◆[山形市]両所宮初詣・宮町 人混み避けて人目も避けて(2021令和3年1月1日撮影) |
電線は五線譜。 人々はその中で音符を演じる。 |
カラー写真はいらない。 白黒だけの世界が明けた。 |
「やっと当だり前の山形になたっだべ」 おばちゃんはいつもの冬が戻ってきたと、淡々と雪道を行く。 |
国旗が雪に霞んでいる。 果たして今年の初詣はどんな具合か、とにかく人ごみ避けて、人目も避けるか。 |
「あだいおっきぐ落雪注意てでっだんだじぇ」 屋根の下でお姉さんはスマホを構えているけれど、顔面さ落ぢでくっべな。 |
やっぱり出迎えてくれたのは消毒液。 慣れない外での仕事に、困惑を隠せないボトル。 |
とにかく落雪注意だし、コロナ注意だし、転ばねように足元注意だし、 注意だらけの初詣。 |
夜の間に一生懸命働いたのだろう、 スコップの取っ手は汗で濡れている。 |
今年は甘酒の湯気が消え、ビニールがプラプラと揺蕩(たゆた)っている。 |
警備のおっちゃんが一人一人の拝礼を見守り、 例年のワンワンという熱気と人だかりは微塵もない。 |
「はい、次の方どうぞ」 拝殿には一組ずつしか登れない。 神様もゆったりした気分で願い事を聞き入れてくれるに違いない。 |
お願いする人々は、次の順番を待つ人々の背後の視線が気にかかる。 |
「バンバンくべろぉ」 とにかくコロナごと焼き尽くして欲しいと思うのは私だけ? |
並ぶ人々は間隔をあけ、手水舎の水も間隔をあけ、 そして甘酒の張り紙も間隔をあける。 とにかくくっつくことを許されない世の中になってしまった。 |
「拝むまでどれだげ待だんなねんだべねぇ」 「なんぼかがてもいいべした」 んだ。二人には待つ時間も幸せの時間。 |
随神門の周りを細かい雪が舞う。 ジーっと雪を眺めていると、提灯が空へ上っていくような錯覚に囚われる。 |
「出口はあっちだていうし、入口もあっちだていうし、いったいどさ行ぐどいいのや?」 「お客さんよっくど見れば分がっべ、目は香澄町だが?」 「なに?耳は十日町でよぅ」 |
カモの軌跡が池に残る。 静かに雪が降り積む。 |
先頭は雪をかき分け、後に続く者はその道をついていく。 二人の役割は自然に身についている。 |
「真冬も噴水が止まらねもんだがらよ、ツララが凄いごどになったじゃあ」 噴水の飛沫は枝に取り付きギュッと凍り付き、ズンッとぶら下がる。 |
今年のどんどん焼屋さんは、 隙間なく上から下まですべてをビニールで囲われ、雪に覆われている。 |
「おらだなの全身マスクだじゃあ」 ギッコンバッタンは、口元だけを隠す人々よりも対策が万全。 |
「なんにもすっごどないし」 「んだずねぇ、こだんどぎは大人しぐしてっべはぁ」 自転車と開かぬ傘は、雪の世界に気分ごと沈み込んでいる。 |
「シュンシュンて湯気でっだがら、お茶でもなんたてゆだいんだげんともよぅ」 黒々とした肌を、溶けた雪がぬらぬらと垂れ落ちる。 |
宮町の大通りを眺めながら、ずーっと過ごしてきた。 雨の日も、雪の日も、カンカン照りの日も。 |
「なしてほだいじーっと私ば見んの?」 「前から通り過ぎっどぎに気になってだっけのよ」 安全ピンや洗濯ばさみで括り付けられたテルテル坊主は、凍える道端で笑顔を弱々しく向けてくる。 |
垂れ下がった枝を見上げる余裕もない。 人々は初詣を終えると、そそくさと帰途に就く。 |
「何が旨いものあっべが」 「行ったら分がるっだな」 親子の会話は舞い落ちる雪でかき消され、電線を潜り抜けて届くことはなかった。 |
可愛い傘が立ち止まり振り返る。 すれ違った子の手にはどんどん焼き。 |
「何食うや」 「雑煮がいいんねが」 「んだらヤマザワさ寄っていがんなねっだな」 ちょっと未来の楽しいことを話し合いながら、雪の中を遠ざかる。 |
TOP |