◆[山形市]白山・元木・竜山川 立春過ぎて大気が緩む(2021令和3年2月6日撮影)

見慣れた灯油缶も並べば壮観。
おらだが山形の冬を支えるんだという気概も感じる。

岐路に立ち一瞬どちらへ行くか迷ってしまう。
今まで迷ったときは低きへ流れて失敗した。
今度こそ上を目指して登っていぐべ。
「ほだい大げさに考えるごどだが?日暮れっどりゃぁ。どっちでもほだい違いはないべがら」

「ほだいぎっつぐたづいだら息苦しいずぅ」
杭に結すばがれだロープは、絶対に離れたくないとギュッとまとわりつく。
杭はしょうがないなぁと思いつつ、夕暮れの今日最後の光に輝く竜山を見つめている。

「プハーッ!やっと息でぎだぁ!」
雪の下の葉っぱたちは、さぞや息苦しかったことだろう。
溶けて緩んだ雪を破って押しのけ深呼吸する。

「豆まきなの終わたべしたぁ」
「そういうつもりで地面さ落っでんのんねげんと」
雪の下で寝ていた豆があちこちから顔を出す。

枝は物足りなさを感じながら、竜山川の畔で空を刷く。
葉っぱをまとってゆさゆさと揺れる日が待ち遠しい。

「ほだい近づいて見んなぁ、恥ずかしいべな」
「なんぼ真冬でもちゃんと春への準備は怠りないんだずねぇ」
「ほだな当たり前っだず。当たり前の日常っだず」
当たり前の日常ほどありがたいものはない。

「ふーッ、あったあったぁ!」と、安堵してオブジェの裏側にあるトイレへ駆け込む。
冬期間使用禁止の張り紙とぎっつぐ閉まったドア。
撮影が終わるまで我慢の雪道歩きが続く。

「おまえもしかして盗人(ぬすびと)んね?
草むらば歩くどズボンさいっぱいしつこく引っ付いて、めんどくさいやつよぅ」
めんどくさいと言われているのを聞いているのかいないのか、
夕暮れの空にひっつき無言で揺れている。

白と黒の世界をまたいでそよぐ。

「普通なら今頃ツララになてんのよぅ」
「今日は忙しいっすねぇ」
「んだっだ。暖かぐなたもなぁ」
雨樋の口は飛沫を上げてもマスクは不要。

「雪さえ溶げねっけごんたら見つからねっけのにねぇ」
誰が捨てたか落としたか、
はたまた着け主の口が嫌でマスク自ら逃げだしたのか。

冬眠していたところを起こしてしまった。
今頃は雪の下でとぐろを巻いて熟睡中のはずだった。

白山はガスの街。
夕暮れの淡い光が、その円形の淵に残っている。

夕闇が覆い始めるちょっと前。
眠りにつく前のひと時に、ふっと大気が止まり静寂が包み込む。

闇の勢力が少しずつ増してくる。
木々の梢も滑り台も、今日一日を顧みて眠りにつく。

「あれえ?団子木だが?それとも真っ白い柿の実だが?」
カラスがついばんだような痕もある雪玉は、いつまで木の枝にしがみついていられるか。

「おもしゃいごどすっずねぇ、人間は」
飾りっ気のない枝へ真っ白い実を付けたのは子供の仕業?
夜の空間へポッと浮かんだ雪玉が心をぽっと温める。

「いつまでしがみついでいるんだずぅ」
枯草は息絶えたまましがみついている。
ポールはあきらめにも似た心境で耐えるしかない。

真っ赤なのに白山橋。
つまらないことを考えていたら、
サドルから腰を上げ若者がペダルをギュンギュン漕いで、
すぐ脇をあっという間に走り去る。

闇にぼうっと浮かび上がる床屋さんのポール。
その背後で帰路につく車のテールライトがチカチカと瞬いている。

白山神社の狛犬は大切なのでビニールで覆われる。
「呼吸する穴はあるんだべが?」

かつて鳥取県に砂場はあるがスタバはなかった。
今、山形にはスタバがあっても百貨店がない。

打ちひしがれた蓬髪の向こうに灯りがチカチカ。
枯草たちはその瞬きとは別世界に住んでいると心に染みこませ眠りにつく。

「7度と8度のどっちなんだずねぇ?」
あんまり気温が高くて、どっちの温度計も本当にいいんだべがと躊躇しながら表示する。

車の唸り声がこだまする白山ガード。
看板はその唸りに身を小刻みに震えさせながらビックリマークを誇張する。

「はぁ、きっついぃ」
灯りに背を照らされながら階段を登り切るのも一仕事。
それでも温かい家庭が待っていると思えば、足取りも軽くなるはず。

「ったぐ、いぎなり気温が高ぐなっからよぅ」
「駐車場が鏡みだいだどれはぁ」
見上げても見下ろしても、青い夜空が広がっている。

「スカスカて骨粗しょう症みだいな雪だなぁ」
「んだず。踏むどあっという間にぺしゃって潰れでしまうんだもの」
ヘッドライトがべちゃべちゃ雪の表面を舐めるように這っていく。

山形市民にとってヤマザワはあって当たり前、無かったら山形じゃない。
上にも下にもどこにでもヤマザワ。
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