◆[山形市]桜町・大手町 霧雨の七夕に思い出づくり(2019令和元年7月7日撮影) |
霞城公園と旧県立中央病院に挟まれた一角には、 ひっそりと昭和が残り息づいていた。 |
ボロンボロンとアジサイの頭を撫でながら、 配達に余念のないトラックが走り去る。 |
「ごめんしてけらっしゃい。誰がいねんだがっす?」 自転車は門柱の中へ声を掛けても、湿った空気が微かに震えるだけ。 |
谷間になってしまったような桜町。 通路を抜ける湿った空気が、庭木をゆっくりとくすぐっていく。 |
「なんていう花なんだっす?」 「わがんねなぁ」 「んだら帰たら図鑑で調べでみるっす」 おばちゃんとの小さな会話がスイカズラの花びらの間を往復する。 |
声は聞こえない。 でも同じ方向を見る親子の気持ちが暖かく伝わってくる。 |
「なんだが人通りうがぐないが?」 「確かにいつもよりうがいずね」 「七夕なんだどぉ」 アジサイの房は門柱に寄りかかりながら、表通りを気にし始める。 |
現代の儀式。 何かある場合は、まずスマホに納める。 「こだな構図でなんたべな」 「お母さん、早ぐぅ」 |
織り姫と彦星は会えそうにない天気。 それでも子供達の夢や希望が空へ舞う。 |
「七夕飾りんねげんとも見でけろ」 信号機の赤いおじさんがじっと見つめてくる。 |
「なんて書がったの?」 「しゃねぇ、自分で読めぇ」 豊烈神社の前で、みんな活字を読みながら足は前へ。 |
「指さすなて、ほだい遠がぐから字読むいのがぁ!」 子供の成長に目を細め、早く短冊を見ようと足が急く。 |
「あだい人いっぱいだどれはぁ!」 あの人混みの中へ早く入り込みたいと、 歩幅が大きくなる母心。 |
「なえだて綺麗だごどぅ」 おじさんの脳裏はスズラン街で昭和三十年代に行われたという、 仮装行列の煌びやかさとダブっているのかも知れない。 |
「早ぐあべずぅ、浴衣ばみんなさ見せっだいがらぁ」 少年は地面を蹴りながら母親を急かす。 |
「恥ずがしいがら早ぐ撮ってぇ」 「ほだごどやねで、じっとしてろな」 母親は子供の成長をスマホにぎゅうぎゅう詰め込んでいる。 |
「お母さんしか見えねぇ」 子供の視野に入るのはお母さんが大半。 |
「ちぇっとちょどしていい顔!」 「あごが痛ぐなるんだげんとぉ」 子供は母親へとっておきの笑顔を見せる。 |
「当でくじの景品豪華だべぇ」 子供の目に輝きを増すために、大人は奮闘する義務がある。 |
何本もの足に周りをグルリと囲まれて、 それでも緊張せずに釣れるのか? |
「まだ麺ば入れでいねんだじぇ、撮んの早すぎっべ」 確かに早すぎだげんとも、祭りの興奮が指に移って勝手にシャッターを押していた。 |
「あっちゃ行げずぅ」 「そっちこそ半分より出っだぁ」 尻で自分の陣地を取り合いっこ。 |
「なにがいだんだがや?」 「おじさん目悪れずね、よっくど見でみろぉ」 小さなメダカ?に子供達は目が釘付け。 |
「落っでもずぶ濡れにはならねげんと、怪我すっからな」 流れのない水路で子供達は石橋を叩かず渡る。 |
湿気が籠もっているけれど、気温は高くない。 空からは霧雨だけれど、気持ち悪くはない。 日曜日はゆったりとした空気が最上義光歴史館前の公園を包みこむ。 |
「冷たい〜!」 「お母さんからごしゃがれっべな!」 岩の上の少年は冷たい視線を注ぎ続ける。 |
「おまえアディダスが」 「おれナイキ」 おじさんが子供の頃はズックしかないっけ。 「んだげんとも運動会があっど、足袋だっけじぇ」 |
「もどすなよぉ、早ぐ飲み込んでしまえぇ」 行き場を失った焼きそばは宙ぶらりん。 |
「手が蝋人形みだいなんだげんと・・・」 「今ど昔は違うのよぅ」 清潔だけしか認めない世の中がどんどん広がっている。 |
「ヤムヤム、旨い旨い」 香ばしい匂いが口から背後へ流れ、 束ねた髪にちょっとだけ触れて逃げていく。 |
「宇宙語ば知ってるなて凄いずね」 心の中を吐露したら、まさに宇宙語のように意味不明な子供の本音。 |
「雨強ぐなてきたじゃあ」 「帰んべはぁ」 「頭ばり傘で隠しても駄目だべしたぁ」 ブロンズ像は尻を隠さず心で呼びかける。 |
「むぐしたぁ!」 トイレから出てきた子供は一目散に母の元へ。 アジサイは微動だにせず状況を類推する。 |
「せっかぐの浴衣がぁ」 あと数センチ伸ばせば届く。 でも、あと数センチ伸ばせば濡れる。そしてごしゃがれる。 その手はごしゃがれることを選んでしまった。 |
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