◆[山形市]文翔館・熊野神社 枝垂れに月が引っ掛かる(2021令和3年4月10日撮影)

白鷹の丘陵へ太陽が吸い込まれていく頃、
文翔館の時計台は、黒いシルエットとなってオレンジ色の空を切り取っている。

闇と光がせめぎ合っていた広場は、少しずつ闇が優勢となっていく。

まぶし過ぎる夕日に、ふと振り返ると、
駐車場に据え付けられた消火器は、体を熱くして夕日を見据えていた。

今日最後の光は枝垂桜に留まり発光し、
少しずつその灯りが萎んでいく。

「ほだんどごで、何いじけでんのや?」
「いじけでなのいね。ただ失業して困てるだげだ」
如何にもきつそうな性格の月極駐車場看板に言われ、
スノーダンプは体を縮こませる。

「退屈だずねぇ」
「んだずねぇ、何がないもんだがねぇ」
双子のタイヤは欠伸をかみ殺す。
傘は会話に耳だけ傾ける。

薄闇の中に灯りに照らされたポスターたちが浮かび上がってきた。
小さな空間のそこだけが小さな幸せを放っているようだ。

夕方の青い空がボンネットに映りこむ。
その色合いが濃くなりつつあるのをボンネットは何気なく受け入れる。

新築西通りから熊野神社方面へ足を向ける。
空気は冷たく、空の明るさが急速に減っていく。

街灯が徐々にその存在を目立たせ始めた。
熊野神社の満開の桜は、その光のおこぼれにあずかっている。

「水の中でうるがしておいだみだいな体だどれぇ」
おみくじは風雨でふやけた体を闇に馴染ませようとしている。

「いつもはただのこの毛みだいにむっつりしてんのにぃ」
桜に黒い眉毛と思われていた街灯は、夜になると明るい性格になる。

熊野神社の隅にひっそりと咲く水仙が水面を覗いている。。
その水面へ鯉たちが波紋を広げ、マンションの灯りがその度にゆらゆら揺れる。

ちょっとストロボを焚いてみた。
桜は驚き一斉に騒ぎ立て、蕩けていた大気に波紋を生じる。

花びらは気になるのか、ミラーを覗き込んで自分の身なりを整える。
人に見られることを意識して、常に綺麗でいなければならない花びらたち。

文翔館の時計台を正面から見るのは当たり前だと思っていた。
でも、六日町の人々は常に裏側から時計台を見て育ってきた。

街の灯りは潤んで見える。
空から枝を下げた枝垂れは寒気に凍えている。

濃い青が広がってゆく空。
寒気の中で力を蓄えてきた枝は、今まさに葉を付けて大きく空へ広がろうとしている。

一塊の風が花びらを躍らせる。
固く凍り付くような大気がひと時かき混ぜられる。

花びらの向こうには時計台の盤面が浮かび上がっている。
ただひたすら時を刻み、ただひたすら市民に時を伝える。
寒かろうと暑かろうと明るかろうと暗かろうと。

こんな時間にはもう誰も訪れない。
遠くから七日町の車の音が唸りとなって寄せてくる。
桜はその隙間を縫って花びらを散らせ、新葉を伸ばし始めた。

「こだいいい場所ないっだずねぇ」
「んだんだ、山形の一等地で桜ば見るいなて最高っだなぁ」
ベンチはふんぞり返っているけれど、寒さに体を硬くする。

枝垂れに月が掛かるころ。
桜の頃は時計盤が月の代わりを演じてくれる。
「んでも月が二つ見えっじぇ」

議事堂前では夜の間、番兵が直立不動で灯りをともし番をする。

オレンジの外灯がまぶし過ぎると寒牡丹。
花びらさえもオレンジに染められている。

鉄扉は黒く硬くじっとしたまま街灯の灯りを受け止めている。

「ランタンが空さ舞い上がっていぐみだいだぁ」
夜の木蓮は空向かってゆらゆらと登ってゆくようだ。

夜になって辺りに針をまき散らすように益々寒気が強くなってきた。
木蓮は花びらを一枚開いてみたものの、まだ早すぎたかと躊躇っているかもしれない。
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