◆[山形市]飯田・坂巻川 三密を避けて(2020令和2年4月11日撮影)

ガラーン。山大医学部病院の駐車場ががらがら。
理由は言わずもがな。
この光景がいつまで続くのか不安が増幅する。

竜山を見てここは山形だと分かるのか。
ヤマザワの看板を見てここは山形だと分かるのか。

「しぇでってけろずーッ」
「ほだい引っ張んなずー」
日差しで温まったアスファルトの上を人間模様が行き交う。

どんなことになろうと流通を途切れさせてはならないと働く人がいる。
トラックの屋根は日差しを反射して白く浮き上がる。

環境が変わると物を見る目まで変わってしまう。
躍動する体、沸き上がる歓声、選手・観客との一体感。
あー、そんな日が当たり前だと思っていたのに。

やきとり看板が日向ぼっこをしている。
「ほだんどごさいだて、ちゃんと焼げねべず」
「誰だてやんだくて逃げっだぐなっどぎあっべした」

「おまえ離れろず」
「おまえこそ近づくなず」
「密着してだめなんだがらな」
一番搾りはお互いに相手をけん制する。
親子もつかず離れず歩み去る。

「お互いに役割は違うげんと、仲良く並ぶべ」
エステサロンもゴミ置き場も隣人として認めあっている。

「ほりゃ、ラーメン店の人形まで手洗いの仕方ば教えっだどれ」
「んねず、もみ手で来客ば迎えっだだげだず」

タンポポが咲き、山交バスが通り過ぎる。
いつもの光景がなぜか愛おしい。

ぱかっと開いてあったまった辺りの空気をむさぼっている。

どこかのおじさんが寒椿にカメラを向けている。
道路はいつものように車が行き来し、歩道橋の文字はまだ真新しい。

「霞城公園は閉鎖さっだしはぁ、近所の桜で我慢さんなねっだな」
「ほだごどゆたらこごの桜さ失礼だべ」
坂巻川沿いの桜は今を盛りと咲いている。
ただ、やや風が冷たいのでソフトクリームの頭は縮こまっている。

「なえだて綺麗だずねぇ」
「誰でもきれいなものが好きなのにゴミは出んもねぇ」
ゴミ置き場の張り紙たちは我を忘れて桜を愛でる。

「桜がきれいなのは当たり前っだず」
「おらだみだいな侘びさびの美しささも気づいで欲しいずねぇ」
リヤカーや板ぱんこたちは茶色に染まった姿も美しいと自画自賛。

坂巻川は細く小さな川だけど、太陽の光をキラキラと煌めかせる気持ちは大河と変わらない。

「せっかぐ桜のある窓際さ座ってるんだがら、スマホなの見でっごどないべした」
桜の気持ちを代弁してみました。
いや、桜のせいにして自分の気持ちを言ってみました。

みんな三密を避けて三々五々桜を楽しんでいる。
なにもごったがえず観光地に行かなくても、
ゆったりとした気持ちで桜を愛でるところは山形にたくさんある。

雲が切れ、花弁にパーッと光が注いだ。
川面は一斉に拍手を送った。

「どれどれぇ、花びらから気づがんねうぢに、そーっと撮ってけっべ」
そーっとレンズを隙間へ差し込んでみる。

「あれぇ、誰が覗いっだっけがぁ?」
枝の先っぽが隙間から顔をだす。

散乱する光で白く浮き上がった塀の前を、家族が通り過ぎる。
なんの意味もないありきたりな光景すべてに意味があるように感じてきた。

「うぢさいんのやんだぐなた〜!」
「早ぐ友達ど会うだい〜!」
「学校で勉強すっだい〜!」
その思いがペダルに一層強く力を加える。

「おらだ密閉空間さいで守らっでっから」
「今は逆なんだじゃあ」
外と土管内のヒメオドリコソウたちが言い争いを始めている。

桜が誇らしげにあでやかさを競っている間に、
柿の木は静かに芽を膨らませていた。

「皆桜さ目ば奪わっでからよ、いまのうちっだな」
箒やちり取りは、筋肉を緩めてうたた寝を決め込んでいる。

気の早い芽があっという間に葉を広げ始めている。
じっと目を凝らしていれば、その伸びていく姿が分かるほどに。

山交バスがブルルンと排気音を残して塀の陰に消える。
庭から春の草花が賑やかにはみ出してその様子を伺っている。

今年はどんな気持ちで見たらいいのか戸惑いながら、
桜に包まれて坂巻川の小さな橋を渡る。

「まぶしくてわがらねねぇ」
「んだずガードレールが真っ白過ぎっからよぅ」
タンポポたちはぶつくさ言いながらも、無事みんなで咲いたことに喜びを隠せない。

春の大気が充満している。
これ以上何を望むかと言わんばかりに、
空は青く、菜の花は空に伸びる。

「おじさん名前は?」
「怪しい者んねがら」
思わず否定から入った会話。
少女はなんの悪意もなく、ただおじさんのカメラ姿に興味を持っただけなのに。
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