◆[山形市]印役町四・五丁目 ラビリンスとタチアオイ(2019令和元年7月14日撮影)

山並みへひっつくように雲がどんよりと横たわっている。
渡る空気も湿気のせいで異様に重い。

ただ垂直に伸び、ただまん丸くアッケラカンと咲く。
タチアオイの恥ずかしげもない咲き方には毎年呆れる。
でも、これが夏が来たーッと一番感じさせる咲き方なんだろうな。

二口橋と馬見ヶ崎橋の間を結ぶ馬見ヶ崎の土手通り。
車がすれ違うには譲り合いが必要。
ムラサキツメクサも道を譲って端に咲く。

譲り合い土手通りにはくねくねっと曲がり、しかも坂になっている部分がある。
タチアオイの見守るなか、車同士がブレーキを掛けつつソロリとすれ違う夕暮れ近く。

「ほろげ落ぢでしまうべな!」
「なんだて際どい駐車場だずねぇ」
河原の土手沿いには知恵を絞った駐車スペースがいくつも並ぶ。

水面に広がる雨粒の波紋か、ひと夏の思い出の線香花火か?
いやいや、道端の端でたくましく生きる名も知らぬ雑草。

「咲ぎ終わたごんたら、さっさどいねぐなれずぅ。周りが見えねどれぇ」
消火栓はその忠義心と見守りの意識から、
思わず草花たちにきついことをいってしまう。

ときにへりくだってお辞儀をし、ときに命令口調になる看板たち。
今日は何も考えず梅雨空を眺める安息日か。

弁慶が体に矢を受けるように、体を枝に貫かれ、
それでも何もいわず生け垣に張り付くホイール悲し。

「あどいいずぁ、なんぼゆてもわがらねずねぇ」
払っても払っても絡みつく。

瓢箪から駒、タイヤから可憐な雑草。

「なしてこだんどごさ?」
「洗濯竿ば支えるでもなく水路さまたがるなて、自分の仕事ば忘っだがぁ?」

住宅の密集する小径を抜けると、ポッカリと広い空間に出た。
タチアオイは悠然と曇り空を眺めながら当たり前のように咲いている。

バーン!と夏祭りが目立とうとする中、
桔梗はひっそりと控えめに咲いている。

イチジクの葉っぱは丸まって、
湿った空気をその掌に掴もうとする。

プハーッ!
湿った大気が息苦しいと、空へ向かって息を吐く。

屋根瓦を這い上る湿気。
人々が家の中に籠もる中、
タチアオイは我が意を得たりと言わんばかりに直立不動で空に咲く。

剥がれた漆喰に声を掛けようと、
背伸びするグラジオラス。

「いったい、どっちゃ行ぐど、どさ着ぐのや〜!」
印役はなんといってもラビリンス。
小径は迷路となり、人々を惑わす。

小径は枝分かれし、大人も迷子になる印役町。
消化器の箱は新参者をあざ笑うように角張っている。

「いがーっ!オレさ絶対近づくなよ〜!」
本当はそう思っていないかもしれないが、全身のトゲトゲが相手を拒否しているアザミ。

ノウゼンカズラはとにかく外にはみ出たがる。
塀を越えてしまうのは、その旺盛な好奇心の現れなんだべが。
それともポタポタと花びらの落ちる位置を探しているのだろうか。

ボタッと落ちて、あとは風まかせ。
他の花に迷惑を掛けない場所へ落ちることができたと安堵して気が抜ける。

「看板だらけだどれ」
「ほだいいっぱい立ってっど看板倒れになてしまうべな」

そっと地面に顔を付けてみる。
ムワッとした湿気が鼻先をゆらゆらと立ちのぼる。
目を閉じて雑草の小声を聞いてみる。
「首が長すぎでくたびっだがはぁ?」

「藤棚の下ていいもんだずねぇ」
「んだっだなぁ、雨ば防いでけるし、ほんてん楽だぁ」
誰も来ないのをいいことに、ベンチたちはゆったりと時間を過ごしている。

子供が傘で地面に何か書いている。
行く当てもなく虚空を彷徨っていた藤の蔓は、
その姿を見た途端、自分の体も地面に届かないかともがいている。

「夏の花はタチアオイばりんねんだじぇえ」
ムクゲは花粉をボダボダこぼしながらまくし立てる。
その向こうを二口橋を渡ろうと、山交バスが喘ぎながら過ぎてゆく。

「頭上に注意てなんのごどだ?」
まっすぐ上に伸びるしか能のないタチアオイにとっては死活問題の言葉。

竜山は梅雨のねっとりとした雲に隠れている。
馬見ヶ崎の河原を訪れる人も数少ない。
タチアオイだけがその原色をポツポツと灯す土手の道。

タチアオイが咲きくたびれた頃、
そろそろ出番が来たかと咲き始めたコスモス。
移り気な蜂はタチアオイを過去の花と見なしたのか、今から旬を迎えるコスモスにへばりつく。
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