◆[山形市]蔦の木・高瀬川こいのぼり 萌える村で空を舞う(2021令和3年4月24日撮影)

「布団干し日和っだべ」
バハッバハッっと布団の埃を払う。
桜たちは何事かと益々枝を伸ばす。

「暑くて体がベロベロだはぁ」
トタンは体をくねらせて、熱い吐息を影の下から吐き出してくる。

住宅の屋根が隠れてしまうほど、いまチューリップが真っ盛り。

「まだまだおらだだて伸び盛りなんだじぇ」
あちこちの隙間から次から次へと顔を出す土筆。
地面にはどれだけ栄養分が溢れてるんだ。

キラキラと手を振りながら流れ去るせせらぎ。
その光の粒は喜びの一つ一つが弾けて飛んだ印。

「あんまり後ろから押すなずぅ、水路さ落ちでしまうべな」
あまりに育ちすぎ、立錐の余地もなく土手から溢れる芝桜。

「春はいいずねぇ」
「んだっだ」
微風の中で静かにポストは脚立と言葉を交わす。
たったそれだけの会話で、二人はお互いを感じ合う。

「ちぇっと太りすぎんねがよ?」
椿の体形をからかって声をかける。
親父の声など意に介さず、花びらは益々空へ膨らんでいく。

水仙は行儀よく並んで道行く人々へ笑顔を振りまく。
「ほっだな誰も歩がねんだがら、横になて寝でっどいいなだぁ」
タイヤはデレーっと石垣へへばりつく。

「もうちょっと背が欲しい!」
ムスカリは青紫の花をグイっと空へ伸ばしても地面から数センチ。

「春も中盤になっど邪魔くさぐなるんだげんと」
ヒメオドリコソウのあまりの密に少々辟易気味で愚痴ってみる。
聞く耳を持たず、廃車のタイヤへどんどん潜り込む勢いに呆れてしまう。

椿は興味津々で窓の中を覗き込む。
熱く充満した車内では、枯れはてた去年の夏草が体をくねらせて呻いている。
椿は見てはいけないものを見てしまったような気になり、徐々に体を引っ込める。

廃車が真ん中に鎮座する。
春は排除することもなく、その錆びだらけの体を包み込む。

「興味はあるんだげんとも・・・」
錆の浮いた車体に近づくべきか逡巡する土筆たち。

時間だってたまにはゆっくり進んで体を休めたくなる。
今日などは時間さえも欠伸をかみ殺し、いつもより少しばかり遅く流れる。

「おらだばおかなぐないのが?」
三本の鍬が声をかける。
「さっぱりおかなぐない」
レンギョウは鍬の役目をちゃんと知っている。

「公害なていう単語ば久しぶりに目にしたなぁ」
呟く私にYKKが言う。
「んだずねぇ。いづまでも昭和ば引きずってるんだず、あの看板はよぅ」
そういうYKKだってちょっとばかり錆が浮いている。

雪柳の枝は通り過ぎる車に煽られて、
その体をグイっと空へ持ち上げる。

「カキクケコッてゆうだぐなる」
それほどにパキパキと硬い体を屈曲させながら柔らかい芽を吹いている。

タイヤたちは大口を開けてバホーバホーと息を吐く。
雪柳はその熱い息に翻弄されるように揺れている。

一冬越えてネットにはまだ何も育っていない。
スカスカのネットを通して日差しはトタンに影を張り付ける。

「おまえ目立ちすぎだず」
箒や水仙が板ぱんこに苦情を言う。
まっ黄色の板パンコにその意識はなく、ただずねーんと立っている。

鯉のぼり見たさに、道は渋滞する。
何の騒ぎだと若葉たちが道端へ伸びだしてくる。

看板は笑顔なのに何かごしゃいで、近づくなみたいなことを言っている。
春が様々な色に彩られていく中、看板は蒼白な顔にすっぱげていく。
「みんな看板ば無視すっからっだなぁ」

「あっちば見でみろぉ、賑やがだじぇえ」
賑やかなのは悪みたいな風潮の中、
軽トラは遠慮気味に鯉のぼりの会場を遠見している。

それぞれに間隔をあけながら、水辺に寄って穏やかな日差しと水音を浴びている。

淀んだ流れの中でも、鯉のぼりが大人しく人知れず泳いでいる。

たまに吹く風が、目の前に尾びれを伸ばしてくる。

「うわっ、前が見えねどれぇ!なんなんだず!」
鯉のぼりはいたずら好き。
突然顔を尾びれが撫でていく。

水音は絶えることがない。
鯉のぼりたちは風任せで、たまにはだらんと休憩タイム。

すでに散った花びらは、波間に揺れて春に彩を添えている。

子供たちに入るなと言っても無理。
ジャバジャバと入り込んで、冷たい水の感触を楽しんでいる。

「どごさ行ってもイベントも祭りもないんだがらな。こごで撮るしかないんだがらな」
露店もトイレも無く、例年の様にはいかないけれど、
地域の方々は鯉を泳がすことを決断した。

岩場は空を鋭角に切り取っている。
その隙間からも泳ぐ鯉の喜びの歌が聞こえてくる。

花びらは旅立ってしまった。
それは初夏の始まり。
若葉がそろりと顔を出し、鯉のぼりは空へ口を広げて夏よ来いと歌っている。

「ちぇっとこっち向げずぅ」
「んだて鯉のぼりから目ば離さんねんだもぉ」
スマホやゲームより大切な時間が高瀬の川を覆っている。

「ほだんどごさいだら焼き魚になてしまうべな」
熱せられたフロントガラスにも鯉のぼりは泳いでいた。

「ごしゃっぱらげるったらぁ」
「こだいズダズダ濡らしてはぁ」
ごしゃぐの三段活用で一番強い言葉を吐いて、
親はアタフタと子供の体を拭いている。
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