◆[山形市]香澄町・木の実町 梅雨が染みる街(2020令和2年6月28日撮影)

「市民会館が移転するったんねがよ」
「文翔館の前さが」
「跡地はなにするんだべ?」
「街の中はさっぱりスーパーがないがらスーパーでもしたらいがんべ」
市民がなんぼ呟いても市民の希望通りにはならない公共施設の移転。

自転車たちはソーシャルディスタンス状態で、映画のポスターを食い入るように見つめてる。

フォーラムからスズラン街へ抜ける道。
「あれ?カリヨンの時計さ白い膜が貼らっで時間が分がらね」
「カリヨンんもくたびっだんだべなぁ、誰も見でけねし」

日曜日の午前中は昨晩の酔客の名残が漂っている。
そして各々、また一週間が始まったのかとナーバスになる。

酔客たちを挑発するポスターたち。
梅雨の湿り気で悶々とする辺りの空気をウインクが振り払う。

「なしてほだな役目してんの?」
「つ、辛いがら声掛げんなぁ」
シャッターのストッパーとして、買い物かごが第二の人生を意思に反して始めている。

空き地ができれば、そこはいつの間にか駐車場になっている駅前。
「こいな駐車場て、初めはどだごどして止めるんだが分からねくて困たっけぇ」
思い出したようにぱらつく雨がアスファルトを濡らし、その湿気で誰かの落としたタバコが歪んでいる。

駅前に急ぐ車が明治パーラーのカーブでブレーキを踏む。
立葵は我関せずと、自分の季節が来たからと当たり前に花開く。

「こいにしておろぬがなねんだべず」
ビールボトルの土台に乗った花が美しく散髪されていく。
「わがたわがた」
旦那は振り向きもせず返事だけ返す。

日曜日の通りには湿って覇気のない空気がまどろんでいる。
通りを走る車も少ない。
アジサイだけはこんもりと膨らみ、大気のゆるみに色を添えている。

「おまえ、ほだい堂々として気が引けねが?」
「世の中、いつ何時何があっかわがんねべず」
落雪の赤い看板は強気の発言とは別に、恥ずかしさに体をちょっと捻ってしまう。

「♪六甲おろしにぃ〜」
「おらだ猛烈な阪神ファンだがらね!」
車止めのタイヤは、半ば強制的に阪神ファンに洗脳されてしまった。

「赤いボタンが汚れて、押すのば躊躇ってしまう」
「どうせ皆傘の先っぽどがで押してるんだじぇ」
「早く押さねど、いつまでも道路渡らんね」
これじゃ、各横断歩道にもハンドミストが必要になってくる。

「なえだず、たまげだぁ!なんだこの赤い花びらは?」
花びらもあるけれど、正確には額らしい」
「んで、この赤い額の集団は何者?」
※答えは次の画面に続く

「おらだがフーフーて風ば送たがら落ちてしまたんだべが?」
「ほだなごどで責任ば感じっごどない。おらだのせいだがも分がんねし」
室外機は赤いじゅうたんを見つめながら心が穏やかにはなれない。
※赤い額の名称は次ページに続く

乳母車がゆったりと歩道を歩んでいく。
他の赤い花たちよりも少しばかり成長の早かったザクロは、
タコの恰好の真似をして、秋の実りを待っている。

役目を終え、花びらのもげたザクロの額はタコウインナーの形で寄り添い、
今後のことをひそひそと話し合う。

「こごは山形市内で一番車の通行量が多いのんねがず?」
「はえずぁ分がんねげんと、看板が多いのは間違いないなぁ」
霞城セントラルを隠しそうな看板が何本も立ち上がって、原色の色を空に放っている。

高校生の時にあこがれた店。
でっかいズボンがぶら下がって道路を睥睨していた店。
山形の学生でその名を知らないのはもぐりだといわれた店。
ズボンのスズキは昭和からビクともしない。

老いた郵便受けにヤマコミが入っている。
「おらも時代の流れば感じるっだずぅ。昔はヤマコミなてないっけもねぇ」
「ヤマコミて新しく開店する店の情報が早くてねぇ」
「俺は体内に入れられた物ば雨風から守っていればいいんだ」
錆びだらけの郵便受けは遠くを眺めながらポツリという。

NHKのすぐそばの路地に隠れているさくら木公園に足を踏み入れる。
いきなりの花の歓迎。
アリウムの円形の吸引力に、思わずじっくりと中を覗いてしまう。

がっしりとした支えがなければとてもじゃないが体を持ちこたえられない藤の枝。
そもそも人間が棚を作ってくれるだろうと決め込んで勝手に枝を伸ばしているのか、
もし藤棚がなかったら藤はどんな姿に育ったのか気になって仕方がない。

朝掃除でもあったのだろうか。
露を含んだビニール袋が公園脇に山積みになっている。
とある枝はその窮屈さに我慢できず、ビニールを破って脱走を試みている。

「せっかく咲いだのによう、なしておらだの周りさ黄色いタスキが巻がっでるんだ?」
タスキにはきけん立ち入り禁止の文字が浮き上がっている。

山形のど真ん中木の実町は、駅前と七日町に挟まれているのにこの緑。
商店街もなく静かに梅雨の湿気の染みこんだ家屋が緑の中に立ち並ぶ。

「早ぐ届げらんなね」
配達員さんは気持ちが急いて速足だ。
小脇に抱えたサクランボが悪くならないうちに届けようというのか、
ノルマがきつくて分刻みに配達をしているのか。

梅雨は街をどよんと沈ませる。
湿気は遠くを走る車の音さえも吸い込んでしまい、
太陽から遠ざけられた路地には、搾れば水が滴りそうな湿気が淀んでいる。

バイクにはレンガが乗せられ、走ることを忘れたように湿気の中にうずくまっている。
白い花びらの塊は梅雨の大気を吸い込み、この世の春と重たくなった体を膨らませる。

いつもの梅雨とは言い難い。
こんな湿気を含むジトーっとした季節になっても道行く人はマスク姿。

建物に対して看板だけが異様に新しくないか?
その対比を楽しめと言われればそれまでだが・・・。

どいつもこいつも自己主張ばかりだ。
きつめの原色で、自分の主張を声高に叫んでいる。
その内容に共感できても、ただ強く言い張るだけでは解決に繋がらない。

「市民会館が移転すっかもすんねて聞いだがら来てみだのっだべ」
相変わらず前庭には誰もいず、侘しさが敷地を覆っている。

「あたしださなんの話もないんだじぇ」
「んだずねぇ、順番ってあっべずねぇ」
「移転してがらこごがどうなっかも分がんねんだべぇ」
市民会館敷地内で女三人集まって周りに聞こえてきそうな井戸端会議。

「少し雲が切れてきたね」
「やっぱり太陽が顔を出すと気持ちいい」
明るい未来を信じて疑わない子供たち。
そんな子供たちのためにも、市民会館跡地の利用はよっくど市民の声ば聞いでけろな。
そういえば、この地は昔、付属小学校か中学校だった。(今は県庁の隣に移転したけれど)
小学生の頃は秋に開かれる鼓笛パレードの集合場所だっけ。

まんず目がシカシカなるくらいどぎつい色だずねぇ。
なしておまえだは直立不動になて、ビラビラて下品な花ば咲かせでるんだずう。
さんざん立葵をこき下ろしても、カエルの面にしょんべん。
自分たちには自分たちの生き方があると、世間を気にしない芯の通った咲き方がある意味羨ましい。
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