◆[山形市]南一番町・二番町・天沼 宵闇に潜む(2020令和2年5月16日撮影) |
竜山が薄墨色に霞んでいる。 画面の隅では「三密にならねようにさんなねねぇ」とお互いに近づきながら世間話をしている。 |
8:00〜22:00までだ!と力強く強調する営業時間。 その下では、自転車たちが、辺りを気にしながら間隔をあけて止まっている。 |
「あど寝っべはぁ。すっごどないもの」 「んだずね、あんまり人の物欲ば煽んのもなんだし」 幟たちは三密を気にする力も残っていないほど立ち続けた。 |
道端の隅っこに咲くオダマキには、辺りの灯りが際立ってくるなか、 黒い闇が覆いかぶさってくる。 |
ライトアップされた笑顔は、緊急宣言が解除された、夕暮れの気だるい空気を読み取っている。 |
天沼にも闇が少しずつ忍び込んできた。 青々とした緑は、その闇に飲み込まれようとしている。 |
車が走り去る度、キラッと反射する光。 そんなことにはお構いなしに、蛇口には黒々と夜の闇が這いあがり、 その金属面を冷たく覆う。 |
天沼脇の、この一銭店屋から巣立っていた子供たちは数多いと聞く。 子供たちの交わる楽しい時間も、宵闇のこの時間も、 掛け時計はえこひいきせずに秒針を刻む。 |
空気はサラリと心地いい。 その空気に溶け込んだ夕闇は、いつもと変わらず草花を飲み込んでいく。 |
街灯から微かに届く光へ、心の底からもっと!と叫ぶようなツツジたち。 |
「今日も終わりがぁ・・・」 ため息とともに天沼の水面を眺め、一日独りぼっちだっけなぁと体をくねる。 |
闇に沈む姿態には、微かな街灯の灯りが張り付いている。 |
何事もなかったように、天沼はさざ波一つ立てるでもない。 |
青黒く静まり返った天沼の、どこかから聞こえてくるのは主(ウシガエル)の声? グオーッ、グオーッと低音で鳴く声が水面を渡って辺りに広がっていく。 |
街灯の弱々しい光でも透かしてしまう、生まれたての若葉たち。 |
「今日はあんまり子供だ来ねっけねぇ」 「明日は日曜だがら来るんねがよ」 ブランコの落ち込みをなだめる様に、街灯は灯りを投げかける。 |
「みんな離れでらんなねんだど」 「ほだな絶対やんだぁ」 がっちり組み合ったブランコの鎖は、何があってもぎっつぐ手を取り合って離れない。 |
いよいよ闇は勢力を増し、辺りは濃紺色の支配下に落ちた。 相変わらず沼の主は、グオーッグオーッとその存在を知らしめるような声を水面に這わせている。 |
微かな街灯の灯りを頼りに、シロツメクサたちはお互いの存在を知り、 寄せ集まってひそひそと会話を交わす。 |
光が揺らめいている。 沼の主が水面に波紋を立てたのかも知れない。 シロツメクサの花びらにも微かな灯りがそろりそろりと息を潜めてやってくる。 |
天沼を離れ、アスファルトを歩く。 味気ない街並みにも闇は覆いかぶさり、昼の顔とは違った危うい表情をまとっている。 |
路地の先に見慣れた日産の塔が浮かんでいる。 早く灯りのある通りに出なければ。 背後の闇は背中に迫っている。 |
夜空に黒い網目を紡ぐフェンスたち。 夜の微かに揺れる大気を、何事もないように受け流している。 |
パレスグランデールのウインドウに寄り、なぜかホッとする。 闇には得体の知れない魍魎が潜んでいるようで、 人間である限り、闇を畏怖する気持ちは消え去らない。 |
山形人に安心感を与えるのは山交バス。 とにかく山交バスを見かければ、なんとなく安心し心が落ち着く。 そんなバスの車内には人影がなく、ただ手摺の輪っかが手持無沙汰にぶら下がり、 車内灯に照らされている。 |
文翔館へ突き当たるまで伸びる路と、末広町・駅へ向かう路がぶつかる三差路。 空は闇が優勢になっているけれど、週末の路にはヘッドライトを点けた車がまだまだ行き交う。 |
闇の空に向かってあおぞら幼稚園の塗り絵が並ぶ。 思い思いの車体色に塗られた絵は、通り過ぎるヘッドライトの光に撫でられる。 |
車のホイールは、乗る人の虚勢の象徴でもあるらしい。 虚勢を張るほどその金属は鋭利に研ぎ澄まされ、 刃のように人を威嚇し、切っ先を向けてくる。 |
緊急時代宣言が解除されたとはいえ、街並みに人の往来は少なく、 看板などの灯りだけが、どこを向いていいかわからずに浮き上がっている。 |
「なんだがよぅ、空しぐなんのよう」 ライトは駐車場を照らしながら不安を隠しきれない。 「んだて、おらだが熱っづぐなて照らしても、それは当たり前のごどなんだじぇ」 当たり前が実はとても有難いことだと、やっと人々は気づき始めたんだとライトに耳打ちしてみっか。 |
雲の螺旋が灯りで浮き上がる。 日々の営みのなかで蜘蛛はあきらかに嫌われている。 それでも蜘蛛は幾何学模様をせっせと作り、人間と共存していると自負しているようだ。 |
TOP |