◆[山形市]霞城公園 色づく杜に包まれて(2020令和2年11月1日撮影)

「燭台に光を集めて灯をともしましょう」
「いや、その前にはだけた肌を寒さから守りましょう」

「なえだて、こだな寒ぐなたていうのに、近頃の若い者はねぇ」
帽子にマスクで完全防備の自転車が、11月の風を受けてブロンズ像の前を通り過ぎる。

すっかり一面落ち葉で赤くなった。
落ち葉を踏みつける音は限りなくカサカサと乾燥して、思わず地面にニベアを塗りたくなる。

「おらもよぅ、そろそろくたびっできたがもすんねなぁ」
深いしわを刻み、東大手門の橋を支える柱が秋の日を浴びて呻いている。

「住みづらい世の中っだにゃー」
春ならば山形で一番綺麗な桜スポットの特等席に座る猫が目を細めていう。
「んだて、霞城公園の中さは住んでだめだて看板が、あっちこっちさあっじぇ」
「生きるために逃げ込んできたんだげんともにゃー」

遠くに最上義光を眺めながら、
菰巻きが済んで、太い幹は安心の表情を浮かべる。

ターミネーターの指先がピクリと動く。
「また、戻って来いよ」
その言葉は来館者へ掛けられた言葉に違いない。

「いやぁ、しゃますさんなねねぇ、こだっぱい積もっどよぅ」
今は落ち葉の話だけれど、冬になったら同じ言葉でも雪のことになってしまう。

辺りを穏やかな時間に変化させ、その空気で包んでしまう、魔法の光景。

そこに再現されるのは旧済生館の建物じゃない。
おばちゃんの心の中が再現されるんだ。

何という育ち方。
まっすぐに伸びられず、Nの字になってしまった枝の気持ちを思う。

あんまり一気に秋の光景を見ると、赤色に慣れていない目を傷めてしまうと、
両側から大木がズズズッと寄ってくる。

なんの実だか分からない。
あまり人の通らない、旧済生館の脇道沿いにひっそりと膨らんでいる。

霞城公園内には豊島園のようなメリーゴーランドがある訳じゃない。
なのに皆吸い込まれるように南門から入っていく。
山形市民の心には霞城公園というメリーゴーランドが常にゆっくりと回転しているんだ。

目を逸らしているけれど、ものすごく意識しているのが分かる。
確かにすれ違いざまに、ジロジロ見ちゃあ失礼だし、
目のやり場とは本当に難しい。

緑の炎が力強く壁を這いあがる。
梯子いらずの蔦は、ひと夏の間に力任せに伸び切った。

自動車はあっちと右側を指している。
その右側を見てみれば、

草むらの中に頭を隠した自転車が一台。
あの標識は何を見間違いしたのか、自動車という名の自転車だったのか。

銀杏は家族を結ぶ強力な磁石になりうる。

夏の間は他の緑に紛れて、銀杏だと強く主張してこない。
しかし秋となり時が来たら一斉にまっ黄色となり、いきなり自己主張してくるのはなぜ?

「何あんの?」
「何触ったの?」
「おしぇでけろ」
「秋の根っこば見つけだ」
「根っこば抜くど冬になんのが?」

あまりにも真っ赤に色づいて、その色を持て余している樹木。
下を通り過ぎた女性のバックパックにも色が乗り移ってしまった。

道端に溜まった落ち葉たち。
踏みつけられて小さく砕け、また踏みつけられて粉々となり、
いつの間にやら再び土に還ってしまう。

踏んだら最後、そのきつい臭いはいつまでもついてくる。
とはいっても、足の踏み場もないほどに降り積もり、あらゆる人が踏んでいく。

緑を縫い、黄色を縫って、赤を縫う。
まるで編み物をするようにランナーは公園内を駆け抜ける。

「飛べ!空へ舞え!希望の星となれ!」
「おじさん、分がたがらちょっと邪魔すねでけね」

ビュッと風を切り裂いて体とスケボーが間近を過ぎる。
直後に地面に着地する軋むような音。
これじゃあやっぱり夢中になるわ。

「俺たちドリーマーなんだぜ」と言わせて、
はっちゃけたポーズをお願いしようとしたが、
みんな意外とクールで、これでいいという。
スケボーの腹を見せるのは、その傷が勲章だからなんだべが?

蜘蛛の巣に引っかかったのは落ち葉だけ。
蜘蛛はそろそろ潮時かと身を隠す。

古びた机の前にバケツが二つ。
きっとこの生徒は両腕にバケツを持たされ、廊下に立たされていたのだろう。

「天守閣はどさあんのや?」
「んだずねぇ、どご見でもそれらしい建物がない」
「真正面さあっどれ、現代の天守閣が」

少女は季節の変化を体中で味わってきた。
今年もやがて冬が来る。
通り過ぎる人々は誰も少女にマスクを掛けてあげようとはしなかった。
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