◆[山形市]植木市・薬師祭り 薫風の中へ(2019令和元年5月10日撮影)

ゴミ集積所のネットに西日が当たる。
通り過ぎる人々の影だけがそのネットを擦っていく。

「みんな一オクターブ声が高ぐなてっずね。」
「お祭りだもしょうがないっだべ。」
通りに聞き耳を立てながら、看板と黄色い旗が、
一オクターブ低めに呟いている。

植木市の歴史は古い。
家並みまでも緑に覆われ、西日を浴びている。

ツツジは薫風を心地よく感じている。
「んねず、食べ物の匂いにクンクンしったんだず。」
飛び出た枝は漂う匂いで人々の嗜好を探っている。

「仮押さえにもほどがあっべ?」
電球は嘆くが、くつろぐおじさん達には届かない。

通りが南北に交差する場所に咲き誇る。
「一番良い場所っだずね。」
「しかも、間もなく母の日だし。」
カーネーションはウキウキが止まらない。

「何がかわいらしいキャラクターが主流だど思たら、
この頃はそうでもないんだが?」
空に浮かぶ狐に睨まれ、自分の目を疑う。

アスファルトのざらつきが、西日の影で際立ってきた。
「あっちゃあべ」「そっちゃあべ」「ほっちゃあべ」と
若者達の好奇心の言葉が空に発せられる。

西日が背中に当たり、手前に伸びるのは、
宇宙人のように頭でっかちになった影。

「おねえちゃんだ、こっちゃ来いぃ」
おじさんの声はむなしく路上に消え、
女子高生達はどこかへ立ち去った。

あまりの快晴に、串の文字がテラテラとまぶしく光る夕方前。

日差しを避け、薬師の杜に逃げ込む。
なんだか上から目線が気になって見上げれば、
子供達の視線と梢の囁き。

学校帰りか、闊歩する女子高生のなんと多いことか。
スマホ世代になっても薬師祭りが廃れることはないと安堵する。

定番のお化け屋敷も旧態依然。
いや、今年も来てくれ感謝する。
興味深げに内部を見つめる人々の表情も昔と同じ。

「いぐべぇ」
「やんだぁ」
「今行がねでいづ行ぐのぉ」
お互いにすったもんだのあげく、暗闇の中へ消えていく。

「玉コンと一緒に浮いっだのは昆布かなんかだが?」
「よっく見でみろほれ。若葉の影が映ったんだどれ」
初夏に向かう山形を玉コンの鍋に見つける山形らしさ。

警察だって薬師祭りの治安を守るのと同時に、
その雰囲気をも守っている。

「食ってけろーッ」
その声もむなしく、女子高生達は見向きもしない。
餅たちは自分たちの力足らずを俯いて反省する。

自分の去り際を悟ってボタッと落ちた椿は、
薫風を花びらに感じながら、少しずつ色褪せていく。

くゆる煙に光がわだかまる。
薫風は遠慮して、強く吹くことを遠慮する。

ハナミズキの花びらが散れば、いよいよ初夏が訪れる。
薬師堂の伽藍には夕方近くの光が斜めの角度で押し寄せて絡まっている。

「お客さんが押し寄せるもんだがらよぉ、鍋ば洗う時間もないくらいよぅ」
何かの石碑の裏側が水洗い場というのも気づかないおばちゃん。
タワシを持つ手が忙しなく動いている。

世代間交流なんて絵に描いた餅だ。
帽子を挟んでおじさんと女子高生は距離を取り、
まったく違う世界に身を置いている。

女子高生はとにかく群れる。

男は黙って一人の世界に浸る。

いよいよ陽が傾いてくる。
逆光の中でキラキラ光る水面に目を凝らす子供たち。

夕方が近づき、益々人の波は途切れることもない。
幟は薫風を全身で受け、人々の流れを見下ろしている。

藤棚も咲く時期を知り、その花弁を西日と薫風の隙間に垂らす。

「おかなぐないがら」
「ほだごどゆたて、へっぴり腰だどれ」
お互いを気遣う余裕もない二人は、夕日と薫風が見守っていることにも気づかない。

電線が勝手にこの範囲を撮るようにと四角形を造っている?

大木が地上で見せている幹や枝は体の上半身に過ぎない。
土の下の大地に食い込んだ部分は日の目を見ることもない。
日の目を見ない部分があって大木は生きている。

「今日は最終日だがら夜九時までったんねがよ」
「んだら早ぐ行がんなねべ」
足取りも軽く二人は植木市の方向へ歩み去る。
残された花びらに待っているのは、間もなく訪れる夜の帳。
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