◆[山形市]大手町・城北町・昭和橋 それでも春は来る(2020令和2年4月4日撮影)

燭台なんだべが。燭台だどしたら、なんの灯りば灯すんだべ。
鬱屈した気持ちの中でも、小さな灯りを消してはならない。

「なえだて暑ぐないがぁ?」
「熱あんのんねべなぁ」
春の足音を力強く響かせて、青空の中を歩みだす。

美術館の中へ、カーテン越しに光が入り込む。
外の世界よりもゆったりとした時が流れている。

「開花宣言したばりなのになぁ」
霞城公園の土手をチラホラと人が行き交う。
奥羽本線の柵はスクラム組んでじっと見守る。

小さな手に日差しが留まり、その指が白く浮かび上がる。
「牛乳パックば切ったやつ持ったげんと何しったんだべ」
「花さ水やりでもしったのんねがよ」
塀の影にも春は来たりぬ。

むくむくと地面から顔を出したムスカリの花。
人間界に異変が生じているのに、空はあくまでも青く、草花は春を忘れない。

「こだい綺麗に整列させらっで、みんな平等っだなぁ」
「不平等だぁ。んだて左側ばっかり陽が当だっどれ」
「考えようだず。右側ばっかり強い日差しから守らっでっどら」

大手町の並木の根元には水仙が今を盛りと咲いている。
「年がら年中車の音がうるさいのに、よぐちゃんと育たなぁ」
「排気音なのただの子守唄だっけっだな」

「枯草の噴水が!?」
「あだい空さ向がておがても、この先どうすんのや」
あてもなく伸び切って空の中に立ち往生。

「おまえあっちゃ行げずぅ」
「おまえこそ邪魔なんだずぅ」
座布団はお互いに押し合って光をむさぼっている。
「てゆうが、なして公共の歩道さ、おまえだがぬだばてんの?」

まだ葉を付けない枝がトタンの壁に模様を張り付ける。
レンギョウが塀からまっ黄色の姿を覗かせる。
幅1メートルの小道には、春が充満している。

四角い眼鏡が左右を同時に凝視している。
口元にはマスクをしていると思ったら、それは自己PRの張り紙だった。

「よぐ大工さんは、耳さ鉛筆ば掛けでっべした」
「頭さ箒ば引っ掻げで、何が問題だが?」
軽トラは春の光を背中に受けながら、興味なさげに振り向きもしない。

「おらぁ、くたびっではぁ起き上がらんねはぁ」
「んだて霞城改良どがゆう道路拡幅工事でバガバガ働いだものぅ」
乾いた泥がこびりついた車輪の向こうを、軽快にランナーが走り去る。

春になると小道を歩きたくなってくるのを抑えられない。
「んだて、両脇さ春の匂いが迫ってくるんだじぇ。こだえらんねべしたぁ」

山形でも屈指の交通量を誇る相生町交差点。
毎日通って、看板の表側を何気なく見てる人は数多くいると思う。
でも、その華やかな表があれば、それを支えている裏側を見てみたくなるのは人情。

広告が我も我もと自己主張する中、春の光が散乱している。
信号待ちで何気なく広告を見ている、そのヘルメットにも春の光は満遍なく降り注ぐ。

「仕事すね訳にいがねのよ」
電柱のおじさんの心の声が聞こえてくる。
「おだぐも頑張てるんだなぁ」
大看板の心の声がその声に被さってくる。

「なに憤慨しったのや?」
「あんまり気持ぢいいくて、んだげんと何したらいいが分がんねくてよぅ」
春の真ん中へ整列しているオブジェたち。

文翔館から西へ伸びる道路は幅が広くなり、アスファルトの上を光が悠然と泳いでいる。
鬱々とした気持ちを抱えていても春は来るし、雁戸山はいつもの位置に飄然と立っている。

昭和橋の上に立って西側を眺める。
七小が新しくなったと思ったら、道路も幅広く新たに生まれ変わった。
そこに広がる街並みは、これから令和の色に徐々に染まっていく。

昭和橋の上で、新幹線でも通らないかなと線路に目を落とす。
ふと視線を脇へ逸らすと、壁に張り付いた斜の模様が一段と濃さを増してきた。

「線路の柵さおっかがて、日向ぼっこが?」
「柵さくっついでっど、列車が通た時、振動が伝わて気持ちいいんだじぇ」
植木鉢たちは自分たちが置かれた立ち位置を何気なく受け入れている。

昭和橋の車の喧騒から逃れ、霞城公園へ足を向ける。
役目を負った看板や標識たちの向こうに、淡いピンク色が現れる。

磨かれたミラーに映し出される城北の街並み。
あまりに鏡面が透き通っていて、手を伸ばせばその向こうの街へ入っていけそうだ。

お堀端の水面ぎりぎりに水仙が咲いている。
その姿を愛でるように水面が思いっきりキラキラ光る。
「キラキラネームど一緒にすねでけろ。ほだな思慮の足りない気持ちで愛でてんのんねがら」

パンパンに膨らんで、咲きたい気持ちがはちきれそうだ。
俯いて歩く人々へエールを送りたいと、春の樹木たちははやる気持ちを抑えきれない。

綺麗に並んでいるみだいで、実はみんなデコヒコて気持ちはバラバラなんだずね。
並んだフェンスに多少の気持ちのズレがあるとはいえ、みんな繋がっている。

「危険だて周りさ叫んでいっげんともよ、自分の体が有刺鉄線で傷つきそうだどれは」
身をもって危険を周知させる難しさ。

「昭和橋はあだい立派に出来上がたんだねはぁ」
一本南側の小さな橋を渡りながら、マスクの中から言葉が漏れる。

白い指先が網目をしっかり握り、今か今かと列車の通過を待ちわびる。
「赤さびがふっついで、せっかぐの指が汚れっべなぁ」

「いつ列車来んの?」
「分がんね」
「いつ危険がなぐなんの?」
「分がんね」
分からないけれどもその時はきっと来る。

「ほだいはんばがてぇ、股が裂げっべなぁ」
「体がなまってしまたんだもの」
太陽を背に受けた子供は、萎縮した世の中から脱したいと体中の筋肉を動かしまくる。

「おらだいづまでも友達だべぇ」
「当たり前っだなぁ」
「昭和も平成も令和もよぅ」
「ほんてん友達になていがったなぁ」
咲き始めた桜の並木を友情がゆっくり歩み去る。
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