もうちょっと青空が広がっどいいんだげんともねぇ」
「んだどおらだが映えるてがぁ」
コスモスたちは背伸びしながら大気を吸っている。

いつも城山に登るときは「八幡崎口」か「内町口」から城山へ入っていく。
たまには「観音坂口」から登るのも楽しい。
そして今日は趣を変え、道すがらの光景を愛でつつ「西向口」へ向かう。
それにしても城山には一体何か所の登り口があるんだ?

「俺さ尻ば向げんな」
鍋は自分の置かれた立場に腹を立て、
トンボに八つ当たりしているようだ。

「コキアてどごばどう撮ったらいいが分がらねずね」
コキアは小さく呟く。
「撮られるために生ぎでんのんねがら」

「歩こう 歩こう 私は〜元気 歩くの大好き どんどんいこう♪」
軽やかに歌を歌いながら軽やかに登っていく。

一個だけパッカーンと割れているクルミ。
その割れ具合にはわずかな心の乱れもなく、まさにスパっといっている。

城山には至る所に案内板や看板、案内図が設置され、
まさに至れり尽くせり堀米セリの親切さ。

登ってからいうのもなんだが、
あの赤い鳥居をくぐれば目の前にレッドゾーンが広がるんだ。
「あ、危険地帯なのんねがらね。んでも精神状態は乱れるがもすんねなぁ」

次から次へと頂上を目指しながら人々が訪れる。
城山は登山家ならスキップしながらでも登れるし、
出不精の人ならパジャマのままでも登れる平易で市民に優しい山。

「おお、いるいるぅ。皆カメラ片手に、赤い色に吸い寄せられている。

彼岸花の赤が先なのか、ピンと張るトンボの尾っぽの赤が先なのか。

林立する彼岸花の茎の向こうにも彼岸花。

「なしておだぐはほだな形で咲いでるんだ?」
迂遠な言葉を使わずストレートに聞いてみる。
彼岸花は無言で圧を込めながらこちらを見据えてくるだけだった。

赤をバックに撮ってみました。
「つまらねなて言わねでけろっす。まずはありきたりな撮り方からスタートだっす」

緑をバックに撮ってみました。
「ほんてん詰まらねんだず。どごでも見る写真だどれ」
心の声がイライラしている。
「んだてどいに撮ったらいいが分がらねんだも」
自問自答で頭が混乱するなか、彼岸花は端然と咲いている。

ズズズッ!斜面に足を滑らせ体が捻じれる。
その拍子にシャッターを押してしまった。

ズドンッ!
体が重すぎて尻もちをつき、カメラを地面に落としてしまった。
その拍子にシャッターが切れた。

渾身の一撃〜!
否、渾身の一写〜!
「カメラ好きって、その一点に集中すっどぎアドレナリン出まくりになるんだずねぇ」

あくまでも彼岸花撮影が優先だと心の表面では取り繕ってみても、
やはり女性に微笑まれてしまえば、彼岸花を遥かに凌駕して女性の優先順位が一気に上がってしまう。

彼岸花と女性撮影を一段落し、城山のてっぺんにたどり着く。
秋を迎えつつある頂上では東屋に穏やかな空気が絡まりつく。

遠くに山形の街並みを眺め、
友と語らう極上のひと時が流れる。

かなりお金をかけたに違いない案内板が設置されている。
その案内板とリアルな山形盆地の風景を一緒に撮ってみた。

「虫から食わっでなんぼっだなぁ」
舞い落ちる前に、葉っぱたちは強がりをいい冬を待つ。

堪能した城山を後にする。
くぐった鳥居は割れ目から葉を伸ばし、
それでも私は鳥居なんだという矜持を持って耐えている。

格子柄の蜘蛛の巣に、綿毛の種がいくつも引っ掛かる。
「いい迷惑なんだずねぇ」
蜘蛛は内心苦笑しているに違いない。

「おまえ誰?まさかシャインマスカットんねべ?」
わざとらしく冗談を言ったら、その実は頭を真っ赤にして枯れかけた手を振り上げた。

にょろにょろと虫に食われて密かに佇む。
小さな虫食いの隙間をも微かな風が潜り抜けている。

平地に降り立つ。
背中に滲んだ汗さえも心地いい。
親鳥は子供へエサを与えようと嘴を伸ばす。
「まさかエサはシャインマスカットんねべな」

「ようこそ長谷堂へ」
ゴジラは金属の軋むような声で人々を迎えているようだ。
しかし、ゴジラの晩年が長谷堂とは知らなかった。
しかも心も体も丸くなっている。

見事に広がるシャインマスカットの葡萄棚。
そのひと房ひと房には、物理的にも金銭的にも手が届きにくい。

「ひと房何千円?」
「ていうごどは一粒なんぼだ?」
私のような小市民は情けない計算を心の中でしながら涎を垂らす。

「俺ば撮ったてしょうがないべぇ、ぶんどば撮ってけらっしゃい」
笑顔でおじさんは言った。
このおじさんは鳥やゴジラの造形物も造ったらしい芸術家。

真面目な画面へ突然現れた大阪のおばちゃん風。
「シャインマスカットて、社員マスカットんねがら」
「シャインマスカットば社員全員さ配ったら太っ腹て言われっべな、うふふ」

「今撮っから、ちょっとそのまま」
「この格好のまんまで止まてんの楽んねぇ」
脚立から降りれば、その格好をしばらく我慢していれば、
ほどなくシャインマスカットの芳醇な味を堪能できる。
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