◆[山形市]長源寺通り・花小路 七日町の憂鬱(2019令和元年10月27日撮影)

空は憂鬱そうに曇り、心を開くのも躊躇われる。
無言で佇立する壁に蔦が這い、閉じた心を揺さぶってくる。

市章が垂直に伸びる明るさの中に浮かび上がる。
だからなんだといわれればそれまでだけど。

直線で切り取られた空。
それらの尖がった図形の中に山交バスが紛れ込む。

「看板がわにでどうすんのや?仕事にならねべず」
隙間にポトンと落ちるように隠れて、いいたいことの半分も表現できない。

今ではオシャレ感すらある、昭和風の電気。
弱々しく空から届いた光が、壁にうっすらと影を張り付ける。

「この入り口から、どれだげのタレントや関係者が出入りしたんだべ」
その昭和からの歴史に間もなく終止符が打たれる。

「なにしたらいいがわがらねぇ」
どんな意図で結ばれたのか分からないビニール紐が、
ボサボサにほぐれて空になびく。

情報過多で色彩過多。
グレー基調の曇天の山形では目が慣れない。

休日の路傍にモップが一人項垂れる。
視線は下を向いているけれど、ただ単に眠いだけなのか、明るい外が嫌なのか。

蓋が割れるほどの勢いで落とされたのか、
石を載せてから時が止まった。

けばけばしい看板とくすんだ建物が並列して、
こちらを胡乱の目で眺めてくる。

ビールの垂れ幕は自転車を守るという新たな利用術。

「早ぐ赤ぐなたらいがんべ、んだど皆見でけっべ」
「見られることがほだいうれしいが?」
モミジは反駁し、人に見られない幸せもあるといってくる。

街の隅々に秋は浸透し、冬をじっと静かに待ち構える。

「間もなく走らんねぐなっじゃぁ」
「んだずね、もうひとっ走りすっだいげんとなぁ」
バイクは悶々としながらも、すでに冬眠が頭をかすめている。

破れは空気を通し、光も潜り抜ける。
蔦は息苦しかった気分を晴らすように、外へ這い出てくる。

でかいパイパイ?そして煌びやかな風車?
街角の隅っこで、そこだけの小さな異空間。

人は夜になれば狭っこいところへ吸い込まれる。
もちろん、その方が安心できるから。

トタンの切っ先は元々先鋭化していた。
でも時を経て人間が丸くなるように、
切っ先も自然へ帰る準備をするために錆びつき、
そしてポロポロと落ちてゆく。

千歳館の塀から、肥えた猫がのそりと現れた。
こちらを一瞥し、フンッと一息吐いて、
再び塀の下をくぐってのっそりと消えた。

ひと夏の思い出は伸び切ったまま空に留まり、
そのまま風に吹かれる。

見てわかる通り、ビニールに入った空き缶は、
居心地の悪いことこの上ない。

室内の温かさに慣れた花は、北側の窓の外を一瞥もしない。

植物たち一つ一つはとても弱い。
でも皆合わさって合体して大きくなれば、一つの巨大な生物になる。
そのどこからか低いうなり声が聞こえてきそうなのは冬が迫ってきたからか。

インフラを支える者たちが壁にへばりつく。
そこに嗜好品がぶら下がれば、なんだべ?となる。

飲み屋街に狸。
夜の社交場は狐と狸の馬鹿仕合いだからねぇ。
狸の口が半開きでいっている。

「ちゃんと踏ん張ってろよ」
真新しい自販機は頭上の老朽化が気になって仕方ない。

白い、でも真っ白ではない。
様々な色の混じりあった、純真無垢ではない白。

長源寺へふらっと入り込む。
空気が変わるのを感じる。
置かれた椅子は夜来の雨を留まらせている。

シートを翻したくなるような日差しが現れる。
一瞬、旭銀座が蘇えったような気分になる。

「ハサミが笑うって業界用語なんだべが?」
「笑うことがあれば、泣くこともあるんだべが?」
気になって仕方ない。キャッチコピーとして秀逸だとニヤリ。

鬱屈が周り中に漂っている。

目の周りが暗い。
よく見れば泣いているのかも知れない。

気が気ではなく、そっと下から顔を覗いてみる。
涙のシミを顔に広げてニコッと笑っている。
長い年月を経て、泣くことへ終止符を打ったように。
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