◆[山形市]六椹八幡様 竹にあかり、傘に雫(2021令和3年8月21日撮影) |
陽が沈みかけたころ、否、小雨が曇天から絞られて落ちてくるころ、 どこからともなく人々が集まり始める。 |
竹に意匠を施され、中の灯りがチロチロ囁いてくる。 |
「今日はおらだが照らす必要もないんねがよ」 受付の前にぶら下げられた白熱球は、竹のあかりを見ながらわき役に徹する。 |
「きてけろくんちっちゃすぎてローアングルから狙わんなねぇ」 「ほだい足はんばがてぇ」 人々はスマホで何かを撮るときは完全無防備になってしまう。 |
「んだら俺も足はんばがて下から狙うっだな」 薄闇の中でも笑顔を絶やさないきてけろくん。 |
雨脚がやや強くなってきた。 さっきまでは燈明の御神燈の筆文字が読めていたのにと、 竹の筒は脇に佇み波紋を虚ろに見つめる。 |
竹に穿たれた穴ポコからオレンジの光が漏れている。 人々は傘とスマホを持ち、手がふさがって灯りを見る余裕もない。 |
「こいずなんた?」 「かまぼごさ箸刺さったんだが?」 「キューピットだべしたぁ」 「分がてっずぅ」 |
「こだっぱい穴開いで、作る人はどだい大変なんだっけべ?」 「こだっぱい穴開けらっで、竹はどだい痛いっけべ?」 |
「久しぶりに拝んだなぁ」 「んだず。お祭り早ぐ復活してほしいずねぇ」 神輿を前に傘と頭のシルエットがゆらゆら揺れる。 |
「おらだなしてこごさいだんだ?」 「鐘突堂さ登んなてだべ」 「んだら登るな危険どが張り紙さんなねべした」 ぶつぶつ言いながら、ケースたちは目の端に竹の灯りを入れている。 |
竹の灯りが浮き上がってくる頃、 枯葉は小雨に濡れて地面に横たわる。 |
雨に濡れたおみくじが力なく項垂れている。 その向こうの社殿には人々が引きも切らない。 |
竹の筒を覗いてみた。 雨のしずくと黒い穴ポコが対峙して、 それを灯りが柔らかく包む世界。 |
雨は止みそうもない。 様々な竹の意匠は濡れながら八幡様の境内に溶け込んでいる。 |
この催しは氏子青年会の方々の尽力で開催されたという。 暗い世の中にあかりを灯したいという気持ちが形になった。 |
「なして受付さサトーのさとちゃんがいるんだ?」 「猫の手も借りっだいていうべ?」 「像の鼻ば借りっだのがぁ」 |
「ほいにんねくてこいにだべ」 「はえずぁあっち、こいずはほっち」 灯りの催しはとっくに始まっているのに、 いまだに灯りの位置取りの攻防が続く。 |
「王手!これで決まりだはぁ」 「んだがよ、ちぇっとズレでいねがよ」 おそらく九時の終了時まで灯りの形は決まらない。 |
傘の雫が垂れるころ、シルエットはスマホの操作に余念がない。 |
「パチパチて手ば叩いでな」 「ほしたら拝んで」 子供たちは小さな体で一生懸命二礼二拍手を覚えていく。 |
真正面から眺めてみた。 八幡様がハートの口を開いて招いているようだ。 |
「んだがらチンアナゴんねず」 「竹の筒だず」 「チンアナゴの新種が?」 |
灯りに目が釘付け。 でも、帰っからなぁの親の声に、体は歩みを止めない。 |
闇が境内を包み込み、 いよいよ竹の隙間からの灯りが勢いを増す。 |
「おまえばり早ぐ拝んでなんだずぅ」 「遅いの悪れのっだなぁ」 拝礼者は灯りの中、引きも切らない。 |
傘の表面で雫に交じって灯りが滲んでいる。 |
竹から漏れる灯りは傘を照らし、傘自体も灯りを媒介している。 |
「しぇがんべ。美すいったらなぁ」 「おんちゃん見とれるのはいいげんと、スエットパンツがずり落ぢねが」 |
濡れた参道にもオレンジの灯りが這い伝う。 |
「こごさ階段あっからな」 きてけろくんにとっては一段の階段を上がることさえ難儀な事。 周りのみんなは傘をギュッと握り、きてけろくんの足元をじっと見つめる。 |
社務所の奥から山形弁がまろび出てくる。 それを受け止めながら吸い殻入れは深く一服する。 |
「雨降ったげんと、こだい人来てけで大成功んねが?」 「やっぱり今の世の中、みんな溜まてるんだずぅ」 「んだらまだなにがさんなねっだなぁ」 快い疲れが灯りのなかに漂っている。 |
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