◆[山形市]北山形駅辺り 春を待ちながら暮れる(2021令和3年3月6日撮影) |
夕暮れ近くに雲が切れ、冴え冴えとした空に光明が差す。 |
路地には薄闇が張り付き始め、冷気とともに混じりあう。 |
「前向きにぃ!」 軍手は前向きに倒れ、地面に爪痕を残そうともがいている。 |
ウインドウに入り込んだ夕焼けが、 今日に別れを告げている。 |
冷え切った体を寄せ合って、 自転車たちは週が明けるのを待っている北山形駅前。 |
北駅から出てきた人々を迎えるために、 寒さに縮こまりながらも、誘惑に負けず強い意志で放水する。 |
深閑と静まり返った北駅ホーム。 案内表示板の蛍光灯が、薄闇に浮き上がってくる。 |
山形駅から列車がやってきた。 寒さに震える人々がパラパラと降りたち街に消えていく。 かき乱されたホームの冷気は再び落ち着きを取り戻す。 |
列車は無心で分刻みのノルマを果たすために、左沢を目指していく。 |
街から雪は消えたけれど、寒気はそのまま居座って街の明かりに溶け込んでいる。 |
誰もいなくなったホームには、 冷たい看板や鉄柱が残され、蛍光灯がぼんやりと地面を照らしている。 |
「足が曲がってしまてはぁ、痛くてよぅ」 「年は取りたくないもんだずねぇ」 西口に立ちながら、錆び付いた足をさすることもできない。 |
「おまえんどごさ客来ねずねぇ」 自販機たちはキラキラ輝きながら電話にちょっかいを出す。 電話は振り向きもせず、自分の意志を曲げもしない。 |
「そろそろ剥がさっでしまうんだべなぁ」 「俺なの剥がさっだほうがいいんだぁ」 張り紙は、自分が消えるころには春が来ると知っている。 |
一瞬通り過ぎる車がヘッドライトを滑らせていく。 そしてまたすぐ暗がりが支配する壁。 |
濡れるのを防ぐためにカバーに覆われたモンテディオのポスター。 テールランプが反射したと思ったら、あっという間に再び暗がりに沈んでしまう。 |
「今年はJ2で優勝候補なんだじぇ」 応援しすぎてボロボロになったフラッグが、 今年こそはと寒気の空へエールを送る。 |
「近頃の非常ボタンはモダンになたもんだねぇ」 感心しているその耳元へ、列車が来るぞとカンカンカンが鳴り響く。 |
列車の来ない踏切はしばし空気が緩む。 街灯は退屈しのぎにレールへ光を反射させている。 |
「おおお、金属音が段々近づいてくるぅ」 緊張とワクワク感で心臓が跳ね上がる。 新幹線は魚屋さんの温かい灯りの先を疾駆する。 |
「退屈しったのがぁ?」 「失礼だずね、いざという時のためにずーっと緊張しっぱなしよぅ」 消火器は突然声を掛けられて、少しばかり覚醒して再び黙り込む。 |
北駅の灯りが闇夜に浮かんでいる。 犬の散歩の懐中電灯が路面をチロチロと撫でていく。 |
誰もいないと分かっていながら宮町公園へ歩を進める。 「なに当たり前の事ば一生懸命ゆてんのや?」 「万が一、車なの入ってきたら大変だべぇ」 「車どころか人も入ってこねどれ」 声をかける人もいず、八つ当たり気味に看板へ声をかけてしまい後悔の念。 |
家並みの窓に明かりが灯るころ。 寒気に震える樹木が、紺色に塗りこめられた空に筋を引く。 |
「なにクキクキて曲がてんのや?」 「寒くてよぅ、じっとしてらんねま」 ブランコは人のぬくもりが恋しくて仕方ない。 |
街灯で浮き上がるギッコンバッタンン。 触れると凍り付きそうなほど冷たい。 「気持ちはほだごどないがらね」 無言の声が耳元に聞こえてくる。 |
すっかり人通りも絶え、街灯だけが闇夜に浮き上がる北駅前通り。 |
「あっか、ないがんねんだず。どいにしてすっかなんだず」 真っ赤な気持ちで静かな街並みに向かって熱意を放つ電気屋さんの窓。 |
「早ぐしぇ(いぇ)さ帰て、あたかいもの食だいまぁ」 信号で止まるのももどかしく、北駅へ急ぐ夜の始まり。 |
前向きとは積極的ということ。 積極的に車を止めてくださいという意味か。 「ほだなごどないずぅ。塀さ排気ガスば掛げんなていう意味っだず」 |
夜になり雪は頑なになって無口を押し通す。 ヤマザワ宮町店の灯りに吸い込まれる人々の数も減ってきた。 ああ、春が待ち遠しい。 |
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