◆[山形市]八丁路公園・天沼 風と共に花びら去りぬ(2021令和3年4月18日撮影)

ブハラブハラと音をまき散らして洗濯物干しが空を舞う。
なんだて今日は風が強すぎる。

自転車は迷いに迷って、少しずつ看板へ近づいていく。
「はえずぁんだっだなねぇ、日替ランチ0エンて、どだなだず?」

バイクのお兄さんはちらっと左側を見た。
その先には犬川の畔に枝垂桜が咲き誇る。

「あんまり風強いがら喉乾いでよぅ」
皆、夜来の雨でできた水たまりに集まってくる。

太陽が出たかと思えば、小雨が顔に当たったりという猫の目天気。
太陽がカーっと照った途端にボンネットはうねる様なラインを浮き立たせて雲を映す。

枝垂れはガードレールを越えて向かってくる。
高ぶる気持ちを風に押されて私に近づいてみたものの、
興味が失せて、なーんだという顔で引っ込んでいく。

紫木蓮や様々な草花たちに褒めたたえられ、枝垂桜は強い風に乱舞する。

「まっすぐな心て直線なんだべずね?」
「んだ、その直線が親には見えるんだべなぁ」
箒とちり取りは、仕事の合間に看板を品定めするように見つめている。

どこから舞ってきたのか、花びらたちは八丁路公園の遊具の周りに着地する。

まだこの世に出てきたばかりで世間の風には慣れていない。
それなのに世間は甘くない。
いきなり風の洗礼でゆさゆさ揺れる生まれたて。

八丁路公園は南栄町の犬川の畔にある。
誰もいないのにカメラのピンとから外れるように右へ左へ花は揺れ続けている。

まだホヤホヤの湯気を感じるようなか弱さが、
空に向かって少しずつ強くなっていぐんだべな。

若葉が本当に目に眩しい。
こんな色を楽しめるのは今だけ。
時間は今だけが積み重なってできてゆく。

「なんだずシートから顔出しったのがぁ?」
「なんぼ隠したて、この風だもの、シートなの逃げまくってダメなんだぁ」
シートのことを心配し過ぎて、自分が倒れないように気を付けてくれ。

「おまえ隠れでしまうのがぁ?」
錆びだらけのちり取りが恨めし気に箒にいう。
「んだて葉っぱが伸びできてたんだもしょうないっだず」
葉に隠れてシメシメと箒はほくそ笑む。

目まぐるしい天気に人々も傘を差したり畳んだり。

「空に向かって強い意志を見せつけっかど思て!」
「なんの意味があんのや?」
「ほだなしゃねっすぅ」
チェーンが強い意志なのは良いとして、
知恵の輪みだいにこごらげっだのんねがよ。

八丁路公園から南一番町の天沼へ風の中を進んできた。
ここでも枝垂れ桜が迎えてくれたものの、すでに風に翻弄された花びらが散っている。

「あんまり風強くて、こだんどごさ逃げ込んでだのがぁ」
コンクリの穴ポコから外の様子を恐々と伺う花びらたち。

「風強くて寒ぐないがっす?」
ボールをたがったままで少女はプイっと横を向く。
思春期の女の子はとにかく難しい。

花びらに埋もれたまんまで「の」の字を描く寡黙なベンチ。

花びらの大海をうねって泳ぐ根っこたち。

「指で触れねくても水ば出すいようになたのがあ?」
蛇口のレバーは地面に集った花びらたちから見上げられて誇らしげ。

若々しい青葉が天沼の湖面を覗き込んでいる。
天沼は山形五堰の一つ「笹堰」のため池だそうだ。
市民に親しまれているのも分かる気がする。

湖面に漂う花びらたちは、水の青さが透けるほどに儚く薄い。

「タラの芽だが?」
「なんだがよっく分がんねげんと、こだんどごさ伸びっだら獲って食てけっじゃあ」

真冬の墨絵のような光景に慣れた目には、鮮やか過ぎてまともに見られない。

「なんだず皆おんなじ方向ば向いでよぅ」
太陽の光に花びらは艶々と輝き、風に体をしならせる。

艶々と硬そうな葉っぱが辺りに光を反射する。
花たちは満面の笑みを辺りに振りまき、
風の中でも目を閉じることなく、生きる強さを見せつける。

この辺りの子供たちにはメッカに違いない一銭店屋。
ガラス戸には周辺の街並みが映り込み、軒では折り紙が皆を誘っている。

「か弱いんだがら、あんまりスピード出さねでな」
トラックの巻き込む風に首を揺らしながら、それでも笑みを絶やさない。

いったいどれだけの子供たちが、そして親子が座ったことだろう。
ペンキは剥げては塗られの繰り返し。
その幾層の隙間に山形の季節が染み込んでいる。

「真似すんなず」
「ほだごど言わっでも、この格好が好ぎなんだも」
一輪車は重なり合って大人しく仕事を待っている。

気になって車の下を覗いてみる。
そこにはタンポポがいじらしく咲いている。
桜の様に艶然と振舞うでもなく、チューリップの様に可愛らしさを誇張するでもなく。
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