◆[山形市]十日町 夕暮れて盆地とマスクに蒸れ残る(2021令和3年7月17日撮影)

「暑っづくてわがらねッ、汗とまらねッ」
若者が手からスマホを離さないように、
おじさんは手からタオルを離せない。

梅雨が明けた途端に西日が厳しさを増している。
西を向いた看板たちは眩しさに堪えながら、明るく案内の役目を果たしている。

「あららぁ、あんまり暑くて上着が人間から逃げでしまたがほれぇ」

古くからの街、十日町だから楽しめる光景。
この光景を守るように?マンションが周りを固めている。

デイパックを背負った若者がすれ違った。
ケイトウに当たっていた日差しが一瞬遮られた。

街には熱気が沈殿している。
空には雲間から帯が伸び始めた。
路地の向こうにはツンと山形学院の十字架が見える。

薄昏のなかをムラサキシキブが可憐な花が浮いている。
車たちは尻を向けて車庫に収まっている。

十日町は昭和の家並と令和のマンションが混在する。

自転車はコソコソとトタンの陰に隠れようとしている。
夏の蔓は熱の冷め始めたトタンをソロリソロリと降り始める。

常念寺のベージュの塀沿いに、
篭った熱の中をくぐるようにしてバイクが走る。

十日町から三日町にかけては寺院が多い。
寺院の周りには、果たして通っていいのか、
先はあるのかと人を迷わせる小路が張り巡らされている。。

町内安全の文字は体が乾ききり、疲れたように色褪せている。
その奥では仕事にあぶれたスノーダンプが、まだまだ暑さを体に残している。

西日に向かう白い蔵。
やっと一日が終わりそうだと安堵の表情の紫陽花。

十日町は街のど真ん中だというにに、
小路を進むとぽっかりと空き地が現れる。
空もいきなり広がり、青さの残る中、雲がゆったり流れていく。

実相寺の正門に立ち汗をぬぐう。
光を失い始めた街には、少しずつ暗色が塗られていく。

きっとハサミはここにぶら下げ、スノーダンプはあそこに引っ掻けと、
使いやすさを考えて主は物をぶら下げていたに違いない。
しかし、その家に人の気配はまったくない。

薄暗がりでアザミの咲いていることに気づく。
やがて闇に覆われるだろうに、紫色をパッと開いてこれからどうしようというんだ。

影が優勢になってしまった小路だけれど、
どうやら道らしきものが続いている。
道の奥には緑が誘うように明るく輝いている。

光の粒子が少しずつ弱まる中、黄色い花びらは視線を感じてふと首を上げてみた。
ジーっと見つめるのは崩れかかった廃屋だった。

帯状の光の筋が空へ放射状に伸びていく。
十日町は熱を帯びたまま色を失っていく。

低い軒先には頭がぶつかりそうだ。
高いマンションは帽子のつばが邪魔をして一番上まで見えない。
高低差の激し過ぎる十日町。

街はいつもと何も変わらず人やバイクが行き交う。
でも、街は漫然と毎日が繰り返されているようで、
本当は延命するために少しずつ変わっている。

太陽が雲に捕まり、西日が弱まった。
建物の鋭角的なラインが空の青さと拮抗し際立っている。

アルストロメリアの花弁を透かす力がすっかり無くなってしまった光。
花弁はやがて熱のこもったぬめるような闇に包まれる。

「ほっだいだがてぇ、大丈夫だがっす?」
両方の手のひらに袋の重みが加わって、
手のひらはうっ血との戦いの真っ最中。

今日一日の騒音と、人々の思いとが混じりあい、
熱に晒された街の中に沈殿する。

ガス灯の向こうに丁度太陽が隠れた。
ガス灯もビルの窓もオレンジ色に染め上げられている。

千日紅が赤い首を降っているのに、
人々は帰路を急ぐあまり振り返りもしない。
それとも暑さでそんな余裕を失っている?

白いマスクに白い手袋が涼しさと清潔さを醸す。
その手袋が握るハンドルに乗車客は身をゆだね、
「今日は晩御飯なにしたらいいがなぁ」と、座席でぼんやり考える。

日暮れと共に活気を見せ始める居酒屋さん、のはずなんだけれどと、
すぐ脇の銀杏の木はオレンジの日を浴びて悶々とする心の内を吐露して見せる。

月がポツンと小さく空に掛かっている。
提灯の灯りが少しずつ存在感を増している。

歌懸稲荷神社では夏の間中、提灯が夏の夜に灯っている。
様々なお祭りも消えた街中で、少しでも人々の心を明るくという配慮が嬉しい。
ところでこの提灯は車体のリアウインドウに映っているってすぐ気づいた?

提灯なんて見たこともないと、
花びらを落とした紫陽花に捕まって、珍し気にトンボが見入る。

「やっぱり笑顔が一番だずねぇ」
「んだ、笑顔さえあれば人間生きでいぐい」
この力強い笑顔の文字を見て思った。
「俺は今日笑たっけがぁ?」

「んまぐ描いだなぁ」
「褒めでけらんなねなぁ」
お父さんは手を伸ばし、提灯へ少しでもスマホを近づける。

駅前通りをグイっと伸びてくる今日最後の光。
自転車はその光に押され、自分の影を追いかけるようにペダルを漕いでいる。

歩道は赤く染まり、日中に蓄えた熱を放出している。
「うぢさ帰たら、ちぇっと一杯が」
それを楽しみに一日を働く人々も多いに違いない。
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