◆[山形市]歌懸稲荷・紅の蔵・第二公園 冬の残り香(2020令和2年3月15日撮影)

「その先さ行がせでけろ〜」
「やんだぁ、熱あるみだいだどれぇ」
「熱は熱でも春への熱い気持ちがあるだげだぁ」
押し問答の先に春は来ている。

冬の枷を外してくれと、鉄柱はもがいている。
三の丸土塁の樹木たちの中では、冬と春の風が混じりあっている。

「天気いいど、ほんてん気分いいもなぁ」
「んだずねぇ、足も軽くなんもぁ」
会話へ割り込むように、春先の日差しが壁伝いにスイッと入り込む。

力こぶのように隆々と盛り上がる三の丸土塁。
ビルに囲まれて、その力こぶは力の抜きどころを探している。

歌懸稲荷神社の参道を徐行もせずに風が舞い、駅前通りのざわめきが入り込む。

土塁と歌懸稲荷は隣同士。
椿は歌懸稲荷の敷地から土塁の樹幹へ秋波を送る。

「これが水御籤なんだど」
「初めでみだ」
「よっく分がらねずねぇ」
ビー玉はキラキラと煌めきながら、笑顔を振りまいてくる。

ビル風が境内へ入り込む。
風の隙間へ逃げ込むように、紙垂はその身を右に左にくねらせる。

「なんぼ街のど真ん中だて、福寿草は当たり前みだいして咲いでけんのっだずね」
玄関先で小さな平穏が、黄色い顔を膨らませている。

長い髪がフワッと後ろへ翻った。
少女はコートをブハラブハラと膨らませて走り去った。

昭和の味を色濃く残した楽器店に光が溜まる。
平成生まれの金色頭が、何気なく歩み去る。

綺麗に整備された歴史空間。
でもそこは平成に再現されて、令和に観光客を呼ぶ疑似歴史空間。
ラミネートフィルムのチラシが木の枝に吊るされているのが物悲しい。

蔵の隙間の暗がりで、漏れこぼれた光を受ける寒椿。

青い空によく似合う桃色が散りばめられる、春の始まり。

「さ〜あ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
奥ゆかしいはずの雛たちが、ギラギラの光を受けてハイになる。

「俺のけっつは臭ぐないが?」
「ううん全然」
夫婦のスノーダンプは壁にひっそり寄りかかる。

スーッと上品に伸びる鼻梁。
涼やかな目。
何かを発しそうな口元。
足、しびんねがっす?の問いかけにも動じない。

そのうるんだ目で見つめられたら、心は平常心ではいられない。
思わず出た言葉は、「目薬いらねがっす?」

口をすぼめて傘は言う。
「手で触ったら、持ち手ばアルコール除菌してけろな」

「カットバン張ってけっか?」
「ほだごどさんたていい。みだぐないがら」
紅ちゃんは、額の傷を気にもせず、
笑顔で客を迎え入れている。

笑顔の裏側に回り込む。
やはり紅花の花弁もポロポロ剥がれている。
「赤チン塗ってけっか?」
迷惑そうに紅ちゃんは産直市場の方へ視線を向ける。

「ほだい体が曲がってはぁ」
「なにゆてんの、ぶら下がり健康法しっただげだぁ」
捨てられたことを悟られたくなく、傘は虚勢を張るように体を曲げる。

アスファルトへ食い込む鎖。
赤さびの浮いたチェーンは、春の足音を聞きながらギリギリと歯ぎしりをする。

「おらだの役割てなんだ?」
「積みあがること」
「ただそれだげが?」
「わがらね」
時間はたっぷりある。
もうちょっと深ぐ考えでみっべ。

白く輝く歩道を春の風が撫でていく。
少年は冬の帽子を脱いで、暗がりに去っていく冬を凝視する。

青空へ向かい黄色い歓声が上がる。
その脇をそそくさと、いまだに冬をまとった自転車が走り去る。

「ちょー気持ちいい、春サイコー」
「なんぼダメだて言わっでも、家の中さなのいらんない」

第二公園の機関車は、黙って数十年子供たちを見守ってきた。
子供たちの歓声が、その傷ついた赤錆びを撫でていくのが心地いい。

「降りらんねぐなたはぁ」
一度春へ足をかけたなら、もう降りる必要はないがら前さ進めぇ。

何気ない光景だげんと、春がわんさか浮き上がっている。
まもなくあっちこっちから芽吹きの声が沸き上がる。

フキノトウが腰をくねくねしながら春の踊りを披露する。
水を噴き上げることも忘れてしまった噴水は、目を細めてその軽妙な動きをじっと見入る。

「春はどごさいだの〜?」
「なにゆてんの、春の真ん中さいるんだじぇ〜」
探し物はすでに周り中さ満ちていんのっだず。

日差しに温められた地面は、くるくる回る影になぞられて、
こちょびたいのを我慢する。

「春来たねぇ」
少女は小鳥に話しかける。
小鳥は少女がまぶし過ぎて、まともに見られない。
春ってこだいまぶしいんだっけがぁと怖気づいてしまう。

青春のきらめきにご注意ください。
あまりにまぶし過ぎるので、目を傷める場合がございます。
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