◆[山形市]鉄砲町・末広町・若葉町 大気は冷たいけれど(2021令和3年2月28日撮影)

「天気いいど買い物も楽しいねぇ」
「今日は何安いんだべねぇ」
町全体が浮き立っているし、乾いた歩道を歩くのも久しぶり。

「こいず、こいずぅ」
「ほだな買いに来たのんねがら」
子供の願いも空しく、母親は一瞥してさっさと店内に入ってしまった。

「雪はどさ行った〜!」
ゴミ用ネットは、空から降り立つ竜のような格好で、消えた雪を探している。

背後に温かい光を感じながら、
ようやく土をいじることができると、体中から喜びが滲み出ている。

「絶対入るなよ!」
そんな意志を感じる鉄の門。

西高のバス停がまぶしそうに太陽に向かっている。
大気は冷たいけれど、それを上回るほどに喜びの光が溢れている西高周り。

「やっぱり天気いいど、外さ出っだぐなるよねぇ」
「体が勝手に出たがるんだもねぇ」
人を外出させる力をため込んだ日差しが、溢れんばかりに降り注ぐ。

テトリスか?
このままじゃゲームオーバーになってしまうぞ。

蔦は葉っぱを落としても、ガスや古里家具店や家の壁を、
体を張って守っている。

「どいずいいの?」
「こいずいいの」
「何勝手に押してんのや」
「指のせいっだな」
自販機前は微笑みながら二人のやり取りを見守っている。

本日は定休日です。とガラスの内側できっぱりと言い切っている。
でも、つや姫や雪若丸が、ガラスにへばりついて外へ興味津々の顔を向けている。

「ありゃあ霞城セントラルが真正面っさ見えるんだねぇ」
末広町の通りから北を望んでちょっとばかり驚いた。

ブランコはピクリとも動かない。
日差しが燦燦と地面に積もっていく。
背中を温めながらスマホの指だけがスイスイ動く。

「誰か雪のベンチで手袋ば取ってみだんだっけべなぁ」
「そのまんま忘れで行ってしまたもはぁ」
乾き始めた手袋たちは、この先どうなるのか案じながら青空を見つめている。

地中に埋められたタイヤは、頭だけがポカポカ温かい。
子供たちに踏んづけられる季節がやってきたなと、体に気力が漲ってくる。

「誰が誰の影だが分がらねはぁ」
「誰がどの影だが分からねくても不都合はないべぇ」
棒たちは棒立ちで頭が混乱している。

フェンスの網が、石ころへ影でがんじがらめに絡みつく。

「空(そら)ありって当たり前だべぇ」
「今日は特に人気の青空が100パーセントだがら」

「去年からずーっと揺れっだの?」
「こごまてしまた指ばやっと伸ばすいぃ」
丸まって固まっていた指が徐々に緩んで青空に広がっていく。

茶色の世界に突き出た鉄の棒。
永い間埋もれていたせいか、辺りをキョロキョロ見渡している。

「見つけたぁ!」
植木鉢に守られた一輪が、パッと開いて私を迎えてくれた。

若葉町はいつ来ても昭和から抜け出していない。
子供の頃に友人宅へ行くために歩いた記憶が蘇る。

日陰に潜む縮んだ雪は、壁面に寄り添って消え去る時を待つ。

「あだい飾て、チャグチャグ馬コが?」
「ちゃうちゃうベゴこ」
恥ずかし気に自販機に隠れているのが、まためんごい。

人の動きをジーっと見つめているけれど、
その牛の目は決して悪意も敵意もない、純粋無垢の目だった。

向かいの歩道を犬の散歩が左側へ歩み去る。
その後を追うように牛の首が徐々に左へ傾いていく。

欅の梢から漏れ落ちた光が社務所に溜まっている。
壁に寄り集まった道具たちは、皆自分の仕事が始まるまで休めの姿勢。

六椹八幡宮本殿には、逃げ延びた雪がこんもりと積もって、
石塀から辺りを伺っている。

溶けたり凍ったりの毎日から解き放たれ、
おみくじたちは勇んで太陽へ向かっていく。

指先が太陽に輝きながら、おみくじを結んでいる。

拝礼の足元だけに光が当たっている。
足元からぬくもりが頭の先へ上っていく。
やがて柏手の乾いた音が境内に響く。

「ちゃんと拝礼したし、今年もいいごどあっべ」
人々は歩調を合わせ歩み去る。
欅の大木はその大きさを誇るように、背後の壁へ雄々しく枝を伸ばしている。

「抜げねぐなたはぁ」
バケツへ突っ込んだ軍手は針金で押さえられビクともしない。
その軍手の腕は雨樋に繋がっている。
日陰の軍手は水ぬるむころを夢見たまま指をこわばらせるしかない。
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