◆[山形市]薬師町・六日町 植木市の賑わいがなくても(2020令和2年5月8日撮影)

鋭角な屋根が青空に力強く突き刺さっているようだ。
あのボロボロになった校舎はどこへ行った?
ボロボロの校舎とともに五中卒業生の思い出も消えていったのかもしれない。

「どごさ咲いっだ藤の花?」
「わがんねごんたら周りば見ろ。後ろさ市営グランドの照明塔が見えっべ」
なるほど、ちょっとした背景から場所を推定できることもある。

「んだのよねぇ」
「おらいでもだぁ」
「しょうないのっだなねぇ」
陽光を頭から浴びながら、世間話は途切れることがない。

フェンスが日差しで温まってきた。
薬師町の看板はより力強く、誇らしげに浮き上がっている。

我先に空へ向かう。
初夏へ後れを取ってはならないと、草花たちは今が伸び盛り。

「洗濯物なの干した途端に乾いてしまうものなぁ」
カラッカラに乾ききって、久しぶりに体が軽くなったようだと、タオルは機嫌よくぶら下がる。

薬師町の通りは道路拡幅で工事の真っ最中。
工事がいつまで続くか分からないけれど、
確実に言えるのは、昭和の街並みが生き残っていられる時間は確実に少なくなっていること。

門柱はあるけれど家がない。
最近の新しい家は門柱のない家が増えた。
つまり威厳や格式などのしがらみを捨て去ったということだ。
門柱だけが取り残されたこの家は、そのまま威厳だけが取り残されたということか。

風情の間を初夏の微風が通り過ぎる。
思わず歩く速さが緩くなる。

細い路地を抜けると、そこには熊野神社の巨木が待っていた。
像の巨体が大地を踏みしめるような体躯に圧倒され、
その姿を見上げれば、若葉の隙間から陽光がこぼれて降り注ぐ。

「おらだは皆おしまいだはぁ」
「んだんだ、あどはゆっくりすっべはぁ」
スギナやタンポポにくすぐられながら、冬の道具たちはうたた寝を決め込んだ。

やけにパッキリと青空に食い込んでいる紫木蓮。
咲いたばかりで、まだ周りに馴染むことを学んでいないのか。

七日町方面から文翔館まで足を延ばす人は多い。
でも文翔館の裏にある熊野神社まで訪れる人は少ない。
だからこそ静けさの中で、春の日差しを満喫することができるというものだ。

小さな池に鯉がうじゃうじゃ。
「うわーっ!おっきな口あけてこっちゃくっどれ」
ジョーズのメロディが脳裏をよぎる。

「じっくりと何みっだんだべ」
子供は厄年の一覧を眺めながら、これからの人生を見つめている。

ハナミズキの花びらを揺らして颯爽と高校生が走り去る。
爽やかすぎて、心の穢れが消えうせる一瞬。

日差しが強すぎるものだから、影は濃く、塀にがっちりと食いついている。

右を向いても左を見ても、彩が迎えてくれる初夏の路。

真昼の電球は、いつになく周りが派手に明るいので、
笠をかぶって顔を隠しているようだ。

薬師神社の境内と通りの境で黄色く囀る菜の花。
欅の枝を空高く眺め、通りの車の行き来に揺れている。

「虫しぇめっべぇ」
「どさいだんだべねぇ」
「おかあさんも分がんね」
虫取りよりも親子で薬師公園の空気を吸うことに意味がある。

子供たちの足が掛かっていない。
誰も登ろうとする子供もいない。
植木市のない薬師公園では欅の梢を渡る風だけが悠然と泳いでいる。

積み重なった一円玉は、たまーに訪れる参拝者の足音にふと目が覚めるだけ。

ハナミズキは空の青いキャンバスに爽やかな模様を描いている。

薬師堂の甍は温まり、その体から熱気が立ち上る。
その熱気に触れることなくハナミズキは爽やかな香気を辺りに放つ。

お祭りのない薬師堂にも初夏は来る。
信心深い人々は、例年の雑踏に交じることなく静かに手を合わせる。

「なえだて今日は静かだずねぇ」
「お祭りなぐなたがらなぁ」
「ほいずぁ、みんながっかりしったべ」
様々な道具が、薬師堂の床下から顔を出す。

若葉があっちこっちで初夏の喜びを体中で表現している。
車体のフロントガラスやボンネットにも、その喜びが乗り移っている。

「今年はないんだどぅ」
「ほだな初めでんね?」
「山形市民のがっかり度がマックスだべず」
いつも笑顔のサトーのサトちゃんは、笑顔を崩さず山形市民の心に寄り添っている。

「ごみば捨てないでて言ってんのに、そういう自分が捨てらっでどうするんだず」
ゴミ篭の中で、世の中ってそういうもんだと自分の恥をさらして教えている家庭ごみ看板。

凪いだ水面に若葉が映る。
子供たちはいつものように定番の釣りを楽しんでいる。

いつも変わらず春には葉を出し、子供たちを迎える。
何十年と変わらぬ光景。
今年はいつにも増して、そんないつもと変わらぬ光景のありがたさが身に染みる。

「ペットボトルがごしゃいで破裂すっどれはぁ」
夢中になって水面を見つめる子供たちに、
自転車の篭に入れられたペットボトルの膨張など眼中にない。

「おんちゃんカメラマン?」
「うん、まあ・・・」
竿の先を見つめながら声をかけられる。

私と男の子が世間話をしている間に、
男の子のすぐそばにいた母親がいつの間にかザリガニゲット!

男の子は、まるで自分の手柄のように笑顔でザリガニを掴んで見せた。
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