◆[山形市]本町 雨は週明け過ぎに雪へと変わるだろう(2020令和2年12月12日撮影)

旅籠町方面は道路の拡幅も終わり、
北風が我が物顔で通りに寝そべっている。

そんな拡幅工事が南へ伸びる。
昭和や平成は次々に消え去って、さらけ出された地面が呆然と冬空を見上げる。

「ネットが当たり前になてがらはよ、やがますいほど機械がふっついで、電柱も大変だずねぇ」
「仕事の負担は増えだげんと、寒さは変わらねしなぁ」
電柱は突っ立ったまま、内心を見せないように身じろぎもしない。

道端の隅っこに寄せ集め、あ、失礼。
身を寄せ合って口を開け、雪の来訪を今か今かと空を見上げるプランター。

むき出しの地面に立っているのは緑や黄色のバリケードスタンドばかり。
「いづ道路でぎるんだべねぇ?」
「大人になるころっだべ」
「大人になっだぐないもの」
「大人になっだぐないど、いつまでも道路でぎねっだな」

密集していた建物が取り払われ、栄町通りが丸見えになってしまった。
これで寒風も通りやすくなった。否、春風も吹きやすくなるだろう。

郵便受けは仕事を破棄し、口からチラシを吐き出し、顎の力を抜いている。
昭和のエネルギッシュな躍動感など、とうに忘れたのか。

「あれぇ?一小が丸見えだどれはぁ」
「こごさ何あるんだっけぇ?」
「ほだなも分がんねのが、矢吹病院あっけべしたぁ」

「もう12月だじゃあ」
「今年は永ぐいつまでも七五三ばすんのんねがよ」
南進車が通り過ぎるたびに、はためいては動きをやめるの繰り返し。

「人間いつもにたっと笑てっど気持ち悪れぐないが?」
「にたっとんねず、にとうだず」
失礼なことを言ってすみません。
笑顔で食べることの幸せを訴える看板に心で謝る。

「季節はいまからだてゆうのに捨てられんのがぁ」
ごみ集積用のコンテナに入れられて、ちょっと待ってと長靴がもがいている。

「待ってでけっだんだべが、んだどすっど申し訳ないなぁ。
乗らねで通り過ぎだら、運転手さんごしゃぐべがなぁ」
保健所前のバス停で、小さな心の動きが冷たい大気の中で揺れている。

「準備万端だどれはぁ」
「雪対策は毎年の事だがら慣れでっべげんと、保健所は今、雪よりちゃっこいもので大変なんだべなぁ」

「誰だよ、フンなのお土産に置いでいぐのは?」
「おらしゃねぇ」
自転車たちは、自分たちに疑いを掛けられるんじゃないかと張り紙に迷惑げ。

「こだんどごでサボったけのが」
「お払い箱なんだどぅ」
バリケードスタンドは枯草に絡まれて惰眠をむさぼっている。

「どさ行ぐの?」
「七日町っだべ」
「大沼ないじゃあ」
「七日町の空気ば吸わねど山形市民になた気がすねがら」
自転車は雪が降る前に七日町へ急ぐ。

テールランプや信号機がやけにまぶしい。
それほどに空はどんよりと曇り、街中は夕暮れの前みたいな薄暗さ。

「お昼だーッ!」と言わんばかりに、あちこちから郵便配達のバイクが帰ってくる。
みんなお昼は戻ることすら知らなかった。
お昼くらい暖かいところで食べたいべがらなぁ。

「サザエさんがウインクしったどれ」
それでもおじさんは気づかないふりで寒空の中を歩み去る。

「寒すぎっから大股なんだが?」
「急いでっから大股なんだが?」
歩道の先の本町通りはビジネス街だから、ゆったり散歩を楽しむ人などいねんだな。

本町の大通りへ出ずに、郵便局側から一小へ行ける小道がある。
小路といっても堰に蓋をした道といっていいのか分からない道。

以外駐車禁止て言わっでも、誰が?何を?がさっぱり分からない。
「ほんとはちゃんと表示さっでだんだっけげんとも、夏の間にやんだぐなて消えでしまたんだべな」
説明不足の看板に黒々と血管の様に絡まって凍える夏草たち。

「街の裏側は、んだがらおもしゃいのよ」
ビルと時を経た蔵の混在が、街の歴史と現実と未来を突き付ける。

「ほだんどごでスコップ持って雪の準備がぁ?」
「かまねでけろ。こごさしかいる場所がないんだがら」
寒さのせいで心に余裕のない自転車がいう。

一小脇の道端には生死の分からない雑草が雪待顔で連なっている。

一小敷地と道路を隔てる役目の石柱が黙って並んでいる。
あんまり黙っているものだから、割れ目から雑草がのうのうと葉を出している。

「半ズボンでは寒過ぎね?」
「スカートでは凍えでしまうべは」
お互いを思いやり、あったかい校舎の中へ一歩でも入ってみたいと思ってしまう。

「なしてこだんどごさいんのや?」
「葉っぱの上さいっど落ち着ぐがら・・・」
捨てられたとは口が裂けても言いたくない毛糸の帽子。

「あど秋も終わりだべずはぁ」
紅葉が店じまいのような言葉をつぶやく。
「んだて、あそごで太陽がグルグルて回ったじぇ」
ホテルの太陽グルグルマークは、紅葉に季節の混乱をきたしている。

ぶらりと、吸い込まれるようにまなび館へ入り込む。
いの一番に迎えてくれたのは、サンタではなく消毒液だった。

雑然とした街並みは、なぜか人に安堵感を与える。
この先に見える済生館は老朽化でどうなるか分からないという。
静かに、しかし急速に七日町と本町は変わりつつある。

「電線さ輪っかがいっぱいふっついでっげんと、これ何?」
「雪がふっつがねようにんねがよ?」
正解は分からない。分からないうちに親子は車に乗ってどこかへ出かけて行ってしまった。

「おまえの頭が真っ白になんのも時間の問題だじゃあ」
上から眺めながら、地面に踏ん張っている自販機へプレッシャーをかけてみる。

壁をぶち抜いて昭和や平成が運び出される。
道路を拡張するために、令和の生活を便利にするために。
積み上げられた過去の年月は、思い出として残るだけ。
TOP