◆[山形市]羽前千歳・長町 盆地へぬだばる春大気(2021令和3年3月20日撮影)

冬の間に頭を雪に撫でられ続け、
尖がった性格も消え、すっかり丸くなってしまった。

「クリスマスツリー?あ、んねな、手袋が・・・」
誰かが拾って棒に差してくれた手袋は、もう片方を探して周りに虚ろな目を向ける。

「春なんだじぇ、上ば向ぐべ」
私の小さな声など聞こえるはずもない。
頭に日差しを浴びながら、青春の真ん中で煩悶する。

仙台から羽前千歳に電車が着いた。
「結構ぞろぞろ降りるんだねぇ」
山形市の南半分の人は山交バスで笹谷経由、
山形市の北半分の人は仙山線で作並経由なのか?

春は主を待つ自転車にも満遍なく光を注ぐ。
疲れたアスファルトや白線にちょこんと乗っかり、自転車たちはあちこちを見る。

簾は誰もいない間に耐えてきた。
でも春になり冬の緊張が解けたのか、一本一本と横軸が垂れ下がっていく。

「え?なに〜!ほだなどだい待だんなねが分がんねべずぅ」
テレビ効果で押し寄せた人々は看板を見て、
その新鮮さと丁寧さに歯噛みしながら、待ち時間を気にしてる。

「頼むがら誰が顔出してけろぅ」
心で念じたが、皆わき目も降らずぞろぞろと店内に入っていく。

「そろそろ出番が終わりんねがよはぁ」
「なにゆてんだが、四月なても寒いどぎは寒いがらねぇ」
街道沿いにしっかり止まってしっかり給油。

「絹江はぁ?」
「誰が女性の名ば読んだがぁ?」
「なえだて、はえぬきば逆さまに読んだのがぁ」
どうやらはえぬきの袋は水道の断熱材になっているらしい。

「あ、そこのお兄さんよってらっしゃいぃ」
気軽に声をかけてくるサトーのさとちゃんは笑顔満面。

「俺はやっと今日から手袋なしでカメラばたがったんだじぇ」
「んだらあたしも手袋とっかなぁ。んでも自分でとらんないものぉ」
さとちゃんは、鼻の頭はすかげでっげんと、今日の空の様にどこまでも明るい。

長町の旧街道から馬見ヶ崎の河原へ出る。
急に辺りは開け、明るい光が圧するように充満する。

「どごで自転車練習すんのやぁ」
「ほっだな、河原だごんたら、やんだぐなるほどでぎるっだなぁ」
遠く朝日連峰や月山の白さに眼をすぼめながら、お母さんが子供を連れる。

河原の土手に顔を近づけてみる。
小さな小さな花たちが、親父のおっきな顔など近寄るなと迷惑げに騒ぎ立ててくる。

「邪魔えなた木ば皆伐ってしまわんなねっだなぁ」
トラックに満載された刈られた枝は、春の日和にどこかへ連れ去られてしまう。

済生病院が河原沿いに仰臥している。
警告の看板はいいかげんやんだぐなたと、ふてくされて体をよじる。

河原の石ころに引っかかった枝や葉っぱが流れに波を立てている。
その波へ光が集まり、キラキラと煌めきながら春の訪れを告げている。

俺たちはドリーマーなんだぜ、といった声が聞こえそうだ。
河原のぬくもりに少年たちの顔も緩んでいる。

「ほれ!一二の三!」
無理やりジャンプを強いたが逆光だった。
「ゴメンゴメン、もう一回が」
少年たちは気前よく要求に応じてくれる。

「いいねいいねぇ、最高だぁ!」
少年たちは珍客の要求に快く応じてくれて、今日の天気の様に気持ちいい。

「体がグギグギて硬っだくてよぅ」
「んだげんとも今日の天気で少しずづやっこぐなていぐみだいだぁ」
柿の木は独り言をいい、少年は土手をゆっくりと去ってゆく。

「腹減ったなぁ」
少年は何気なく呟く。
目の前の橋をヤマザキのトラックが渡っていく。

「こいに体ばつかうのよぅ、んだどじょんだぐなっから」
「ほだごどゆたて、さんねものはさんねんだずぅ」
親子は春のど真ん中で気持ちを通じ合う。

「あんまり温かくて、体が捻じっでしまたはぁ」
長ネギたちは、気持ちよさげに体をあちこちへ伸ばしている。

トトロの耳をジェット機が掠めていく。
ああ、なんという爽快感。鬱屈した冬へ別れを告げるために空を見上げた一瞬。

「とにかく何が何でもJ1だがら!」
フラッグは枝の影も気にせず春風に体を張ってそよいでいる。

春の日は斜め45度に降り注ぐ。
トタンの影は忠実に角度を示し、体の線を浮き上がらせ、
ぐったりとしたホースへ向かっていつまで寝てると声をかけている。

植木たちは皆なにかに見入っている。
その視線の先を見て、思わず顔が緩んでくる。
地面には今にも咲きそうな小さな水仙。

「年がら年中踏切ば見でおもしゃいが?」
看板へ声を掛けるが振り向きもしない。
背中には樹木の枝が影を作って勝手に張り付いている。

「まだまだ現役なんだが?」
「早ぐ引退すっだいげんとも、跡継ぎいねがらねぇ」
ボロボロの蓋は最後の力で耐えている。

「雪溶げっどこれだま」
早春には見慣れた光景。
タイヤは寝そべるトタンへ早く起きろと声を掛けている。

電車が銀色の光を反射して山形へ向かっていく。
柿の木は春の準備を一瞬忘れて電車に見入る。

「なんぼ年しょたてよぅ、春は嬉しいもんだま」
バスは現役を引退し体のあちこちが痛み錆び付いている。
「こだないい天気の時日は、昔ば思い出すど気分もいいぐなて痛みなの忘れんのよねぇ」
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