◆[山形市]噛んだらんまい 寒鱈まつりin山形 (2020令和2年1月26日撮影)

空気は冷たいが、この空のどこにも冬は感じられない。
雪のない乾燥した道を、寒だらの会場へ急ぐ。

「毎年このアングルで撮っていねが?」
「なんぼ同じ場所でも、空気・天気・息遣い・湿り気・光が皆違うのよ」
新県民会館を逆光気味に眺めながら、自分で自分の言葉に納得する。

「どだごどなてんだず?」
「しゃねっだなぁ、入たごどないものぅ」
オープンまで待てない市民が、正面玄関から中を覗いている。
青空に立つ霞城セントラルは、当たり前のようにガラス面に映りこんでいる。

駅から双葉町・久保田・五日町・上町方面へ向かう人々にとって、
普段の通り道になっている県民会館ガラス面通り。

「あだい人集まったどれはぁ」
「んだら、急がんねっだなぁ」
高齢の軽トラは、その会話に気づいて顔をあげてみる。

太陽で背中を温める人、太陽に寒鱈を向ける人。

太陽に元気があれば、地面を踊るように枝が這う。

静穏の日中。わずかなビル風がさざ波を起こす。
並ぶ人々は、さざ波どころではない期待に心を膨らませている。

シートへ斜めに日差しが入り込む。
その向こうでは慌ただしく青い人影が動き回っている。

「600円で寒鱈なて安いもんだべ、なにしろ年に一回しか食んねんだがらね」
「とにかぐ雪なくていがったま」
テントの中は、磯の香と陽だまりが混じりあっている。

広い歩道を埋め尽くす?行列は霞城セントラルの裏側まで伸びている。
県民会館はこの地がまだ慣れていないのか、きょとんとして人の列を眺めている。

スケキヨの指が寒鱈を鍋へドバっと入れる!
「スケキヨんねがら、しかもスケキヨは顔だし」
スケキヨのマスクに似た色の白い手袋は、指に食い込みぎりぎりと締め付ける。

スケキヨの手が、ガスボイドの人々へ寒鱈を手渡す。
「スケキヨんねがら!しかもガスボイドでもないがら!」

♪山は白銀〜朝日を浴びてぇ♪
思わずそんなメロディが聞こえてきそうなほど、満遍なく光を浴びている。

「骨以外は余さず残さずっだべな」
真冬の味を、伸びた影とともに堪能する。

「どごで食べればいいんだ、冷めでしまうはぁ」
落ち着く場所を探し、焦りと食欲が混ざり合い、お盆を思わずギュッと握ってしまう。

「それぇ!食え食え食えぇぇぇ!」
太鼓の音は大音量で食えと叫びながら食欲を後押しする。

芋煮鍋の中で寒鱈を食するという日本一の贅沢。

「味見してみでけろっす」
「どれ、どだなもんだが」
山形市民にとって海産物は珍しくもあり、財布の紐も緩みがち。

団子木のシャワーを浴びて、寒鱈の風味があちこちから立ち上る。

食欲を満たしたら、遊び欲が芽生えてきた子供たち。

「どいずいいのや?」
「あの赤いやつ」
「赤いのなの一杯いで分がんねぇ」
「僕と今、目が合った赤い金魚だず」
「益々分がんねぇ」

庄内は遠いようで近くもあり、でも仙台より遠いので、なかなか山形市民は出かけない。
仙山交流も大事だげんと、庄内は同じ山形県なんだがら、もっと交流さんなねべ。

「ベットさ寝でるみだいだぁ」
ブドウの房をベッドにするとは、さすが果物王国山形。

「なして長靴ばなの撮ってるんだっす?」
「冬の山形に欠かせないものだがらっだな」
今年ばかりは短靴でも不自由しない。
その分長靴の出番は少なくて、いじけた顔をしているように見えるべな。

金魚の向こうに食堂でくつろぐ人々の顔が浮かんでいる。
人々は水槽の金魚を見つめ、金魚も人々の生態を水槽の中から見てるんだ。

円形の長いベンチに間隔をあけて人々は座り、それぞれどこかへ視線を向ける。
同じベンチに座っても違うことを考えているのだから、それこそ同床異夢の再現か。

青春とは悩みがすべてを上回るもんだ。
頭を抱える先には、必ず希望が見えてくる。
勝手に想像を巡らせてしまった。
本心は分からないが、気にかかってしょうがない少年よ。

二人同時に腰をかがめる。
きっと何事も一緒で、お互いに顔を合わせて笑ってしまうのだろうな。

寒だら祭りへ人々は一目散に向かっていく。
県民会館のガラス壁面は、霞城セントラルの姿を波打たせながら映しこむ。
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