◆[山形市]香澄町 雨に溶けるもの浮かび上がるもの(2019令和元年6月30日撮影)

地面は雨に沈み、車は隅っこでこごまっている。
昔のラインと今のラインは考えにずれがあることが浮き彫りになる。

自走式の駐車場に車が登ってくる。
車に着いた水滴が自流式で流れ下っていく雨の日。

「あれ?いつもの十日町角バス停はどさいった?」
三の丸土塁の前にあったバス停は消え、その名残の敷石が雨に濡れている。

山形市に唯一残ったダイエー前のアーケード。
雨の日にここだけは傘を差さずに歩ける。
昭和は七日町から稲荷角(十日町)まで傘なしで歩げっけげんとなぁ。

バス時刻をボーッと眺める。
その手前では営業スマイルがこちらを見てる。

「ほんてん久しぶりにダイエーのエレベータさ乗ったぁ」
「初めで乗ったどぎ、外が透けて見えでびっくりしたっけぇ」
都会になったもんだと鼻高々になった昭和のあの頃。

学生の頃(昭和の頃)、県外の友人をこのバスターミナルへ連れてきたら、
規模の大きさと天井付きにびっくらこいていた。
ひっきりなしにバスが県内各地から到着し、そして出発していく姿は壮観だった。

「ん?」
「ほぇ?」
お互い同時に腰をかがめたものだから、お互いが心の中で苦笑する。

ターミナルの薄暗さと、バスを待つ人々の群れと、排気音の反響が都会を感じさせてくれた空間。

「ボトルの中身は雨ば吸い込んだがら一杯なんだが?」
「そういうあんたは体中ぐっしょりだずね」
ペットボトルとマスクは、自転車篭に入れられて雨に打たれる。

降る雨に溶け出したように十字屋がどんどん低くなっていく。
遂に十字屋の向こう側も見えてきた。
人々はその脇を歩きながら、傘を翻して眺めるでもない。

ポッカリと空いた空間へ微笑みを放つポスター。
滴が垂れてもその微笑は一ミリも変わらない。

遠くまで見通せるスズラン街。
週末の夜ともなれば結構賑やかになる。
業態が変わって居酒屋が増えたからなぁ。

ETの頭のようなサドルがボーッと十字屋が溶けていくのを眺めている。

「警告もいぢいぢ面倒くさぐなてきたはぁ」
警告文は濡れながら逆さまになって弱音を吐く。

「ちぇっと飲み過ぎだがらよぅ、雨に打たれて冷ますがどもて」
ビールは空になり、雨水が溢れている路地裏の空き缶。

しゃちほこの目の先にあるのはやっぱり十字屋。
そそり立っていた壁が消え、白い雨雲の空間が増えるのを見るのは辛くて涙目だ。

派手で目立つマンホールの蓋が人気だという。
山形の蓋は地味に目立たず微動だにしない。
雨粒が波紋をあちこちに創るだけ。

「ハートの形て言われれば、んだがなぁ」
腑に落ちず滴の列をジーッと眺めてみる。

これ以上なく項垂れる花びら。
体に付いた水滴を振り払う気力も感じられない。

夏を感じさせるパッと目立つノウゼンカズラ。
滴に濡れてシズル感が増し、発色が益々際立ってくる。

落ちて色が褪せていくノウゼンカズラ。
雨に打ち付けられて行き着く先はどこなんだろう。

濡れて黒々と浮き上がる塀の脇に鍵が固まっている。
この謎を解く鍵はなんだ?

ベゴが空を見上げて雨宿り?
「退屈して欠伸でもしったのが?」
「赤いベロば伸ばして雨でも舐めんのが?」
「ほごまでガスボイドんねがらモーゥ」

真っ赤な壁面一杯に広がるアルコール瓶。
真っ白なタチアオイはここぞとばかりにその白さを強調する。

地面から数センチの小さな花びら。
水滴をまといながらも大きなビルと対峙する勇気。

外に出されたテーブルの水滴に怖じ気づく傘たち。
「今日は外出すんのやめんべはぁ。
んだて濡れんのやんだものぉ」
傘達よ、濡れるのを怖がってどうする。

椅子に座る人など居るはずもない。
「んだからゆっくりと空ば眺めで、歌っているいのっだな」
雨に唄えば椅子も心は晴れる?

濡れた味わいとはこのことか。
しっとりとした小路に足跡を残していく楽しみ。

提灯の重りにされた石ころ。
「おまえは選ばれた存在なのっだな」
声を掛けても滴が垂れるだけ。

滴があんまり重くて、花びらが支えるには荷が重い。
やがて滴は膨らみすぎて地面に落ちていった。
花びらはその反動でビヨヨーンと空中に跳ねた。

「どだい雨が降っても外がどだなだが興味あるべした」
フェンスから顔を出してみたものの、周りには沈んだ光景が広がるばかり。

ユリは雨に息を吹き返したようにパキッと咲く。
栄町通りを走り去る車達の巻き上げる飛沫と風をいなしながら、
周りがどんな具合かアンテナを張って観察しているようだ。
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