◆[山形市]江俣・桧町 夏の粘り腰(2019令和元年9月1日撮影)

くそ暑いときも、凍てつくような寒さの時も、誘導員の方は手を振り、そしてお辞儀する。
通り抜ける度、大変な仕事だなぁと頭が下がる。

「こごはどご?」
「スタンドバイミーの世界だごんたらいいげんとなぁ」
「なにゆてんの。山形がおらだのスタンドバイミーの世界そのものだべした」

お互い顔も知らない。もちろん知り合いでもない。
袖振り合うも他生の縁とはいうけれど、
顔も合わせず詰め終わったら走り去る。

シザーハンズ?
江俣の街角に立ち尽くしてどれほど経つだろう?
何度も通るので、その顔は頭にこびりついた。
人形には長年の雨風がシミとなってこびりついた。

不敵に笑っているのか、これからの人生を思い不安に陥っているのか。
紫の唇と生気を失ったような顔色が心配になる。
バス停は声をかけがたく距離を保ってたたずんでいる。

ぽっかりと口を開け、秋の空気を吸い込もうとするけれど、
そこには夏の粘っこい空気も混ざっている。

ダメダメ〜!と拒否感を満載にして小道を封鎖するポールたち。
そのおかげもあってこの通りには車が入れないけれど、
人間も歩いてないじゃないかぁ。

それこそ車を心配せずに、大口を開け空を見上げながら、
ゆったりと散歩することができる小道が江俣に存在していたなんて!

夏の名残を吸い込むように、ノウゼンカズラは口をパクパク空に向ける。

「つかして髪ば掻き上げでんのが?」
「こいな髪型なんだも、しょうないべず」
くるくると巻き上げた房が夏の名残に絡みつく。

通路をふさぐようにコムラサキが腕を伸ばす。
夏は通せんぼ、秋はいらっしゃいというように。

「危ないがらフェンスの上さ乗っていんな!」
「あんまり暑くてごしゃげでよぅ」
スノーダンプはむせ返るような草花たちを見て、
夏の粘り腰を実感する。

トンボはスイッスイッと空を舞う。
夏の大気に混じった秋を見つけては、それをついばむように。

「なして住宅街の中さ、こだな綺麗な小道があるんだべ?」
疑問を感じながらも、小道の快適さが頭を占め、
小道の起源なんかどうでもよくなってくる。

「お前は場違いなどごさいるんだず」
「おらだは咲いでダメなのが?」
「お前はただの雑草だどれ」
人間が雑草と決めつけた草花ほど生命力が強すぎる。

「おまえデカすぎ、俺の頭よりでかいどれ」
「今の時代は小顔がもてはやされでいるんだじぇ」
そんな悪口を聞き流し、草芙蓉は夏と秋の狭間を優雅に揺れる。

「硬っだぐゴワゴワてなてしまうはぁ」
そこだけに溜まった日差しはシューズを夏の暑さで固めてしまう。

ヤマボウシの実がコロンコロンと鳴っている。
白い花びらはとっくに散り、玉コロだけが残っている。
「赤ぐなたら、食うどんまいんだど」
「ほんてんだがよ」と指が伸びかける。

夏と秋が混じりあった空の色。
「トンボば見ぃあべ」
「どさいだの?」
親子は標識から抜け出すことを許されない。

「この小道の下は水路なんだじぇ」
「蓋したのっだなぁ」
昔は堰が流れ、今は蓋をして散策に最適な小路になっているという。
「しゃねがったぁ」江俣の小道の謎が解凍された瞬間。

ムクゲは夏を惜しみ、鼻先をクンクンさせる。

蜘蛛は湧き、大気の中に身じろぎもせず、微細な動きを感知する。

NHKの電波塔は雲を掴まんばかりにグイっと伸びる。

「いったい何メートルあるんだべ?」
そんな声はまったく聞こえなかったらしい。
有刺鉄線の向こうで山形の街並みを睥睨し、電波という秋波を360度へ送り続ける。

電波塔を支えるワイヤーは、
さながら人間専用の蜘蛛の糸。
様々な情報という餌を人々へ与えるために張っている。

「ほっだな上ば見上げるなていうごど滅多にないのもの」
「んだらヤマザワさ買い物行がんなねがら」
普段は卵の値段の方が大事。遥か上のことなど考える余裕もない。

店の裏側に隠れたパイプなど誰が見ようか。
力強くがっちりと抑えられたパイプに巻き付くテープは、
力尽き果てパリパリになり引きちぎれ、絶望の棘となって秋空を突っついている。

ヤマザワ脇の室外機からはむせるような熱気が空へ放出されている。
「何食せだらいいんだべ?何だど喜ばれんだべ?」
日傘の女性は頭の中で様々な食品を頭に浮かべながら歩道を進む。

縦横無尽に張り巡らされた電線や人々の思惑が行き交う街。
ヤマザワで何を買うか考えながら、日傘の女性は街の中へ吸い込まれていった。
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