◆[山形市]八日町・十日町・香澄町 あぢやま桜には追いつけない(2021令和3年4月3日撮影)

快晴の空にビルが突き出ている。
でもそのビルは十字屋ではなかった。

山形市をくるりんと回るバスが太陽の光を体中に一杯浴びて十字路を曲がってゆく。
遠くで窓を光らせた新幹線が出発を待つ。

二小の正門で、あまりの天気のよさに桜の枝たちは歩道へちょいとはみ出してみた。

「あ、木蓮咲いっだどれ」
スカートを翻し、スマホを片手に、女性は速足で近づいていく。

車がフロントガラスを煌めかせて走り去る。
木蓮は煽られても我関せずと咲き誇る。

「一気にきたぞー!」
早まった春に遅れまいと、花びらは勢いをつけて一斉に開く。

「固くお断りすんのは分がるげんともよ、老木の板が固そうんねんだげんと」
「つぺたのこぺたの言うな。とにかく固いんだがら」
床下からごっつい石ころたちがこちらを覗いて感情的な言葉を返してくる。

「えー!終わったどりゃあ」
「霞城公園なの、まだ今から咲ぐていうのにぃ」
すでに咲き終え、花びらは散った後。
あぢやま桜のスピードには追い付けない。

花びらの散った桜の木を呆然と見上げる。
蔵の窓をため息のような微風が出たり入ったりしている。

「花びらだ潔よすぎねが?なにも自らゴミ収集の網さ進んで入っごどないべした」
桜は日本の象徴。潔さは日本の精神なのか。
「おれだごんたらグズグズていづまでもダダ捏ねるげんともなぁ」

正調山形の美しい街並み、春の部ナンバーワン。

丁度戸を開けて出てきたご主人が語り掛けてくる。
「ちぇっと遅いっけねぇ、もう桜は終わってしまたもはぁ」
「桜は終わったげんと、味わいのある看板がまたいいんだずねぇ」と私。
「文字なの剥がっでりゃ、直すだいげんとながながねぇ」
二人の会話は春風に乗って歩道をゆるゆると流れてゆく。

盛り上がった筋肉に陽が当たる。
遠ざかる筋肉をどこまでも陽が追ってゆく。

「なんだてこだな世の中だがらよぅ」
愚痴を言い過ぎ、提灯は破け荒い息を春風に乗せている。

「毛糸の帽子が勝手に乗ったんだが?」
「スコップが勝手に帽子ば乗せだんだが?」
「どっちでもいいっだず。二人は仲がいいんだがらてよぅ」
「あんまり暑くて頭だけのぼせねようにな」

「なんぼ今年は春が早いったてよぅ」
紅梅を遠くに眺めながら、サクランボが意表をついてくる。

青い空にピンクの粒が散りばめられている。
枝先はあまりの暖かさに、隣の軒先へ入り込もうとしている。

「あど終わりだはぁ」
ぼたっと落ちた椿の花は、人目から隠れるように塀の影に隠れて息をひそめる。

真っ白い花びらの群れの奥から首を伸ばしてこちらを見上げてくる椿の花。
なにか問いたそうだが、手前の白い花群れがそれを遮る。

ゴミ捨てるなと睨みを利かせる看板の横には、
ワンワン吠えそうな自転車が二匹。

八日町はマンションだらけ。
お昼の陽光は壁に斜線を描き、春の樹木が壁に寄り添う。

「俺の体はこだいヨレヨレんねがらねぇ」
葉を出す前の樹木が言い訳する。
確かに背後のトタンが波打って、影をプルプルに震わせている。

二小の南門前には、関係者は入るな!監視カメラ作動中!
小学校は昔の様にみんなの憩いの場ではなくなった。
桜も咲いていないし、門前払いだし、如何ともしがたいことはこの世にいっぱいある。

「なんだて気持ちいい春だずねぇ」
鼻歌でも歌いながら歩きたくなる街角。
ぽっかり空いた破れ口から春の吐息も漏れてくる。

「ほだいごしゃがねくても」
宥めようとしたものの、聞く耳も持っていないし、
口は閂で固く締められている。
でも黄色い文字の書体が教科書体の様に優しげだった。

「毎年こごさ来っだぐなんのよねぇ」
雰囲気は昔のまんまだし、桜は迎えてくれるし。

水仙がぽっかりと口を空け、不思議なものでも見るようにこちらへ視線を向けてくる。
そんなにじーっと見つめられると、恥ずかしくなてしまうべな。

今や第二公園は街の真ん中にあって、
腰に手を当てながらゆっくりと歩きたくなる憩いの場となっている。
昔からそうだけど。

ゴミを守るネットが体を揺らめかせる。
なんと長閑な春の始まり。

「早くてこだい雑草が刈らっだのがぁ」
雑草たちはビニール袋の中でゼイゼイと息をするものだから、
袋たちはみな曇ってしまい、白い水滴が春の光に煌めいている。

強い日差しが藤棚の隙間からベンチや地面に落ちていく。
ベンチの座面と藤棚の影は直角に交わって格子柄になっている。

夜にはイルミネーションとなって闇の中に浮かび上がる花びら。
日中には太陽の光を溜め込んで辺りに光を放っている。

機関車の車輪の向こうにはブランコを漕ぐ少女。
あんまり強く漕ぐものだからシューズに隠れて顔を見ることもできない。

やがて機関車は桜の花びらに覆われることだろう。
夜はイルミネーションに囲まれ、昼は花びらの歌声を聞き、
この世の春をこんなに満喫する日が来ようとは、機関車は考えてもみなかった。

桜の木の下に集うのは人々の自然の成り行き。
弁当だっていつもの何倍も旨いことだろう。

「眩しいずねぇ」
「僕たちのこと?」
「あ、いや太陽が・・・」

青空の中心に立ち、力が漲ってくるようだ。
雲はゆったりと流れ、ジャングルジムもゆっくりと回り始める。

「ケッツ食い込んでだどれぇ」
「暖かい日は鉄の冷たさが気持ちいいじぇえ」
私が第二公園で遊んでいた60年前から、子供たちの歓声は何も変わらない。
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