◆[山形市]高瀬駅・二本堂・田中 猫の目天気(2020令和2年10月24日撮影) |
「おもひでポロポロ」の頃の思い出を引きずっているような看板。 仙山線の風に晒されてやや疲れ気味。 |
静かな高瀬駅前に軽快なバイク音が近づき、そしてあっという間に遠ざかっていった。 |
「踏切だがら前さ出んなず、危ないべな」 そういいながら前へ出てコスモス揺れる。 |
マスクが今や世の中の話題の先端を行っている。 もちろん窓枠に張り付いたマスクも自分を主張するアイドルのようだ。 |
村山高瀬川の縁にポコポコ成っているのはイチジクじゃないか。 この時点では村中にイチジクがあることは知らなかった。 高瀬は紅花の里と思っていたが、晩秋になるとイチジクの里に変わるようだ。 |
「赤い絨毯の季節が来たじゃあ」 「んだずねぇ」 「誰もあの絨毯ば踏まんねずねぇ」 「んだずねぇ」 同じ会話が今年も繰り返されている。 |
村山高瀬川を右手に見て、土手から小道へ入ってみようと足を踏み出す。 落ち葉を踏む乾いた音が心地いい。 |
時折日差しが降っては、ビニールハウスから光が零れ落ちる。 |
「ちぇっと休憩しったっけのよぅ」 地元の人しか通らないような小道へ入り込んだのに、 不審者(自分)に対して如才なく声をかけてくれるおばあちゃん。 |
「葡萄食べねが?」 そういってひと房私に差し出し、その手で自分もまた食べ始める。 二言三言会話して立ち去る私を笑顔で送ってくれたおばあちゃん。ありがどさま。 |
玉ねぎの重さにネットの袋は苦し気に伸び切っている。 ここで落ちたら玉ねぎに申し訳ないと思いながら。 |
いつの間にか雨が降ってきた。 ネギ畑の向こうの古びた建物が、雨に霞んできたようだ。 |
いのは山は黙して語らない。 柿の実も黙してじっと枝にしがみついている。 |
トタン板で蓋をされ、重しにブロックを乗せられた一輪車。 その足はうめき声を上げながら柔らかい地面にめり込んでいる。 |
防火バケツが雨水をたたえて火事に備える。 周り中火の気はどこにも見当たらない。 |
スカスカの時刻表に見慣れた身には、バスが間断なく来るような間隔を与える。 しかし、聞いたことのない地名を見て、高瀬の奥深さ、懐の深さを思い知る。 |
「あんまり道路の方さはみ出してっから、車の泥被て汚っでだどりゃあ」 「んだて、いづコミュニティバス来っかどもて気もめんのよぅ」 |
走ることを終えたタイヤは側溝の蓋として第二の人生を歩んでいる。 タイヤのリタイヤ後は穏やかであってほしい。 |
すっかり雑草から慕われて、 いずめこに入れられた子供の様に、雑草は大人しく抱かれる。 |
水面を目指した柿の葉がかろうじて浮いている。 柿の枝は黒々と影を伸ばし、落ちてしまった葉をすくい上げるしぐさを見せる。 |
山はまだ緑だけれど、空気は初冬。 柿の実は雲間から現れる太陽から光を授かって時折ツルっと輝く。 |
雨も上がり、遠くには青空も見えてきた。 藪だか生垣だか分からない暗い壁を抜ければ、 そこには明るい世界が広がっているかもしれないと足が急く。 |
黄色い星々が地面一杯に広がり輝いている。 シャキシャキ感が突然脳裏を刺激する。 今日の夕食は絶対菊のおひたしだ。 |
雲が切れ、太陽が溢れる日差しを投げかける。 黒く沈んでいた木々が明るくなって光を透かしている。 |
屋根に枝を休めて、ひと夏を顧みる。 |
「誰だ、後ろから押すのは!」 「おら落ぢでしまうはぁ」 柿の実たちは斜度のついた屋根で押し合いへし合い。 |
「あたしばっかり目立って申し訳ないみだいだぁ」 「ほだごどないぃ、おだぐは目立つのが仕事だがらぁ」 か細いコスモスたちに諭されて、居心地悪そうに立ち尽くす消火栓。 |
「青空と戯れるなて珍しいんねが?」 「あたしだて綺麗な青空に近づいてみっだいどぎもあるのっだな」 いつも日陰で鬱屈しているヤマゴボウも気持ちを上向けるときもある。 |
宝田という小さな踏み切の近くに小さな祠。 まだ折り目もはっきりと目立つ幟が、真新しい姿をはにかみながら見せている。 |
真昼にただぶら下がっているのは退屈でしょうがない。 電球は周りの光景を肌に写し込みながら、日暮れを待っている。 |
「なえだず、すごいキノコの連なり」 「食えるはずないよね」 「食えるんだごんたら、今頃こごさこだいしていねべぇ」 |
車が通れるのか通れないか判断に苦しむほどに狭い踏切。 それでも光を浴びてその造形を主張している。 |
その先には高瀬の駅。 ホームに人は誰もいず、ただススキの穂が光と戯れている。 |
「ハートの窓なて、お洒落だんねがぇ」 ところでなんの建物なんだろう? 誰かが開け閉めした形跡もなく、無骨なハートは疲れた夏草と戯れる。 |
遠くから列車の音が急速に這ってくる。 慌ててその音と競争し、駅へたどり着く。 間一髪でシャッターを切る。 肩で息をする。しばらく心臓のバクバクが止まらない。 気づけば辺りは再び深閑とした大気。 |
ホームに出て駅舎を眺める。 窓ガラスには晩秋の空に雲がゆったりと流れている。 |
いのは山は高瀬のシンボル。 その山から弾けたようにコスモスがパッと咲き、青空に広がっている。 |
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