◆[山形市]下条・梅雨の合間を縫って左沢線を縫う(2021令和3年7月3日撮影)

いつものように構えている霞城セントラル。
その手前には道路拡張工事中で雑然とした雰囲気の下条町が広がっている。

左沢線ガード下にあるバス停。
暑いときは日陰に、雨が降っているときは雨除けになる好立地。

「コンクリートさ触って火傷すねんだがよ?」
左沢線の土手から、コンクリートの熱を気にもせず、そろりそろりと夏草が降りてくる。

本当に梅雨なのかというほどの青空。
今までどよーんとした空が広がっていただけに、空がまぶしくて目がシカシカする。

雨滴で汚れてしまった車のウインドウには、
久しぶりに青空が張り付いた。

塀を伝って黒い魔の手が地面に降り、
そしてその先端は側溝の蓋を超え少年たちに近づいている。
少年たちのまばゆく真っ白いTシャツには黒い魔の手もひるんで手を出せない。

国道112号の通りから路地を入ると、そこに昔ながらの家並が続いている。
屈曲した幹はつっかえ棒に支えられながらも、
まだまだ生きるぞと、緑の葉を空に伸ばしている。

下条は知る人ぞ知る堰の宝庫だ。
何処を歩いても必ず堰に巡りあえる下条は、
そのことを自慢しないのが奥ゆかしい。

影が本体の姿を凌駕する。
「おまえ、俺より太いなておがしいべぇ」

久しぶりの青空を眺め、やっと夏が来たかと、
大気にゆったりと身をゆだねるムクゲ。

青空に入道雲が沸き上がっている。
下条の昭和の家並の中を歩きながら、少年時代が蘇る。

ワサワサもふもふと紫陽花が膨らんでいる。
今しかないんだと言わんばかりに青空のもとへ溢れ出る。

「なしておまえだは、直立するごどしかしゃねんだず」
「曲がったことが嫌いなんだっす」
たまには自分を曲げ無ければならないこともあるのが人生。
そんなことはお構いなしにタチアオイは空を向く。

ギラギラと光の刃が降り注ぐ。
タチアオイはその刺激がたまらないのか、
益々勢いを増して空を突く。

「青いんだが赤いんだがどっちなんだ?」
表現に苦しむような様々な色を組み合わせ、
ガクアジサイは人の目を楽しませてくれる。

鎖はしっかりとボンベに抱きついている。
でも、鎖の影は面倒くさげにだらりと下へ向かって垂れている。

こんなに日差しの強い日は、木陰でゆっくりと休みたくなる。
花壇の草花を愛でながら。

ファミリーボール沿いと112号線の数百メートルの間に、
左沢線の下をくぐるガードが五か所もある。
あるガードは草むらに閉ざされ、あるガードは人がすれ違うのも大変。
それでも下条の人々の中に溶け込んでいる。

木漏れ日がセメントの上に斑模様を作っている。
蛇口の下には人間への不信感が滲み出た張り紙がぶら下げられている。

安堵橋公園は桜の名所でもあり、遊具も充実し、
左沢線の列車も眺められるから、地域の名所と言っても過言ではない。

「おまえは逆時計巻きにしかならんねんだが?」
「裏側から見でみろ」
「お、時計巻きだな」
なんだが蔓に騙された気分の梅雨の合間。

沸き上がる雲の下、建物に挟まれて、窮屈そうに再び現れた左沢線のガード。
通る人がいない中、梅雨の空気が行ったり来たりしているようだ。

地面が熱せられ、猫は余りの暑さに体を浮かせながら、
足を地面へくっつけないように飛び跳ねている?

強烈な光のせいで、遂に植物にも日傘が必要になってしまったのか。

傘に入れず光の針を刺されている葉っぱたちは、
傘の中に入れてくれと訴え、その影は傘の模様となって悶えている。

長閑に見えても30度を越えている。
突然の梅雨の隙間は体にこたえ、思わず板塀に寄りかかりたくなる。

「涼しいがらこっちゃきたらいいべず」
ホイルは洗面器を被り、のほほんと声をかけてくる。
その誘いに乗りたいが、人の敷地さ入る訳にいがねべ。

このまま梅雨が明け真夏になれば、
蔓はガードを覆い、
まるで劇場の緞帳の様に垂れ下がって人の通りを塞いでしまうべな。

フェンスに自ら絡まって、風雨に耐えられるようにでもしているのか。
ギボウシは青い空に背を向けて、薄紫の自分の世界に篭っている。

「くたびっだのんねがよはぁ?」
「くたびっだのんねぇ、ただとしょただげだぁ」
似て非なる言葉だが、いずれにしてもその肌には保湿剤が必要だ。

「ウインナー食だいなぁ」
消火栓は地面に落ちたタコウインナーを眺めながら腹がグーと鳴る。
タコウインナーに見えるのはザクロのガクなんだげんともね。

「いったいどれだげガードがあるんだず」
左沢線を通る列車も少ないし、ガードをくぐる人々も少ない。
それでも無くてはならない地域の構造物に他ならない。

「あんまり太陽さ当だて、色が抜けだのがぁ?」
「人間は太陽さ当だっど真っ黒になるんだべ?」
太陽に当たって色の抜けるもの、焼けて黒くなるもの。何が違うんだ?

「その小径ば行くど112号だがら車でやがますいよ」
可憐な花が深紅の色を放ちながらそっと教えてくれる。

路地を伝って112号の騒音が流れてくる。
その騒音を掻きわけて、赤い花の木を目指す。

「七夕だがら短冊ばぶら下げっだのが?」
「どさ目ば付けっだんだ?ザクロの花だべな」
ザクロとの会話に軽トラが割り込んでくる。

ぼたぼたと落ちた仲間の花たちが上を見上げている。
「あたしも間もなくそっちさ行ぐがらな」
艶々としたガクをまとったザクロの花が、落ちる勇気を今蓄えている。
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