◆[山形市]長谷堂・出倉 蒸れる盆地に、群れる花(2020令和2年8月12日撮影) |
早くも夏が終わったといいたいのか、おがり過ぎて頭が重いのか、 頭上から睥睨するように見下ろしてくる。 |
「見飽きだはぁ」 「ほだなごどやねでぇ」 カラカラに乾いた顔を窮屈そうに向けてくる紫陽花。 |
長谷堂の小路は、頭上に足元に、まるで露店が並ぶように花々が絡みついてくる。 |
「火傷でもしたのが?」 消化の文字は煤けているのか、錆び付いたのか分からない。 「日焼けだっす」 ただ錆び付いたとだけは言いたくない、看板の意地。 |
「乱暴んねがら」 「ほだなごど分がてっず。山形では使い古された雑巾みだいに聞ぐ冗談だがら」 つまらないことしか頭に浮かばないのは、長谷堂のメインストリートが静かで暑いから。 |
「南国沖縄をイメージしてみましたぁ」 「よぐあっどれ、ハイビスカスと青い海みだいなポスター」 「ほんてんハイビスカス?」 芙蓉は大柄な花びらから雄しべをツンと伸ばして誇らしげ。 |
よっくど雌しべを覗いてみたら、なにやら五つの頭に産毛が生えて、 大気のそよぎを敏感に感じ取っている。 |
「おまえはみ出しったどれはぁ」 「おまえだて地面さ尻もち付いっだどれはぁ」 二つの袋は考える。 「お盆ていつもよりゴミが出やすいんだべがねぇ」 |
本沢小の正面付近をうろうろする。 小学校の近辺でカメラを構えていると、何はなくても疑いの目を向けられる。 咲ききったのか、今から咲くのか百日紅が、躊躇いながらうろうろするカメラの前に立ちはだかる。 |
「なんだて近代的な校舎だずねぇ」 「こだいスマートな校舎は本沢には似合わねんねが?」 失礼なことをモゴモゴいう目の前を、悠然とおばさんが歩み去る。 |
おばさんは背中に夏の熱を背負いながら、 長谷堂銀座を吟味するようにゆったりと歩んでいく。 |
「カラカラて鼻血もでねぇ」 如雨露たちは皆下を向き、退屈なのか愚にもつかない冗談で時間と暑さを紛らわす。 |
勢いのある日差しは、真っ赤な自販機に張り付いて、目に痛いほど強烈な色を放っている。 年月を経た木枠のガラスにも、そのギラリとした姿は否応なく映し出される。 |
そこだけが原色。そこだけが強気。そこだけ異質。 自販機は虚勢を張っているけれど、もしかしたら少しだけ居心地が悪いかも知れない。 |
屋根の影はまだまだ下まで降りてこない。 もしかしたらなんぼ待っても陰に入ることは叶わないのかもしれないと、 一輪車は期待しながら一縷の望みを捨てきれない。 |
雲に頭を隠した竜山を背に、この世の春を、否、この世の夏を謳歌しているヒマワリたち。 |
そんな我が世のヒマワリを、よっくど近づいて覗いてみると、 なにやら赤紫の小さな突起がみんなして、ハートの形を作っているような気がしてならない。 |
こんなカラフルな花が空を舞っていたら、 みんな首が痛くなってしまう。 |
「バナナがいっぱい成ったどれ」 「いや、大きさが全然違うし」 「いっだべ、勘違いの夢ば見んのも」 |
花芯に寄ってみる。 真ん中には桜エビが盛られ、薄く伸ばしたどんどん焼の生地がクルっと巻かれてその周りを囲んでいる。 食べ物にしか例えられない脳の弱さが露呈する花畑。 |
ギラっと眩むような光がヒマワリにはよく似合う。 たとえ葉っぱが虫に食われていようと。 |
黄色い花びらがくねりながら空に伸びる姿は夏の象徴。 |
花に寄ることは夏に寄ること。 小さな世界にもびっしりと密な世界が広がっている。 |
ガクは光を受けテラテラと輝いている。 白い羽毛も浮き立っている。 夏とはなんと生命を輝かせる季節なんだろう。 |
ヒマワリ畑を後にして、汗を拭き拭き農道を歩く。 また名も知らぬ草花に出くわす。 ピンと立つ三本の立ち姿には、夏バテの言葉がまったく当てはまらない。 |
「早くてコスモスがはぁ」 季節は止まらない。年を重ねると止まらないどころか加速しているような気さえしてくる。 |
今日のお約束はとにかく花に寄ること。 コスモスの花芯もギュッと圧縮され、その密状態が次の世代へ命を繋ごうとしている。 |
食用か観賞用かなんて、植物たちには関係ない。 ニラの花だって真夏の空にスイッと伸びて、花火のように白い花びらを弾けさせている。 |
電柱があればこその上り調子だった夏の草。 そこまでして太陽に近づきたかったのか。 |
目がくらむような夏の空。 貪欲にツルを伸ばし、まだまだ空へ伸びようとする。 もちろんツルの勢いに、寡黙な電柱は何も言わないが、本心は迷惑に違いない。 |
「戸開けでけろぅ、暑くてわがらねぇ」 ゴム手袋はヨレヨレになりトタンに縋る。 雑草たちは、なしてゴム手袋がほだい弱っているんだが理解できずに笑って傍観する。 |
蔦はこれ見よがしにその勢いを増し増殖する。 熱に浮かされたタイヤたちは、その様を呆れながら見上げるしかない。 |
大樹の影が目の前の本沢川にまで伸びている。 涼やかな白い日傘も、ひと時の凉を求めてその中へ入り込むお盆。 |
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