◆[山形市]山家本町・沼の辺 どこまでも猛暑が憑いてくる(2021令和3年8月7日撮影)

七月最後の陽が月山にオレンジの薄い膜を掛けながら消えていく。
※この画像のみ7月31日撮影です。

猛暑は続くよどこまでも。
蓮の群落も果てなく続く金勝寺前。

「お、夏のごっつぉだどれ」
「んでも、赤いどご無くなるまで齧らんなねっだなねぇ」
スイカの皮を見るだけで、食べた人たちの笑顔が浮かんで見える。

「あの巨大なナメクジみだいなトンネルさえ見えねど、ほんてん昭和の街並みだな」
「ほだごどゆうなず。あれがあっからバイパスばくぐって鈴川小さ行ぐいんだがら」

真夏の象徴百日紅が電柱と競って空へ伸びる。

「百日紅てクチュクチュて咲いでで、花びら・ガク・雄しべ・雌しべてはっきりすねずね」
「キクラゲみだいでいいどれ」

流れる雲に付いていきたいと、蔓は電柱を這い上る。

「あ〜、目の前さビールがあるっていうのに!」
一体俺はこのくそ熱いのになにしてるんだと歯噛みする。

歩きたばこをする人も、地面へポイ捨てする人も、
おそらくは未だに昭和のつもりでいっからなんだべな。
あの頃は痰をペッと吐こうが、煙草を捨てようが当たり前の世の中だった。

「邪魔すんなずーッ!」
背後の看板からクレームの声が聞こえてくる。
ススキはお構いなしに猛暑に勢いを増している。

バイパスの喧騒を逃れ、鈴川公園への小径に入り込む。
「さっそく熊が出だどりゃあ!」
「エサも喰ねで、日陰さも入らねで、よぐ笑っていられるもんだずねぇ」

「おれどおまえがくっつぐ日が来るごどはないんだべな」
こんなに近くにいながら、お互いに動くこともできず、
蛇口はただ嘆きの影を伸ばすのみ。

何も語らず黙々と働く。
誰も見ていない。誰かが感謝しているかも分からない。
背中を伝う汗が地面に染みる。

いったいどれだけの子供たちがこのタイヤに座って滑降したんだが。
誰もいない猛暑の公園で、体をテラテラに光らせながらぐったりとして子供の尻を待つ。

「今日の釣果が楽しみだなっと♪」
トランクを開け釣り道具を取り出すおじさんは心ウキウキ。
その姿をバス停と駐車禁止の看板が微笑ましく眺めている。

日傘を並べて沼に向かう。

山形市内の猛暑を背負って沼の辺までやって来た。
バスに乗ってうたた寝するのは気持ちいい。
無目的に沼の辺から山形の街中までバスに揺られてみたい。

お帰りとバス停が言った。
ただいまとウインドウのバス停が応じた。

「飲み込まれるはぁ!」
夏の蔓はもさもさしていると家を飲み込むほど巨大化する。

「縄文土器だが?」
「作った人さ失礼だべな」
味わいのあるポスト置きは、どうやら継ぎはぎなく一本の木から造られている。

「ペットボトル飲料と凍ったアクエリアスば持てきたげんとよ〜」
ギラっと肌に刺さってくる光を斜に見る。

「なにがなんでもこごは山家本町だがらな!」
そんな力強さが看板から感じられる。

「当たり前のどさでもある光景だど思うべ?」
「んでも全国どご探したて、おんなじ光景は無いのよ」
当たり前風な唯一無二の街角。

空に一足早くパッパッと花火が連なって開いた。

八つ手の元気はいったいどこに潜んでいるのだろう。
なんの憂いもなくあんなにパッと心を開ければと羨ましくなってくる。

蔵の庇を支える金具が模様を白壁に描き始めた。
ああ、太陽が傾き始めたんだな、夕方が近いなと斜めになった模様で知る。

「水道さ絡みついだがらて、水分ば得られるど思うなて安直なんだず」
蛇口は迷惑げでありながらも、水を得ようとする蔓の気持ちも分からないではない。

「火の〜」とよろめきながら、燃え盛る火の中で頽(くずお)れる体の様になりながら、
最後まで役目を全うするんだろうな、文字たちは。

暗がりの奥がピンクに染まっている。
あれはきっと百日紅に違いないと、
暗闇に慣れない目を擦りながら表に回る。

「ありんこだも大変だずねぇ、なんぼ暑いったて働がんなねんえだもねぇ」
ムクゲの花びらを見つめながら、いつの間にかありんこの動きを見つめていた。

「女郎花(おみなえし)んねがよ?」
「んだよ。秋の七草の女郎花だよ」
猛暑が真っ盛りの山形でも季節は着実に進んでいる。

鶏頭が系統だたずに咲いている。
バイクの響きに微かに震え房の熱を振り払い、再び何事もなかったように空を突く。

空が怪しく曇ってきた。
この頃はいっつも夕方近くに雨が降る。
その怪しさを敏感に察したのか、花びらにも何とはなしに陰りが見える。

「石のかねこだが〜?こねかの石だが〜?」
車内の熱気を放出中のトラックに聞いても応えない。

花の咲く時期は終えたのか、妖怪と化したような、シャワーのノズルのような形だけが残っている。

片方は実が抜け落ちている。
片方は実が外をキョロキョロと覗いている。
ちなみに実は食べると栄養価が高いってごどだげんと、ほんてんか?

「心の穢れた人間は入てくんなず」
カメは胡散臭い私を睨んでくる。
腹いせに足元の雑草を池に投げ入れてみたが、無視された。

なんのマジックも使ってません。
なんのトリックも使ってません。
なにが映っているかもよく分かりません。
「なんでこだごど映てしまたんだべ?」
「車のリアガラス越しに蓮の花ば狙ただげなんだげんと」
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