◆[山形市]たたら・ふいご祭り ワクワクとドロドロ(2019令和元年10月20日撮影)

青い空と深緑の森にひときわ映える両所宮随神門の屋根。

「なんだて目シカシカするもなぁ。」
ビガビガの屋根にふき替えられ、神々しい光が辺りを照らす。

「ひっくり返すなよぉ」
いも煮の器をソロリソロリと持ち帰る。

キンモクセイの甘い香りが辺りに漂う。
人々は目もくれず、焼きそばやいも煮の匂いに誘われて足早になる。

「うちさ帰ったら何喰う?」
様々な催し物を楽しみ腹がいっぱいになっても、帰途につく頃には次の食べ物。

お母さんと呼んでいいのか、お姉さんと呼ぶべきか。
「んでも、お嬢ちゃんではないべな」
「ほだなごどどうでもいいがら、早ぐ玉コンけぇ」

例年のごとくブランコは柱に括り付けられている。
年に一回のブランコ休養日と言えなくもない。

「こっだいぎっつぐ、ゆすばがっでよぅ」
「たたらふいご祭りんどぎだげは、おらだは厄介者なんだど」
愚痴の言葉は結び目から吊り下がった鎖に伸びていく。

雲間から光がサーッと伸びてきた。
ビニールプールの中に光が散乱し、玉が浮き立つ。
「まさがこの中さ、玉コンも浮いでいねべな」

昨今のラグビーブームで、筋力増強器具も花盛り。
いやいや、これは昔から続く鋳物の炉に空気を送るための「たたら」。
足踏み式だから足腰を鍛えるのにはいいかもしれない。

太鼓の音は炉の熱にゆがめられても、両所宮の森中に響き渡る。

「塩梅なんた?」
その塩梅は素人にはまったく分からない職人の熟練の技と勘。

「顔がほてってよぅ」
誰の声かと思いきや、ロープでゆすばがれた椅子だった。
炉の熱とともに椅子のビニールがフニャフニャになてくっべな。

「おじちゃん何撮ってだのや?」
興味深げに覗いてくるやろこ。
「泥ば撮ってだのよ」
「ほだな撮って、何がおもしゃいんだべなぁ」

男はてっぺんを目指す生き物。
三小・九小・五中の子で、上ったことがない子はいないはず。

くり抜かれた穴から覗こうとする。
泥まみれのシューズが邪魔して首を伸ばせない。

泥が乾いてカパカパになったシューズを気にしないのが山形人気質?

「やろべらすこたま食うべがらよ」
「こっちも頑張らんね訳にいがねのっだな」
太い腕には益々力がこもっていく。

普段は子供たちがギュンギュン回す。
今日ばかりはお年寄りのお休み処。
これは小さな小さな心地いいメリーゴーランド。

「ほだいでっかな鍋さ貰ていぐのぉ」
「さすかえなぇ。んだてこの大鍋は五百人分だじぇ」
「ほんてん、いやすばりだずねぇ」

「こだなもんでなんた?」
「まだ痩せっだんねがよ」
子供の視線が早ぐてゆったがらよぅ」
手から袖までペタペタになって奮闘する。

手ぬぐい一本で健康体操といえなくもない。

「前見えねぇ!」
手ぬぐいは顔にペタッと張り付き、思うようにはがれない。

「ふいご」の実演は火を扱うため一瞬も気を抜けない。
後ろの雲梯で遊ぶ女の子は一瞬気を抜き、ほろげ落ちている。

泥まみれのシューズをブランブランさせる。
それでも泥は乾かない。

泥まみれのシューズで空中を歩いてみる。
帰ったらお母さんにごしゃがれるのが目に見える。

クライマックスを迎えた炉の周りに人々が集まり始める。
グチョグチョの地面に靴が汚れるのを気にしながら。

シャッター音があちこちで響く。
煙が青空を濁らせてゆく。

「いがったべぇ!」
「おもしゃいっけぇ!」
まだ青い木々の中へはじける歓声。

弁天池の中では落ち葉がゆっくりと余生を送っている。
やや色づいた木々は人々を柔らかく包み込む。

陽光に照らされた噴水脇を、そそくさと通り過ぎる手にはアツアツの芋煮。

「あっちゃあべはぁ」
「なして?」
「んまそうな匂いするんだも」
石橋を叩くように蹴って走り出す。

たたらふいご祭りの会場から離れた社務所。
騒々しさとはかけ離れた空気が漂っている。

イベント疲れなのか、足袋の指先が時折ピクッと動くだけ。
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