◆[山形市]第二公園 雪が降っても飲食なしでも夜に人集う(2021令和3年1月30日撮影)

雪が積もっているからこそ、歩んできたちょっと前の過去を見ることができる。
タイヤの太っとい痕も、人々の靴の痕も。

積雪は階段を上って天を目指す。

ナンバーが髭を垂らす。

「暖かいラーメンば届げる俺ってえらぐない?」
バイクは凍えながらも自画自賛。

「今日もお前頑張たな。んだらあど休めはぁ」
ご主人が雪の中でバイクへ慰労のカバーを被せている。

ここに傘を放置しないでください。
傘が迷惑しています。
持ち主としての愛着をお持ちください。

至る所へ顔を向けるミラーに雪が張り付く。
映る車もライトを点け始める時間。

夏に寝ているワイパーは、冬になるとグイっと起き上がる。

「ペンキぬっでだ?」
「ペンキぬりたてだず」
「ペンキぬだばて?」

古風な窓を、周りの意匠が引き立てる。

茶色く凍える観葉植物に氷が覆いかぶさる。
通り過ぎるテールライトが、氷の中に染みこんでいく。

くっつきあう傘がネオンの中に浮かび上がる。
「頭がつったいずねぇ」
「んだずねぇ。誰が傘さしてけねがなぁ」

「おだぐカメラたがったのが?」
何を撮るのだろうと不審のきつい目と嘴(くちばし)を向けてくる。

「あの煌めきはなんだ?」
第二公園をフェンス越しに眺め目が釘付け。
早く公園の中へ入らなければと思うけれど、フェンスが遠回りを強いてくる。

重厚な機関車は光をまとい、力強く前を向く。

闇の迫ってきた公園内に浮き上がり、一段と存在が増してくる。

レールに沿って光が流れる。
車輪がギシリギシリと動きだし、このまま空へ向かって疾走していくかのようだ。

機関室に乗り込み外を見る。
暗くなってきたというのに、次から次へと人々が訪れる。

藤棚は夢の空間を創り出し、その隙間から発車を待つ機関車が煌めいて見えるという憎い演出。

「秘密の八重歯?」
「んねず、鬼滅の刃だず」
「八重歯は普段隠っでいるていうごどが?」
「いいがらとにかく近ぐさいって見でみっべ」
暗くなった公園は市民の一大聖地になってしまった。

「ほれ、写真撮っから並べ」
「ちぇっと待って。靴さ雪入たぁ」
夢の空間でも雪は入り込む。

花びらにはうっすらと雪が付いている。
幻想的な空間の真ん中に立ち、
雪かきの疲れを癒しながらしばらくボウッと立ってみる。

第二公園には映画館もあったし、スーパーもあった。
あれから半世紀以上の時を経て、再びきらめきが戻ってきた。

機関車のイルミは公園内を照らし、
人々の心にも希望の灯りをちっちゃく照らす。

「冬の来客は腰が重だくてよぅ。いづまで経っても帰らねんだぁ」
ベンチは早く帰れといいたいけれど、雪はおそらく聞く耳を持っていない。

雪は意外と遊び好き。
揺れもしないブランコにまとわりついて、早く揺れろと待っている。

「降りらんねぐなたはぁ!」
滑り台に積もった雪は、意地でも滑らせまいと、
下から子供を押し上げる。

稲荷角(十日町角)の上空を闇が覆っている。
光をまとったビルがひと固まりとなって、空に伸びる。
因みに、稲荷角っていう名称に親しみがあると思う人って年齢は?

「頭の雪ほろてけろ」
「嘴(くちばし)ツンツンて痛いぃ」
第二公園の入り口には除雪された雪が山積みされ、少女と鳩も埋もれはしないかと心配顔。

夢の世界だった第二公園から、駅前通りへ帰りの道を歩む。
幾筋ものタイヤ痕が、よった糸の様に伸びている。

ガス灯はツララのほつれ毛を垂らしながら、
街を柔らかく照らしている。

山形に緊急事態宣言は出ていない。
それでも人通りは明らかに少ない。
飲食業関係者はきっと火の車なんだろう。
自転車の輪は雪をかぶってピクリとも回らないのに。

車は雪を気にしながら帰途に就く。
人々は足元に気を使いながら家路につく。

「いやぁ、待ったぁ、やっとバス来たぁ」
雪で遅れたわけでもないだろうが、
寒い中、遠くから山交バスが見えてくると、
人々はホッとしたようにバスへ駆け寄っていく山交ビル(ダイエー)前。

バスにとっての扇子の要、バスターミナルから各地へバスが散っていく。
各地からバスが集まってくる。

「飾りっけはないげんと、信号てイルミネーションみだいなもんだずね。
よっくど見っど綺麗だもの」
「はえずぁんだげんと、見とれていねで赤だがら止まれぇ」

「ほれ、青なたほれ。後ろからクラクション鳴らされるぅ」

「背中さ子供ば背負っていだみだいだどれ」
「おまえも同じだぁ」
お互いの背中を見て笑いあいながら、自転車は街灯の下で眠りにつく。
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