◆[山形市]富神の里 夢・雪あかり2020 雪はなくとも人集う(2020令和2年1月19日撮影)

「いつもと何にも変わりないんだげんと・・・」
「よっくど見でみろぉ、西山形小さ向がう道の両脇さ灯りが見えんべ」
雪のない村は、どこか寂し気。

「「いわいいわい」だど、とにかく行ってみらんなねべぇ」
普段ならだれも歩いていない道を、遠くに山形の街の煌めきを眺めながら足が向く。
※「いわいいわい」はおそらく「おさいとう」のこと?

日がとっぷりと暮れ、空は青い色に支配されようとしている。
すっかり葉っぱの落ちた枝が、無風の寒気に絡まっている。

道端の冷たい縁石に置かれた灯篭?は、
いつもの柔らかい雪の上に置いてもらえるものと思っていた。
遠く山形市街の瞬きを眺めながら、今年は何か違うと不安を覚える。

「いわいいわい」の会場脇を、車のライトが乾いたアスファルトをなぞりながら家路を急ぐ。
青く冷たい竜山の裏側から蔵王ジャンプ大会の光が漏れている。

「おお、すでに山ほど積みあがったんだどりゃぁ」
「こいっちゃ火ぃ点けだら壮観だべなぁ」
それにしても、どごさ行っても大沼の袋が積まれている。
山形市民には大沼がいかに浸透しているかがうかがい知れる。

間もなく空を闇が覆う。
今日最後の微かな光が、燃え上がるために積み上げられた藁と、富神山を浮かび上がらせている。

「踏んづげんなよ。豆の枝が伸びでっから」
豆畑を歩きまわっていたら注意の声。
「枝が硬っだくて、ケガすっど困っからよ」
そうだったのか。枝を痛めつけるなということではなく、
ケガしないようにとの善意の言葉だったのだ。
さっぱり雪が積もっていないからこその会話だった。

「玉コンニャクば撮るんだべ?」
「んねぇ、ミス西山形ば撮らせでけろっす」
といいつつ、玉コンニャクにピントを合わせてしまいゴメンナサイ。

闇夜に浮かぶ小さなオアシス「玉コンハウス」。
寒い中、この田んぼの真ん中を目指して、地区の子供たちが八坂神社からやってくる。
到着すれば「いわいいわい」がいよいよ始まるらしい。

積み上げられた西山形地区の一年分が、間もなく天に還ろうとしている。
神主さんはその道筋を示しているようだ。

子供たちの手により、遂に火が放たれた。

紅蓮の炎は暴れるようにもつれあい、絡み合い、空に昇ろうともがいているようだ。

炎に吸い込まれるようなまなざしで見入る西山形の人々。
みんなのゴム長靴にも、容赦なく赤々と熱気が張り付く。

人は炎に見入ると、他に何も見えなくなる。
一瞬呆けたように、炎を周りを取り囲み、それぞれの思いにふける。

我に返った子供はすかさずスマホで撮り始めた。
現代っ子は炎の呪縛から解き放たれるのも早いようだ。

「熱っづいがら気ぃつけでな」
「あの炎よりは、熱ぐながんべ」
湯気の立ちのぼりをお互いに見つめながら、会話が弾む。

「何が食ねで「いわいいわい」なのしてらんねずねぇ」
「んだずねぇ寒いしねぇ」
子供たちは思い思いの恰好で菓子をついばみ、炎の揺らめきを目に写しこむ。

「やっぱり玉コンは山形の定番だずねぇ」と右手で玉コンを食べ、
「やっぱりかっぱえびせんは日本国民の定番ったなねぇ」と左手の袋を掴んで離さない。

「「いわいいわい」も終わたし、今度は花火っだずほれ」
街灯に照らされて、棘とげのように見える桜の枝の下を、
人々は三々五々富神山の麓へと向かう。

花火見学場所の近く、とかみ共生苑付近には温かいものを啜る人々が郵便ポストと並んでいる。
郵便ポストの胃の腑には温かいメッセージのハガキが入っているかもしれない。
でも、本当に温かい食べ物を食べる経験をしたことはない。

「満車がぁ、膀胱が寒くて満タンだはぁ」
カメラも三脚も重い。早くトイレに駆け込みたいという気持ちが早って、影だけが駆け出しそうだ。

「ふぅ、人心地付いだぁ」
黙然とたたずむ椅子の背後が赤々と浮かび上がる。
どうやら通りを見回りのパトカーが走り回っているらしい。

白鷹と山形市街を結ぶ通りに出る。
星屑の瞬く下には、寒さに凍えながら山形の市街が光を散りばめている。

遂に静寂を破って花火が夜空に舞い上がった。

「なんだず、目の前ばトラックなの通っから、テールランプが写るどれ」

花火が打ちあがるたびに、富神山がその山体を闇夜に浮かび上がらせる。

「こだいバガバガ打ち上げだら、熊が目ぇ覚ますべな」
「熊なの冬眠もすねで、この間、富神山さ現れだばっかりだぁ」

「富神山はどだな気持ちで眺めでるんだべねぇ」
「はえずぁ、人の想像ば超えでるっだべ」
「まんず気ぃ散っからヘラヘラゆてねで、集中して見っべ」

「まんず見でろほれ、一瞬で消えるんだがら」
大人の目は闇夜の空にくぎ付け。
子供はあちゃこちゃに目を向け、気持ちの高ぶりを抑えきれない。

「その花開く放物線は、栄光への架け橋だぁ!」
「なに、つかしてほだなごどゆてんの」
「んだて感動的だどれやぁ」

「クライマックスだどはぁ」
「あど終わりがぁ」
「欲たがりだずねぇ」
もっと見たいと思ったところで終わるのが、腹八分目で一番いい。

「おもしゃいっけねぇ、すごいっけねぇ」
「手ぇ離すなよ」
あったかい手のぬくもりを感じながら帰途に就く小さな幸せ。
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