◆[山形市]木の実町・旅籠町 梅雨深し、曇天の雲重し(2020令和2年7月5日撮影)

空が雲の重さに耐えきれず、今にも雨を降らしてしまいそうなどよんとした大気が山形を包んでいる。

こんなに集団で若者を見ることがすっかり少なくなってしまった山形。
若者を見かけるだけで得した気分になってしまう。

プランターの小世界でしか生きられない植物たち。
目の前を過ぎる車を見るたびに、世界はどんなに広いのか壁際で想像を掻き立てる。

工事で薄汚れてしまったトラックは、目の前の鮮やかなアジサイをジーっと見入る。
アジサイたちは汚れたトラックにいたわりの気持ちを持って笑顔で話しかけている。

そういえばあの頃ってどこにでも「やさしく走ろう紅花の山形路」が溢れてて、
嫌でもそのフレーズを覚えてしまっていた。
今はどんなキャッチフレーズで山形を走っていればいいんだろう?
「免許返納まで大人しく走ろう山形路」

傘を持たないと外出できない季節。
雨に打たれても平気な花びらのひと房が、怪訝な顔で塀越しに傘を見送る。

ポストは天を仰いで嘆いている。
「なんで自転車の篭替わりになってしまったんだぁ」
「俺は郵便物しか入れっだぐないんだぁ」
その声を真正面で聞くハンドルがじっと耐えている。

空が暗くなり、オブジェは一層黒くなる。
その前を黒い車が走り去り、この界隈はグレー一色になり沈鬱な空気。

「おらだって兄弟なんだが?友達なんだが?」
「一緒にバスば待って、同じ方向ば見でるんだげんとも、
待っているバスは違うがら友達なんだべがなぁ」

自販機の中からこれでもかというほど潰された空き缶を見降ろして、
自販機の中の缶たちに動揺が走る。

打球のない豊烈神社は静かそのもの。
手水舎でちょろちょろと流れる水音が、湿気を含んだ大気に飲み込まれていく。

バケツの水面は微動だにせず周りを映しこんでいる。
バケツの周りには波紋を作るような動きは何もなく、このまま梅雨空を眺めているしかなさそうだ。。

元殖銀の柱の向こうを人影が通る。
その向こうに中央公園の濃い緑。
柱の間にも梅雨の大気がじっとりと絡みつく。

大手町通りにはオブジェが文化の香高く並んでいる。
やや抽象的に誇張された少女は、背景の街並みに溶け込んでいるのか気にかかる。

「なんだがしゃねげんと、こごだげ歩道が広いんだずね」
「おそらぐ山形で一番広いんねが?」
ゆったりと歩ける広さと、覆いかぶさる深い緑。

「今では歩みはゆっくりになてしまたもはぁ」
「今まで時代さ合わせで生き急いだがら、これがらは自分のペースでいがんべぇ」

「こだいゆっくり公園のベンチさ座って、罰当だらねべが?」
「ゆっくりなのする時間ないっけがらなぁ」
目の前の光景に目を向けながら、脳裏には過去の出来事が走馬灯のように駆け巡る。

今を盛りにアジサイが溢れ、
辺りに薄紫が充満して息苦しいほどになる。

無風の公園内で元気がいいのは噴水だけ。
その飛沫は梅雨の陰鬱な大気を吹き飛ばそうともがいている。

じっと大人しく梅雨に包まれている山形市内。
飛沫の音だけが梅雨空へ反抗するように大気へ揺さぶりをかけている。

「梅雨のせいで髪の毛がぺったりして、あら、行ぐのがぁ」
三つ編みの髪の毛を指につまみ、ポーズをとったまま老夫婦の去り際を悲し気に見送る。

最上義光記念館の簾?網が涼し気にその奥の光景を透かしている。
掃除のおばさんは塵一つなく掃除するのに余念がない。

昔からこの通りの向こうはこんな街並みだったか。
思い出そうにも頭が回転しない。
高層マンションは街の光景を力づくで変えていく。

旅籠町のかどっこにある徽章店。
いつもの日の丸はピクリとも泳がず、小さな花びらが梅雨空を見上げる。

ギュッと空気を押せば、雫が滴りそうな湿気の塊が淀んでいる小路。

誰も座っていない古びた椅子。
一斗缶を背にして、一人の世界に浸っている。

「サドルが脱皮しったどりゃあ!」
「長い時間にカバーが縮んだだげだべ」
「んね、んねぇ、脱皮して綺麗な何かに生まれ変わるんだぁ」

真っ白く真新しい漆喰と、真みどりの対比が清々しささえ感じさせる。

御殿堰を見守るように、可憐な花が並んで見守る。

家屋の塀の下に置かれた紅花。
その季節の花をさりげなく道端に飾る家人の思いが伝わってくる。

日差しのない街が暗く淀んでいる。
道路の白線と黄色い線だけがくっきりと浮かび上がってくる。

「なんだてよう、どごば通ればいいのや?」
「道路の拡幅工事だがら仕方なかんべ」
まだしばらくはこんな状態が続く旅籠町。

済生館北側の御殿堰の水面は退屈を通り越している。
街から祭りやイベントが消え、心が躍ることは街からなくなった。
このまま淀んだ流れをいつまで続ければいいのか、来年に期待してもいいものか。

賑わいがあろうとなかろうと、仕事は全うしなければならない。
その姿は誰も見ていないようで、済生館の壁がちゃんと映しこんでいる。
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