◆[山辺町]舘野 ハスの里 たての香苑(2019令和元年8月11日撮影)

須川を越え、大曽根小を左手に見てひたすら西に進む。
下原から山へ入り込み、山間のカーブを喘ぎながら抜けていくとポッカリと広い空間に出る。
その作谷沢から小径に入るとハスの里舘野が見えてくる。

村の中にも生活があり、そして例外なく猛暑が覆っている。
白いタオルを首に提げ、汗を滲ませた体が花びらの奥で作業に勤しむ。

「暑っづいげんと伸びるしかないべぇ」
青い空へ向かうのはなんと気持ちの良いことか。

堅いつぼみはぎっしりと詰まった重量感がある。
トンボは頭を足先でくすぐって、早く咲けよと催促しているようだ。

「みんな一緒に太陽へ集まれぇ!」
「一応ポーズはとっげんと、くたびれっずぅ」
ハナトラノオたちは気持ちも一緒に上を向く。

一つの面なのに、多種多様な色彩と材質。
板あり、ガラスあり、トタンあり。

小さな姿に小さな屋根。
体がやや右側を向いているのは、
その方向にハスが咲いているから。

「昔来たどぎは、もっと家あるんだだっけげんとなぁ」
舘野も過疎化の波を防ぐことはできないと、麦わら帽子が歩き去る。

空にパッパッと朱を散らすモントブレチア。
暑さでだらけた空間がぴりっと締まる。

「その口臭なんとがならねぇ?」
トタンの小屋は、入り口から熱い息を吐いている。
朱の花びらは、顔を背けて体も捻る。

「白いタンクトップが二人して窓の外ば眺めっだ」
「ただのカーテンんねがよ」
「ただのカーテンにしか見えねなて悲しいずねぇ」

あんまり伸びて太陽に近づくとジュッと溶けてしまう。
それでも花びらを開き、伸びようとする力はどこからくるのか。

物干しのポールは干されるものもなく、
それでも体の光沢を忘れない。
伸びきった花びらは、ちょっと休憩と竿に首を掛けている。

「なんだが今年は花が少ないんねがぁ?」
「長い人生ほだな時もあるっだな」
人生に花の一生を重ね合わせて、同じ方向を見入る。

「山さ来ても暑っづいなぁ」
「いづまで暑いんだべなぁ」
「二人はいつまでもっだなぁ」

麦わら帽子が微動だにしない。
木漏れ日が揺れる。
ハスの葉の上を風が渡ってゆく。

おっきく開いたハスの葉。
その滴は蟻地獄へ落ちる蟻のように、葉っぱの中心へ吸い込まれてしまうのか。

微風に揺れる葉の奥に、舘野の村が小さく固まっている。

「毎年来てるんだげんともよ、今年は花が少ないんねがぁ?」
「腰痛くてよぅ、面倒みんの大変なのよう」
蓮の葉を渡って会話が小さく聞こえてくる。

「来年も来っからて、花ば頼むなぁ」
「そろそろ辞めっかど思てるんだはぁ」
「ほだごどやねでぇ」
蓮の花はピンクの頬を膨らませながら微笑んでいる。

「私を見ないで!」
ハスはレンズを向けられ、とっさに花びらを閉じようとする。

「極楽〜極楽〜」
「こだい快適などごないっだべぇ」
蛙は無表情だが、不意に笑みがこぼれそうになる。

「あっちさ行ぐどどさ出るんだべ?」
「山っだな」
「ほだごどないべぇ」
「こごなの、どさ行ったて山なのよぅ」
蓮を観賞するくつろぎのお休み処では、
様々な会話が交錯し、そして去って行った。

ハスを一心不乱に撮っている人に声を掛けたら仙台からと言っていた。
女性三人組に聞いたら、大阪からと応えてくれた。
おじさんおばさんは山形からだと言う。
舘野のハスは県外にまで名を轟かせていた。

暑さで緊張が途切れてしまったビニールシート。
気まぐれに吹く微風に体を任せ、気力の一つも感じられない。

「ウグゥ・・・」
ぐうの音も出ないほどひしゃげて折れ掛かった看板。
その錆は地球へ還る準備なのだろう。

誰も居ないのに布団が干されている?
いや、住んで居るけれど、暑さのせいで家の中に籠もっているのだろう。

ゴザの隙間から一輪車が鼻先を出している。
隅っこでは赤さびの浮いたドラム缶が手持ち無沙汰に時の過ぎるのを待っている。
遠くに近くに車の音もない昼下がり。

「チューチュー吸ってばりで、肺活量は大変なもんだべなぁ」
つまらない想像をしながら、そろそろ足がふらつき、カメラを持つ手にも乳酸が溜まってくる。

ウオッ!突然羽根を大きく開いた姿にモスラを思い出す。
咄嗟に頭をよぎるのは昭和のことばかりになってしまった。
TOP