◆[山形市]下青柳 人から離れ花に寄り(2020令和2年4月25日撮影)

車が市スポーツセンター方面から雪崩をうって流れ込んでくる。
県立中央病院方面から山形市方面へ車が這い上がっていく。
ここは仙山線のアンダーパス。

「ぼさーっと立って、虚空ば見でんのが日常よぅ」
「冬の帽子だねっす」
「誰ががかぶせでけんのよぅ」
体を固定され、じっと佇む姿からは諦念が滲んでいる。

車で走てっど気づかないけれど、こんな立派な側道があったんだ。
三密を避けたジョギングコースにはもってこいなのかも知れないな。

「ちぇっと待ってけろぅ、早すぎっずぅ」
「近寄んなぁ、離っで走れぇ」
親子すら離れることを意識せざる負えない現実。

「世の中なにがあったんだが?」
「なんだが空気が違うずねぇ」
こんなに長閑に光が溢れているのに、土筆たちは敏感に何かを察知してひそひそと会話する。

「こごさ貼らっで永いげんともよ、春の来ね冬てないんだずねぇ」
周りに咲き誇る花弁を見つめ、錆の浮いた体が微かに温まる。

「何気ない光景っていいずね」
「こだな時代だがら尚更っだなぁ」
ビッグウイングの銀色の建物が見える以外、
周りは昭和を引きずっている。

若い芽が吹き出てきた。
「ニキビみだいなごどゆうなず」
「吹き出るていうのは若さの象徴っだず」

「ほだんどごさ頭ばこすぐて何しったのや?」
「頭痒いくてよう」
「あんまり早ぐ咲ぐがらっだなぁ」
成長痛ならぬ成長痒が。

「こっちゃきて話すっべぇ」
「おまえだこそこっちゃ来て遊ぶべぇ」
お互いの間には無常のビニールシートが下りている。

なにかを引きずるように、何かを背後へ残していくように歩む。
引きずっているのはしがらみ。残していくのは悔恨か。

野呂川沿いの桜はもう終わり。
花の終わりを確かめるように、ゆっくりとじっくりと、
背中に当たる日差しを感じつつ歩み去る。

「早ぐあべぇ」
太陽から背中を押され、
花の咲く散策路へ勢いをつけて入っていく親子。

「誰も座ってけねがらぁ」
雑草がベンチの隙間から顔を出し、辺りをきょろきょろと見まわす静けさ。

誰もいない。否、たまに農作業のおじさんが通り過ぎる。
ブラブラと歩くことがこんなに満ち足りた気分にさせてくれるんだと、改めて感じさせる野呂川沿い。

まだまだ若く、はにかんでいる葉っぱは、
光を通すほどに薄く、恐々と大気に触れている。

太陽が少しばかり西に傾いてきた。
羽前千歳方面からの光が逆光となって、枝の間でキラキラ揺れる。

「おらぁ、ふちゅぶっでしまたはぁ」
自嘲気味に錆びだらけの体をさらす野っ原。
ヒメオドリコソウがわらわらと集まって大気をこちょばす。

「三密てがぁ」
「おらぁ土と濃密っだなぁ」
おじさんの気持ちを勝手に忖度してみる。

「赤すぎね?」
「んだずね、おらだより目立ちすぎ」
チューリップたちは、郵便ポストの赤が気に入らないらしい。

「バキャーン止まれ?フンッ」
リヤカーはそっくり返り、看板の空騒ぎに間を開ける。

仙山線と県立中央病院と流通センターと市スポーツセンターに囲まれても、
こんなに昭和が充満する下青柳。

高電圧危険とちょっとだけ注意してみるシール。
でも、木影は気にすることなく影を這わせ、少しずつ壁面を撫でていく。

「ほだい強ぐゆすばぐなずぅ、体がギシギシゆうどれぇ」
ゆすばぐ紐はちょっと気を緩め力を抜いてみる。
波打った黒い影がトタンの体を微かに滑る。

「こごらげではぁ、何がなんだが分がらねぐなたどれはぁ」
ホースが文句を言う。
文句を言いたいのは絡まれた生垣の方だと思うけれど。

「世の中ってこいななんだ」
初めて世界に躍り出た新芽が人間社会を目の当たりにした瞬間。

西日が通りの隙間に陽を伸ばす。
ボタボタと落ちた椿の花びらは少しずつ土に馴染んで勢いを失っていく。
マスクをかけたおばちゃんがゆっくりとペダルを漕いで通り過ぎる。
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