◆[山形市]旅籠町・大手町 雨が降ったり、やんだぐなたり(2020令和2年9月27日撮影)

山形市の駐車場。
山形の今を、しっかりとパッキリと断言するように掲示されている。

「今日は休みなんだが?」
「なして?」
笑顔に髭を蓄えた、肌がつやつやのおじさんが聞いてくる。
「んだて道路さ背ば向けで笑てっからよぅ」

「人間はこの頃、バスさ乗っても歩いていてもマスクしてるんだずね」
今ごろ咲こうというヒマワリが不思議そうに車内を覗く。

「もしかして紅花?アザミ?」
全身から生気が抜け、心がおだれそうな気持で曇天を眺めている。

旅籠町の裏道に入り込む。
コンクリからにょきっと突き出した鉄筋が頑なに動かない。

縦に染みが垂れ、横にひび割れ。
春夏秋冬の大気がコンクリに試練を与えた結果なんだろうか。

旅籠町といえば町のど真ん中。
だからこそ、どんどん広がる郊外の街を尻目に、昔ながらの小路が風情を湛えて残っている。

夏の終わりにどこを向けばいい?
今にも雨の降りそうな空へ向かい恨めしく、それでも希望を捨てずに咲いている。

とろーんと鼻を下に向け考える。
「俺はどうしたら水ば出すごどがでぎるんだべ?」
頭をひねろうにもひねる頭が無くなっている。

ツンツンと伸びる雌しべの先はどこへ向かうのかと、
暇つぶしの恰好の材料を見つけたと、自転車はほくそ笑みながら見つめ続ける。

区画整理された郊外の新興地にはこんな道はない。
つまりあの先へ行ったら何があるのだろうという、ときめきがないということだ。
旅籠町の裏道はどこへ行ってもときめきだらけ。

「楽しい道だがら速度は10キロでゆっくり進めよぅ」
「ほだごどやんねったて、止まるくらいゆっくり歩いっだぁ」

なよなよしてるくせに、硬いフェンスをくぐってくるコスモスの花。
身をくねらせながら、世の中の不条理を潜り抜けてきたんだろうな。

「おらだパイロンて、人間から結構ぞんざいに扱われでっど思わね?」
傾いたパイロンとすっぱげたパイロンは自分たちの成り立ちを嘆く。
エノコログサはなだめるように寄り添っている。

市内をくるりんと回るバスは、
市内をくるりんと映しこみながら走り回る。

夜来の雨がトラックの荷台に溜まっている。
シートは重さに辟易しているけれど、ミラーは勝手に水面へ映り込み高みの見物。

「カラスだがムクドリだがしゃねげんともよ、体の中空っぽだはぁ」
「体内が空洞になたのがぁ?」
「ギャランドゥーんねがら、伽藍堂になたんだがら」

冷たい地面を初めて知った松ぼっくりは、
その体をしっかりとすぼめてしまう。

「捕まるものが早ぐ欲しいんだずぅ」
巻き付くものを求めて地面をノタノタ這うしかない。

か弱い風にすら体を押されて揺れるコスモス。
でも、揺れながらなんとなく風をかわしてしまう、したたかな生き方が見え隠れ。

あんなか細い体でも、屋根まで届けとシャボン玉気分。

「寒いがら顔さマスク被ったのが?」
「んね、誰もかまてけねがら顔ば隠さっでしまたぁ」

山形には街の中を五つの堰が流れている。
でも、今の季節はせせらぎが消え、堰の底に落ち葉が溜まるのを箒が見張っている。

「この標識が目に入らぬかぁ!」
「ハハ〜ッ」
というくらいに威圧感のある町名。
どっかの新参者町名にはない重厚さがある。

ポストと傘に見守られ、赤くぽつぽつと咲く花は、
小雨が降り始めるみたいと小さく呟やく。

「なんだがいつか見だ光景だずねぇ」
「あれぇ?前にも撮ったけがぁ?」
デジャブ?物忘れ?
結局いっつも吸い寄せられるように食指が動く被写体は昔から変わりない。

「こごさ数か月前には座布団が干さっでだっけずねぇ」
「今度はランチョンマット?なして歩道さ干すんだ?」

「好ぎだぁ!こいな街角の雰囲気!」
特に自転車の佇む小路辺りは、つぺたのこぺたの言わねで行ってみるしかない。
ただ、小路の奥に無粋な市役所の建物さえ見えなければ100点満点だったのに。

大通りを超えてやってきました、夢の小路。
桃の湯入り口ってなってるけれど、もしかして銭湯があったのか?

銭湯だったらしい建物は、奥ゆかしく奥へ引っ込み、
「もう、おらだの時代んねがらよぅ」と小雨に濡れて侘しく語っているようだ。

昭和はこのまま朽ち果てていくのか。
少なくとも私の心の中には生きている間残しておきたい。

スズラン街を北上してきた山交バスが、
今、旅籠町四辻を右折しようとハンドルを切る。

低い軒先に雨樋が哀れな姿を晒している。
でも、なぜかバーコードが這ってあり、現代風を装っている。

「街の中はスーパー無くて不便なのようぅ」
呟きながらおじいさんは足早に家路を急ぐ。
確かにスーパーは郊外にばかり立地して、街の真ん中からは大沼をはじめとする様々な店が消えていく。

雨の日はカラスだてやんだぐなる。
雨が降ったり、やんだりの繰り返しでは、こころがやんだぐなてしまう。

アップで狙う。
楽天トレーナーの三頭身は自分の姿。
オブジェからは滴が垂れて縞模様を描いている。

今、飛び立つようなUFO型オブジェの脇を若い声が通り過ぎる。
その声に、オブジェは飛び立つのを一瞬躊躇ってしまった。
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