◆[山形市]七日町 初市が消えて寒気と雪だけが密(2021令和3年1月10日撮影)

去年が異常に少なかっただけに、今年の雪は多く感じてしまうけれど、
例年こんなもんだったんだよなぁ。と、ふわふわ舞う雪を見て思う。

屋根に張り付いて落ちまいとする雪。
地面をちょこちょこ歩き転びまいとする人々。

「こだんどごさおつこめらっでよう」
「屋根があるだげいいべした」
屋根が雪を遮ってくれるだけ幸せだと感じる者たちの顔には雪が引っ付いている。

「寒ぐないんだべがねぇ」
おばちゃんは帽子を目深にかぶりAZ方面へ歩き去る。

ブグブグ溢れる噴水の水。
もりもり膨れ上がる氷の塊。

よっくど目を凝らしてもメニューの値段が見えない。
マスクに眼鏡で目の前は曇るし、
それに追い打ちをかけるように雪が被さっていて、世の中遮るものだらけ。

せめて気分だけでもとヤシの木が背を伸ばす。
でも寒さにいかに耐えるかばかりが頭を占めていて、人の心を和ますには至らない。

もう何回撮ったことだろう。
八文字屋の前を通れば撮らずにはいられない。
まだまだ何十年も残ってほしいと思わずにはいられない。

丸い壁の内側は螺旋階段。
初めて上った螺旋階段はおそらくこの階段が初めてだった。

「こごが八文字屋だがらぁ」
道標は傾きながらも、雪に埋もれながらも呼び掛ける。

薄暗く細長い通路の奥から、
雪たちがジーっと見つめるのは華やかなショーウインドウ。

「おらだの居場所はこごなのよねぇ」
明るい通りに背を向けて、ホースは体をこわばらせ俯いている。

冷たい空気が自転車を凍えさせ、壁をキンキンに冷やしている。
時折通り抜ける人も、無言で雪を踏みしめる。

「ありゃりゃりゃりゃ〜!」
「大沼の前さずらっと並んでだじゃあ」
初売りで大勢の人が並ぶならともかく、
並んでいるのはパイロンと安全第一のバリケード。

「なんだが明るい未来が七日町さ来るみだいだずね」
工事現場の壁面を見ながら、傘を前に傾け足早に去る。

防寒靴が行き交う脇で、しめ縄は太い体をギュッと引き締める。

「あの白いフェンスが取れるころには温かぐなてっかもすんねし、
人々も一杯来てっかもすんねじぇ」
並んだ椅子たちはお茶も飲まずに、工事現場をいつまでも眺めている。

雨樋から流れ落ちる雪解け水はキロキロに凍って膨らんでいく。
テルテル坊主は目もくれず、しっかりとした表情で七日町を見渡している。

今までは御殿堰の右岸だけが整備されていた。
ビルの壁面だった左岸が今度は新しい店に生まれ変わる。

ひと際赤い郵便ポストの背後で、初飴は霞んでしまった。

ずらっと並ぶ看板に歴史あり。
その歴史にはうっすらと雪が降り積む。

ボトルは人の手を消毒するだけが役目じゃない。
時として風に持っていかれるチラシを抑える役目もある。

チラホラ訪れる人々は、チラホラ舞う雪と同化し、
街の静かさを一層際立たせている。

「ほだい低姿勢でお願いさっでもねぇ」
「まずは頭の雪ば払ったらなんたっす」
ポストは黙って頷いている。

積もっては溶けを繰り返し、
ツララと壁は同化して一つの塊になるのかもしれない。

「ほだい押すなず、ひっくり返っどりゃあ」
雪の圧倒的な力に、段ボールはひとたまりもない。

「メーター番号!」
「1!」「2!」「3!」
「ふざげんなず。思わずゆてしまたどれ。こだい寒いどぎによぅ」
「寒いがら気合ば入れっかど思たんだべず」

不詳ながら高校の頃に油絵を描いていた。
どんなに絵の具をこねようと、どんなに絵の具を重ね塗りしようと、
こんなに寒々とした壁面の雰囲気を描けただろうか。

雪は間断なく舞い降りる。
でもまだまだ手心を加えたような降り方だ。
これくらいなら大したことはないと思いつつ、まだまだ冬は長いと不安も心に積もっていく。

小さく言ってみる。
積もった雪も降る雪も、気づかぬ振りをするし、
ましてや通りの人々が見てくれたかも分からない。

すぼめた口から出るのは暖かいときにため込んだ甘い息のはずだった。
それなのに今でてくるのは冷たいため息ばかり。

キャンバスに分厚く塗った絵の具を、「あ〜ダメだ、やり直しだ!」と
ペインティングナイフで剥いでいった後のようなトタン板。

「顔ぐらい洗って来い」
「洗う前に水が雪になてしまたもはぁ」
一輪車のタイヤは、ねぎっ鼻がくっついてカタカタになったような顔に愛嬌が垣間見える。

墨痕鮮やか。
いや、タイヤ痕力強し。

「まんず一杯なんたっす?」
雪まみれのダンプへ声をかける一升瓶。
一升瓶は自分を犠牲にしてでもダンプに温まって欲しかった。

「おまえ腹いっぱいなたが?」
「全然ならね」
「腹減ったずねぇ」
雪の頭巾をかぶって並ぶ回収ボックスは、何を腹に入れれば満腹なんだろう。

真新しい消火栓に近づいてみたら、そこにも街並みが存在していた。
そこへ指を触れても冷たいだけだし、そっち側の世界へ行けるわけでもない。
行ったところでそっちも雪が舞っている。

電球も街並みを映しこんで、寒さに耐えぶら下がっている。
赤々と灯るまでは、じっと零下と供に過ごさなければならない。

電気の傘も屋根も、膨れる雪をそのまんま受け入れている。
そんな軒先の下には、ホッと一息したい人々が集ってくるのだろう。
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